「犬と車でお出かけ①準備編」では、車に乗せるために必要なグッズやストレスを減らす練習を獣医師の市川 崇先生が解説。今回の「②移動編」では市川先生の愛犬・ナラちゃんが乗車をリアルに体験しました。家族全員の安全と快適を両立する移動中の対策を知っておきましょう。
市川崇先生
たかまる動物病院
目次
目的地に到着したら、
まずは安全を確保する
犬を車から降ろすときに気をつけることがあれば教えてください。
目的地に着いてカーゴスペースの後部ドアを開けると、犬は待ってましたとばかりに興奮していることが多いはず。キャリーケースの扉を開けると、いきなり飛び出してくる犬も珍しくありません。脱走防止のためにもまずは少しだけ扉を開け、リードを確実に装着してから外へ出しましょう。
目的地に着いたら犬をすぐ遊ばせても大丈夫ですか？
目的地が公園やドッグランであってもいきなり遊ばせるのではなく、周辺を散歩しながら体調や排泄物をチェックして異変はないか確かめておきます。のどが渇いているようであれば先に水を飲ませてください。
車酔いをしたらしく元気がありません……。
車酔いの症状の中でも嘔吐まではそこまで心配する必要はありません。一時的に元気がなくても、車から降りて散歩をしているうちに回復することもあります。ただし、ぐったりして動けない場合は脱水症状を起こしている恐れがあるので、あらかじめ調べておいた現地の動物病院を受診してください。
犬も含めて家族全員が楽しむための心がまえ
犬が喜びそうな行き先を臨機応変に考える
目的地に着いたけれど犬が楽しそうじゃない……という場合もあると思います。車酔いであれば1時間～半日程度休めば大抵は回復します。しかし飼い主さんの都合で予定を組んでいたら、犬が楽しめないのは当たり前かもしれません。泳いだことがない犬をプールに連れて行ったり、走るのが好きな犬をショッピングに連れ回したりしていませんか？
事前に「愛犬は何が好きか」と考えて計画を立てられればベストですが、現地に着いてからでも遅くはないので臨機応変に考えましょう。とくに保護犬はお出かけの練習をしたとしても、根底には繊細な部分が残っています。お出かけ先でゆっくり散歩できるように見守ることから始めてくださいね。
犬の食欲がないとき、その日は無理をせず休ませる
車での移動は意外と疲れるものです。犬の食欲がない場合は無理に食べさせず、持参したキャリーケースやソフトクレートの中でゆっくり休ませましょう。目的地のホテルやドッグカフェなどにある嗜好性の高い犬用のごはんなら食べるかもしれませんが、疲れているときは体調を崩しやすいので、食べ慣れたいつものフードにしておいたほうが無難です。
自宅の環境をお出かけ先で再現する
環境の変化が苦手な犬の場合、キャリーケース（ハウス）だけでなく、使い慣れた食器、ベッド、トイレトレーなども持って行ったほうが落ち着きやすくなります。自宅の環境をお出かけ先で再現するつもりで荷物を準備しましょう。
お出かけ先から自宅へ帰るまで気を抜かない
犬への注意が散漫になりがちなので帰宅前に体調を確認
お出かけ先では飼い主さんも非日常の状況に気を取られ、犬への注意が散漫になっていることが多いもの。帰る前に犬の体調を見ておいたほうがいいでしょう。車酔い対策として出発の1時間前に食事を済ませる、もしくは30分前に少量のごはんと酔い止め薬を与えてください。
［帰宅前の体調チェック］
□目や耳に汚れや寄生虫の有無
□足裏（肉球）の傷の有無
□排泄物の状態、おしりの汚れや寄生虫の有無>
行きより荷物が増えやすいので整理整頓を心がける
お出かけの帰りは使用済みの洋服やタオル、持ち帰るごみ、お土産などの荷物で雑然としがちです。僕も経験がありますが、「もう帰るだけだからいいや」と気が緩むからですよね。犬に家族の視線と空調が行き届くように、行きと同じくカーゴスペースを整理整頓しましょう。
無理せず休憩を増やし、安全確認を怠らない
帰り道は運転者も疲れが溜まっているはずなので、行き以上に休憩を挟んで安全運転を心がけてください。サービスエリアで犬を降ろして休憩した際は、出発前にしっかり安全確認を。信じられないかもしれませんが、カーゴスペースの後部ドアを閉め忘れて犬が飛び降りる事故が起きています。
帰宅後の体調チェックと
次回のお出かけへの備え
家に帰って気が緩むと体調を崩すことがある
お出かけの間は気が張っているので意外と元気に過ごせることが多いのですが、自宅に帰って安心すると体調を崩してしまう犬もいます。帰宅後も数日は体調を見て、気になることがあれば動物病院を受診してください。上部の［帰宅前の体調チェック］は、帰宅後にも再度確認するといいでしょう。
今回のお出かけの失敗を次回に生かす
犬と一緒に何かをすることは楽しく、とくにお出かけは際たるものです。もし車酔いをしてしまったとしてもあきらめないでほしいと思っています。次回のお出かけに備えて車に乗る練習から始めましょう。かかりつけの獣医師に相談すれば、別の酔い止め薬を処方してくれるかもしれません。
飼い主さんとの関係が犬のストレスを軽減する
犬は環境の変化や非日常的なことに敏感です。慣れない音やにおい、見たことがないものに対してストレスを受けているのではないでしょうか。僕はそのストレスを軽減しうる存在は飼い主さんしかいないと思います。
日ごろから犬が「家族と一緒にいれば安心・安全なんだ」と思ってくれるような関係づくりを心がけましょう。家族全員が個々に世話、遊び、散歩、トレーニングなどで犬と何らかの関わりをもつことによって信頼関係ができていきます。犬にとって頼れる存在が増えれば不安やストレスが減り、家族全員でお出かけを楽しめるようになりますよ。
市川先生といつもお出かけを楽しんでいる愛犬のナラちゃんは、車に乗ることも日常の一部になっているようです。①準備編、②移動編に続き、③到着・帰宅編でも落ち着いて撮影に協力してくれました。
今回の体験記事を通して、愛犬とお出かけしたくなった飼い主さんもいるはず。「関係づくりも見直すきっかけになったらうれしいですね」と市川先生。楽しいお出かけを目標に、互いの信頼を育んでくださいね！
取材にご協力いただいた病院
神奈川県横浜市瀬谷区瀬谷2-47-3
たかまるどうぶつ病院院長。子どものころから動物が好きで、猫を保護した経験もある。獣医師を志して酪農学園大学獣医学部獣医学科に入学後、畜産農家の祖父母の影響で大型動物（牛や馬）の獣医療にも関心をもったが、幼少期の自分を思い出して小型動物（犬や猫）の獣医師の道へ。同学卒業後は都内の動物病院に5年間勤務したのち、2007年に初代の愛犬の名前をつけた、たかまるどうぶつ病院を開院。休日には3代目の愛犬と一緒に家族でキャンプや釣りを楽しんでいる。
