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犬のてんかんとは?原因や症状に加えて発作が起きた時の対処法も解説【獣医師監修】

犬のてんかんとは?原因や症状に加えて発作が起きた時の対処法も解説【獣医師監修】

 
藤岡 透
倉敷動物医療センター・アイビー動物クリニック
0HugQ
      

てんかん発作はほぼ全ての哺乳動物で起こるとされていて、人間と同じように犬もてんかんを発症します。「倉敷動物医療センター・アイビー動物クリニック」の藤岡透院長に、犬のてんかんの症状や原因、治療法、発作が起きた時にやるべきことをうかがいました。

プロフィール
獣医師 藤岡 透  先生

藤岡 透 先生

倉敷動物医療センター・アイビー動物クリニック院長。岐阜大学農学部獣医学科を卒業後、愛知県の動物病院での研修を経て、東京大学獣医外科研究生として、さらにはウィスコンシン州立大学獣医学部にて研修を行う。2001年12月に「アイビー動物クリニック」を開院し、2009年10月には新病院を開院。専門外来として神経科、整形外科、歯科、腹腔鏡外科(低侵襲手術)・軟部外科、麻酔科、循環器科、腫瘍科を擁し、2021年9月には岐阜大学大学院連合獣医学研究科にて博士(獣医学)の学位を取得するなど、学びを重ねながら動物医療に貢献している。プライベートでは2歳のマルチーズ・凛ちゃんを溺愛する日々。
倉敷動物医療センター・アイビー動物クリニック
病院のInstagram

目次

犬のてんかんはどんな病気?
発作が起こる仕組みを解説

犬のてんかんとはどのような病気なのでしょうか?

獣医師 藤岡 透 先生

よく「てんかん」という病気の名前と「てんかん発作」という症状の名前が混同されることがありますが、それらは別物です。てんかんという病気を知るには、まずてんかん発作を正しく理解することが大切です。

神経細胞の図

てんかん発作が起こる仕組みの図

脳にはたくさんの神経細胞があり、細胞間で情報を伝える役割があります。正常な状態ではアクセルとブレーキのシステムが機能して情報伝達が行われていますが、何らかの理由でそのバランスが崩れると神経細胞に過剰な興奮が起きます。これがてんかん発作です。
そして一般的には、24時間以上の間隔を空けて2回以上のてんかん発作が起こった時に、てんかんと診断されます。

犬のてんかんの症状を教えてください。

インタビューに答える藤岡先生

獣医師 藤岡 透 先生

てんかん発作は、過剰な興奮が脳の一部に発生する焦点性発作と、脳全体に広がる全般発作に分類されます。焦点性発作は意識がある場合が多く、全般発作は全身性の激しいけいれんなどが起こります。

Pointてんかん発作の種類

  • 【焦点性発作】
  •  ・不安そうにして側を離れない
  •  ・震えがある
  •  ・よだれが出る
  •  ・フライバイト(小さな虫を追うような行動)をする
  • 【全般発作】
  •  ・全身のけいれんや意識喪失を伴う

犬のてんかんは命に関わる病気ですか?

獣医師 藤岡 透 先生

全般発作が時間を空けずに何度も起きる発作重積や、24時間以内に2回以上の発作(群発発作)が起こると、神経細胞がかなりダメージを受け、最悪の場合死に至るケースも考えられます。通常てんかん発作は1~2分で終わりますが、発作重積では5分以上続きます。群発発作の場合、日に5回以上の発作があれば重症とみなします。

てんかんにかかった犬の余命が気になります。

獣医師 藤岡 透 先生

抗てんかん薬を投与して発作をコントロールできれば、寿命は全うできます。発作重積がない場合の平均生存期間は11.3歳、発作重積を起こした場合は8.3歳というデータがあります。ただし、抗てんかん薬を多剤併用しても発作をコントロールできない難治性てんかん(薬剤抵抗性てんかん)の場合は、発作重積や群発発作を起こしやすい可能性があります。

犬に多い特発性てんかんと
脳の異常が原因の構造的てんかん

インタビューカット

犬のてんかんは何が原因で起こる病気ですか?

獣医師 藤岡 透 先生

犬のてんかんの原因は2種類あります。1つはMRIを撮っても脳に異常が見つからない特発性てんかん、そして脳の構造的な異常を原因とする構造的てんかんです。特発性てんかんは犬のてんかんの6割を占めています。

Pointてんかん型分類

  • 【特発性てんかん】
  •  ・犬のてんかんで最も多く、6割を占める。1―5歳の若齢に多い
  •  ・原因が特定できないもの、遺伝的要因がわかっているもの、遺伝的要因が疑われるものがある
  •  ・基本的に完治は望めず、抗てんかん薬の投薬治療をメインに行って発作をコントロールする
  • 【構造的てんかん】
  •  ・水頭症(1歳未満)、脳炎(1―6歳)脳腫瘍・脳梗塞・脳出血(8歳以上)といった脳の構造的な異常が原因
  •  ・以前は症候性てんかんと呼ばれていた
  •  ・根本原因を治療することで発作を抑えられる

てんかんを発症しやすい犬の品種や特徴はありますか?

