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犬の心臓病│早期発見につなげるポイントや予防方法を獣医師が解説

犬の心臓病│早期発見につなげるポイントや予防方法を獣医師が解説

 
草場 翔央
横浜みどり動物医療センター しょう動物病院
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高齢になると心臓病にかかる犬が多くなります。また生まれつき心臓病を抱えているケースも。具体的な症状や体調が気になったときのチェックポイント、日頃の生活の中で気を付けることなど、オーナーが気になる疑問を、横浜みどり動物医療センター しょう動物病院の草場先生に答えていただきました。

プロフィール
獣医師 草場 翔央  先生

草場 翔央 先生

横浜みどり動物医療センター しょう動物病院院長。日本大学生物資源科学部獣医学科卒業。千葉県や東京都の動物病院で臨床を経験した後、2017年に開業。「最期までこの病院で診てほしい」というオーナーの要望を受け、移転・拡充を経て2024年4月に院名も改め新スタートを切った。大切にしている診断のレベルをさらに上げるべくCTを導入し、相談の多い消化器科や皮膚科を始めとした幅広い領域において高水準の診療を提供することを目指している。
横浜みどり動物医療センター しょう動物病院

目次

犬の心臓病とは

犬の心臓病とはどのような病気なのですか?

インタビューに答える草場先生

獣医師 草場 翔央 先生

元々心臓は、血液を全身に送るポンプの役割をする臓器です。ひとたび心臓病になってしまうと、本来全身に送るはずだった血液が心臓内に溜まってしまい全身に送り出すことができなくなってしまいます。最初のうちは心臓も頑張ってくれますので、特別症状も出ませんし日常生活は問題なく送ることができます。
しかし、徐々に心臓が疲弊してくると貯留した血液のせいで咳が出てしまったり、肺に水がたまり呼吸困難になり食欲低下や運動不耐性を生じます。そして最後には心不全になり命を落とすことになります。

心臓病の種類

心臓の図

僧帽弁閉鎖不全症(MMVD)

左心房から左心室に血液が流れる時に通過する弁に異常が起こる病気で、高齢の犬では最も多く認められる心疾患です。

肺動脈狭窄症(PS)

心臓の弁が狭くなったり、うまく開かなくなる病気です。
好発品種:ビーグル、キースホンド、イングリッシュ・ブルドッグ、スコティッシュテリア、サモエド、ミニチュア・シュナウザー、ウェスティ、チャウチャウ、フォックス・テリア、コッカースパニエル、マスチフ

動脈管開存症(PDA)

胎児期に大動脈と肺動脈をつないでいる通り道が開いたまま残ってしまう病気です。
好発品種:プードル、ジャーマンシェパード、コリー、ポメラニアン、シェルティ、マルチーズ、ヨークシャ・テリア

大動脈弁狭窄症(AS)

心臓の弁のひとつが正常に開かず、心臓から全身に血液が送り出しにくくなる病気です。
好発品種:ニューファンドランド、ブラッドハウンド、ロットワイラー、ボクサー、ゴールデン・レトリバー

心室中隔欠損症(VSD)

右心室と左心室の間に生まれつき穴(欠損孔)が開いている状態です。
好発品種:イングリッシュ・スプリンガー・スパニエル

心筋症

心臓の筋肉に異常が生じる病気です。心臓の筋肉が厚くなってうまく動かなくなる肥大型、心臓の一部が固くなってうまく動かなくなる拘束型、心臓の収縮力が弱まる拡張型があります。その中でも、犬は拡張型心筋症の発生が多い傾向にあります。

不整脈

心拍数が早くなる頻脈性不整脈、心拍数が遅くなる徐脈性不整脈があります。

フィラリア症

フィラリアという虫が犬の心臓に寄生して血液の循環を悪化させ、心機能に障害をきたす病気です。

心臓病の原因

心臓の弁の問題が引き起こすもの、心臓の筋肉(心筋)の問題が引き起こすもの、その他の原因(先天的なものや感染症など)が引き起こすものに分けられます。

犬の心臓病(先天性)にかかりやすい特徴、年齢はありますか?

インタビューに答える草場先生

獣医師 草場 翔央 先生

後天性の心臓病の代表である僧帽弁不全症は、小型の高齢犬に多く発生します。キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルやトイプードル、ダックスフンドなどに多いとされていますが、個人的にはチワワやマルチーズが多く罹患している印象があります。

犬の心臓病を治療しない場合、
どんなリスクがありますか?

