LINE友だち募集中
【ペットの災害時対策】「ペットの命を守れるのは、飼い主だけ」札幌夜間動物病院院長・川瀬広大先生に聞く防災の重要性

【ペットの災害時対策】「ペットの命を守れるのは、飼い主だけ」札幌夜間動物病院院長・川瀬広大先生に聞く防災の重要性

 
川瀬 広大
札幌夜間動物病院
200HugQ
      

災害時の愛犬への備えを紹介する「愛犬のための防災対策」企画。今回の記事では「北海道胆振東部地震を経験し、防災への意識が変化した」と語る札幌夜間動物病院院長 川瀬広大先生に防災の重要性を伺いました。

プロフィール

川瀬 広大 先生

動物循環器認定医。RECOVER認定インストラクター。災害派獣医療チーム札幌VMAT講習受講。2007年酪農学園大学獣医学部卒、獣医師免許を取得。愛知県名古屋市内の動物病院で心臓外科を学ぶ。2012年酪農学園大学獣医学部大学院にて博士号取得。2014年より札幌夜間動物病院院長。2017年災害時の獣医師救護チームVMAT講習に参加。
続きを見る

目次

1匹でも多くの動物を治療する災害時の救急医療

はじめに、川瀬先生が院長を勤める札幌夜間動物病院について教えてください。

札幌夜間動物病院は、北海道初の夜間専門の救急動物病院で、年々患者さんのニーズが増えています。症例数は年間約5000件です。

札幌夜間動物病院2006年~2020年診察件数グラフ札幌夜間動物病院2006年~2020年診察件数

救急医療とは具体的に、どのような治療をしているのでしょうか?

動物救急医療での治療内容は大きく分けて二つ。ひとつは、一般の動物病院が休診の時間帯に、代わりに提供する時間外診療です。例えば、軽度の嘔吐や下痢、マダニがついたなど緊急性があまり高くない治療です。

もうひとつの救急医療は、交通事故や痙攣発作、出血などの緊急状態で生命の危機に晒されている重症動物への治療です。

患者は犬や猫の他、うさぎやハムスター、鳥などエキゾチックアニマルと呼ばれる動物も多く来院します。

日常と災害時での救急医療には違いはありますか?

通常時の救急医療は、1匹の重症動物に対して獣医師や動物看護師など多くのスタッフが治療にあたる「個体管理」になります。一方、災害時は「群管理」の治療をします。災害時では、患者である動物の数に対して獣医師や看護師、そして医療物資が圧倒的に足りない状況ですので、1人の医療スタッフが多くの動物の治療に当たる必要があります。つまりは、獣医療提供側と受ける動物の数にミスマッチが生じている状況になります。

「他人事」だった災害が他人事でなくなった日

2018年の北海道胆振東部地震発生時、札幌夜間動物病院はどのような状況になりましたか?

私がこれまでに体験したことがないほど大きく揺れました。地震発生時の深夜3時はいつもどおり開院しており酸素療法が必要なICUに入っている動物も入院している状態でした。

一番の想定外だったことが、緊急時に供給されるはずだった発電機が作動しなかったことです。院内のバッテリーで作動する医療機器はすぐに電力が消費され、すぐに使用できなくなりました。

混乱した状況の中、地震翌日などの病院ではどういった対応をしましたか?

翌日は電話も通じず、患者さんも来るかどうかわからない状況。病院を開けるかどうか、地震発生後から病院役員らとずっと話し合いをしていましたが、正直結論が出せずにいました。

そんな時、私の息子が熱を出してしまいました。どうすればよいのか焦りましたが、かかりつけの小児科の先生を訪ねたところ、停電の中でも必死に対応してくれたのです。

患者さんのために精一杯の治療をしている小児科医院のスタッフの方々の姿を見て、「私たちは救急なのに休んではいけない」と強く思い、私たちも開院を決めました。フェイスブックで開院の情報を発信したところ4000人以上のシェアがあり、ツイッターでも拡散いただきました。

フェイスブックで開院情報の発信

地震発生から来院した動物は、地震に驚いて飛び跳ねて骨折したうさぎ、落下した猫、前庭障害という病気で神経症状が出ている犬など。1時間以上タクシーを乗り継いでたどり着いたという飼い主もいました。

停電中病院を開ける札幌夜間動物病院停電中病院を開ける札幌夜間動物病院

「他人事」だった災害を体験して意識が変化

地震を経験されて、動物の救急治療に対する考えに変化はありましたか?

獣医療においても人命を最優先にするべき時がある。人命の安全確保が確認できてはじめて動物を治療できるのだと、身をもって経験しました。

この地震を経験するまでは、災害時も怪我をした動物のために立場上何がなんでも獣医療を提供するものと考えていました。しかし、信号のついていない真っ暗な中を運転したとき身の危険を強く感じ、スタッフの中にも連絡が取れない人がいました。幸い停電以外に大きな被害はありませんでしたが、もし自分の家が倒れていたら、道路が崩れていたらどうなっていたかと。とてもではありませんが、動物医療を提供できなかったのではと思います。

防災意識において、どういった変化がありましたか?