獣医師 藤岡 透 先生

特発性てんかんが起こりやすい品種として、ビーグル、シェットランドシープドッグ、キャバリア、ラブラドール・レトリバー、ゴールデン・レトリバー、ダックスフンド、ポメラニアンなどが報告されています。

てんかん発作が起こった!
その時飼い主にできることは?

犬のてんかん発作が起きた時、
どう対処すれば良いですか?

インタビューに答える藤岡先生

獣医師 藤岡 透 先生

苦しそうな愛犬の姿を目の当たりにすると何かしてあげたくなりますが、体を触らずに発作が収まるのを待つのがベストです。初めて発作が起きた時はとても冷静でいられないと思いますが、発作は1~2分で収まります。落ち着いて、スマートフォンで動画撮影することをおすすめします。これを獣医師に見せれば、大きな診断の助けになります。

動画を撮影できない時は、犬の様子をメモに取ってください。また発作が起きた時の状況や発作前後の様子、持続時間なども伝えてもらえると助かります。

Point発作が起きた時に記録すること

  • ・どんな時に発作が起きたか(食事中、散歩中など)
  • ・発作の経過(震えはどこから始まったか、よだれは出ていたか)
  • ・発作前後の様子(飼い主の周りを離れない、ぐったりしている、元気そう)
  • ・発作が終わるまでの時間
  • ・発作の間隔

犬のてんかんと間違えやすい病気は、
ありますか?

獣医師 藤岡 透 先生

尿毒症など内臓の異常により、てんかん発作が起きることがあります。他には心臓が影響して起こる心原性失神、喜びすぎて全身が脱力してしまうナルコレプシーなども挙げられます。また最近チワワ、ダックスフンド、ポメラニアンで報告が多い発作性ジスキネジアという病気は、発作の持続時間が数分から数十分におよびます。一説にはグルテン過敏症が原因という発表があり、グルテンフリーの食事を与えることで発作が抑えられる場合があります。

犬のてんかん診断には
年齢などのデータや問診が重要

犬のてんかんは
どのように診断されますか?

獣医師 藤岡 透 先生

てんかんの診断で一番大事なのは、てんかん型分類です。特発性てんかんは1~5歳、構造的てんかんのうち、水頭症は1歳未満、脳炎は1―6歳、脳腫瘍、脳血管障害は8歳以上が好発年齢なので、まずは年齢、そしてどんな経過をたどっているかを問診します。そして身体検査や神経学的検査によって病気のタイプを調べます。実はいろいろな検査機器を使わなくても、個人情報と問診である程度の見立てができるんです。
その上で血液検査で内蔵に異常がないかを確認して、最終的には麻酔をかけてのMRI検査をします。

病院内のMRI室

犬のてんかんは
抗てんかん薬で発作をコントロールする

てんかんの治療について教えてください。

獣医師 藤岡 透 先生

構造的てんかんの場合は、脳腫瘍などの根本原因を治療することで発作を抑えられます。特発性てんかんの場合は、抗てんかん薬を投与して発作をコントロールします。一部の大学病院では人と同様に外科手術が研究されているものの、まだ確立した治療法ではありません。

インタビューカット

投薬治療で大切なのは、発作が広がらないようにコントロールをすること。バーベキューの火起こしの場面を想像してみてください。炭の芯部がほんのり赤くなり、良い具合に火が熾っているのが正常な脳の状態です。一部から小さな炎が上がっているのが焦点性発作、炎が全体に広がった状態が全般発作です。そして炎が広がらないように投入する氷や水が、抗てんかん薬です。水を入れすぎて火が消えることは、脳の活動停止を意味します。脳の活動を維持できるよう、薬の量をコントロールすることが大切です。

犬のてんかんは
いつから治療をスタートするのですか?

獣医師 藤岡 透 先生

特発性てんかんの治療開始目安は、3ヶ月に2回以上の発作とされていますが、最近では6ヶ月に2回以上の発作があってもスタートしたほうがいいという先生もおられます。発作の頻度は多くないものの発作重積がある場合、また脳に異常がある構造的てんかんは早期治療が望ましいですね。

犬のてんかん発作の予兆はありますか?

獣医師 藤岡 透 先生

犬のてんかんは予防ができない病気だからこそ、しっかりと発作をコントロールして病気と付き合っていくことが大切です。発作が起こったら冷静に動画やメモを取ることを心がけてください。

Point発作の前に犬がする行動例

  • ・部屋のすみに行きたがる
  • ・飼い主のそばから離れない
  • ・よだれが出る
  • ・足だけに震えが出る
  • ・元気な子が急におとなしくなる

犬のてんかんについて
藤岡先生からのメッセージ

てんかん発作とうまく付き合っていくことが大事

私も2歳のマルチーズを飼っているので、もしこの子がてんかん発作を起こしたらと思うと飼い主さんの心のダメージは容易に想像できます。
てんかん発作を管理することで犬自身のQOLを上げて、ご家族の精神的なダメージも和らげたい、その想いで日々診療にあたっています。

てんかんは予防ができず、発作を100%抑えることは難しい病気です。しかしお薬が効いてくれれば寿命を全うできます。だからこそうまく病気と付き合っていくことが大切だと思っています。

様子がおかしいなと思ったら早めにホームドクターを受診して、ぜひ早期治療につなげてください。それが動物の、そして家族の幸せにつながります。

獣医師 藤岡 透 先生

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