一番痛感したのは、準備不足でした。停電への備えができていなかったため、携帯電話のライトやランタン、懐中電灯で暗闇を照らして治療をしなくてはなりませんでした。

今まで東日本大震災や洪水などのニュースを見て「準備をしなくてはいけない」という意識はあったのですが、どこか他人事のように感じており、徹底した対策ができていませんでした。

災害当時は、ガソリンスタンドで給油できるところが限られ1時間待ち、電池も大変な勢いで売れて品切れになりました。ペット用品も同様です。

本来1人の人が買い占める必要はないのですが、不安から必要以上に購入をしてしまう。普段から備えていれば、物資不足による混乱を防ぐことにもつながります。

災害を経験したうえで、動物の救急医療で課題だと感じる点はありますか?

現在各地の獣医師会では災害時のマニュアルが作られています。しかし動物救護本部を立ち上げる獣医師自身が被災するとライフラインが途切れて動けないし、連絡すら取れないということを痛感しました。

そのため被災していない地域から、被災地にアプローチする仕組みが必要だと考えています。例えば札幌が被災したら、旭川からなど近隣から支援できるネットワークが常にあるような体制です。

先生ご自身はどのような活動をされているのでしょうか。

2011年の東日本大震災で多くのペットの救護が遅れたことを教訓に、2013年に福岡県獣医師会が結成されたVMATという災害対策組織があります。大阪VMATや沖縄VMATなど地方ごとに組織されており、各地域でVMAT講習会が開催され、現在日本全国に拡大してきています。獣医師以外にも動物看護師や自治体の方が参加しており、災害時に各分野で連携することを目指した支援ができることを目指しています。

また、飼い主さんへの緊急対応のレクチャーも必要です。そのため、私が所属する北海道獣医師会では、ペットの心肺蘇生シミュレーションを飼い主さんたちに体験してもらう機会などを提供しています。

札幌VMATメンバー札幌VMATメンバー

災害発生直後、ペットを守れるのは飼い主さんだけ

災害発生直後、ペットオーナーは何を優先すべきでしょうか?

まずは安全な避難所にペットと一緒に避難することです。現在、環境省が提示している「人とペットの災害対策ガイドライン」でもペットと一緒に避難する同行避難を強く推奨しています。同行避難と同伴避難の違いも注意書きがあるといいかもしれません。

同行避難できる避難所ではケージがストックされていますので、まずはキャリーで避難所へ逃げることを最優先してください。避難後、落ち着いたら次の行動を考えても決して遅くありません。

災害に備えてペットオーナーが最低限知っておきたい知識や備えはどのようなことがありますか?

ライフラインが復活し落ち着くまでの時間、ペットが生き抜くために飼い主さんは責任を持って準備をしておく必要があります。最低限の備えとしてペットフードや水のなどのペットの防災グッズを備えておくことが重要です。

そして日本に発生する災害の特徴は、洪水や津波などの水害が多く、また雨などで濡れる可能性があるので、可能な限り防災グッズの防水機能もあるか確認しておく必要があると思います。特にドライフードは、濡れると途端に衛生状態が悪化します。ペットの情報が記載された健康管理手帳も濡れると内容がわからなくなります。薬もチャック式のビニール袋に入れておきたいですね。

その他災害対策として、できることはありますでしょうか。

避難所など慣れない場所では、ペットはストレスから食欲不振や下痢など消化器系症状を起こしやすく、衛生面や臭いの問題になります。そのため、ウエットティッシュや臭いに対応できるものを用意しておくと安心です。お腹が弱い子は普段食べ慣れているものを与えることが必要です。

また、万が一ペットと離れてしまった時のために、マイクロチップの埋め込み後に獣医師会への登録を行ってください。そうすることでマイクロチップの読み込みから飼い主様とコンタクトを取ることができます。

最後に、防災対策をはじめるペットオーナーさんにメッセージをお願いします。

私自身ペットオーナーのひとりです。ペットは家族、避難時にペットと一緒にいられないことは精神的に非常につらくなります。

今後30年以内に多くの地域で震度6以上の地震が発生することが予測(出典:「全国地震動予測地図2020年版」(地震調査研究推進本部:文部科学省))されています。

災害は他人事ではありません。ペットの命を守るために、できることから防災対策をはじめていただければと思います。

北海道 札幌市西区
川瀬 広大
札幌夜間動物病院
200HugQ
  • twitter
  • facebook
  • LINE

記事制作にご協力頂いた方

「いいね♡」を押すとブログを書いた動物病院にHugQポイントが贈られます。
会員登録をしてあなたの「いいね♡」を動物病院に届けてください!

「ブックマーク」機能の利用には会員登録が必要です。