獣医師 草場 翔央 先生

心臓病を治療しない場合、初期には心臓が頑張ってくれているため顕著な症状が認められることはありません。しかし時間経過とともに心臓が疲弊し頑張れなくなってしまうと咳や呼吸困難、運動不耐性、失神、場合によっては腹水や胸水の貯留が認められるようになり、最終的には死に至ります。基礎疾患によって差異はありますが、先天性疾患の場合は肺高血圧症に、後天性心疾患は主に肺水腫に移行することが多いです。

犬の心臓病で最も多い
僧帽弁閉鎖不全症について

僧帽弁閉鎖不全症は犬がかかりやすい心臓病です。初期には「心臓の代償能力」といって心臓が頑張ることで全身状態を健康に保ってくれるので症状が出ず、気づきにくいのが特徴です。

心臓の弁に異常が起こる病気

左心房から左心室に血液が流れる時に通過する弁に異常が起こる病気です。僧帽弁がもろくなったり、厚くなったりすると弁の閉鎖機能が悪くなり、血液が本来と反対の方向へ逆流してしまいます。きれいな血液を全身に送り出せる量が減ることで、全身に酸素がいきわたらなくなります。一方で心臓に血液が貯留してしまい、心臓に負担がかかります。

進行した場合の症状を ステージごとに教えてください。

獣医師 草場 翔央 先生

犬の心臓病にはA、B1、B2、C、Dというステージがあります。ステージAからB1は基本的には無症状です。B1に関しては逆流はありますが心拡大はありませんし、心臓が頑張ってくれる状態にありますので目に見える症状はありません。

ステージB2以降になると、治療が必要です。心臓内の血液貯留が顕著になってくるため、咳が認められるようになります。心臓のうっ血が顕著になり全身に血液が送り出しづらくなると疲れやすくなり、食べムラなどの症状も認められるようになります。症状が軽度のうちは歳を取っていく過程に見えますので、飼い主様が気づかないことが多いです。

ステージC以降に関しては、顕著な咳や呼吸困難を認めます。食欲も著しく低下し、場合によっては入院による集中治療が必要になります。

ステージDはいわゆる末期な状態です。強心薬や一定の容量以上の利尿剤を使用しても治療が奏功しない状態をDと定義します。

犬の心臓病を早期発見するための
チェックポイント

心臓病を疑うべき兆候を教えてください。

インタビューに答える草場先生

獣医師 草場 翔央 先生

犬安静時に心臓の音が聴こえたり心拍が早かったり、抱っこしたときに鼓動が早く感じられるようになった場合には、病院で聴診をしてもらってください。食欲の低下や食べムラも心臓病の症状の場合があります。咳やお散歩中の疲れやすさなども受診の目安になり、日常生活で気を付けるべきポイントです。呼吸が荒い、苦しそうなどの症状は進行した僧帽弁閉鎖不全症に認められますので緊急性が高いことも覚えておいてください。

Checklist

  • □ 心雑音のチェック
  • □ 心拍数の測定
  • □ 呼吸数の測定
  • □ 食欲が変化していないかチェック
  • □ 被毛や皮膚の状態をチェック
  • □ 散歩の様子など、ペットの行動で変わったことがないかチェック

犬の心臓病の診断方法

犬の心臓病を診断するために、以下の検査を実施します。

・心臓超音波検査
・レントゲン検査
・身体検査
・心雑音検査
・血圧検査
・心電図検査
・血液検査
・血液ガス検査 など

犬の心臓病はどのように診断されますか?

インタビューに答える草場先生

獣医師 草場 翔央 先生

一番診断に欠かせないのは超音波検査です。特に僧帽弁閉鎖不全症に関しては超音波検査で診断がつきます。アメリカ獣医内科学学会(ACVIM)のステージ分類には、心臓エコー検査とレントゲン検査、聴診が入っていますので、最低限この3つは行うといいと思います。診断がついたのちに安全にお薬を始めるにあたって、血液検査や血圧検査が必要になってきます。

犬の心臓病の治療

犬の心臓病には投薬、運動における注意、口腔内疾患の治療を行います。

投薬

強心剤や降圧剤、利尿剤、交感神経遮断薬などを投与します。

運動の注意

過度な運動は心臓に負担をかけるため、心臓病を抱える犬には禁物です。普段の遊びや運動、散歩などでの対策を徹底します。

口腔内疾患の治療

口腔内の細菌が血液を通して心臓病のリスクを高めます。口腔ケアを丁寧に行い、症状が重くならないよう対策することが必要です。

心臓病にかかった犬の食事で
気を付ける点はありますか?

インタビューに答える草場先生

獣医師 草場 翔央 先生

心臓病の食事管理は適切な塩分制限と十分な摂取カロリーを意識して管理するようにしてください。特に進行した心臓病では栄養不良になることが多いので、しっかりと栄養を摂らせてあげることが重要です。一方で塩分は体にとって欠かせない栄養素です。初期の頃から塩分を控えすぎるのは推奨されていませんので、事前に獣医さんとよく相談してください。

咳を止めたり、症状を緩和させるために
有効な手段はありますか?

獣医師 草場 翔央 先生

僧帽弁閉鎖不全症で生じる咳は、左心房が大きくなり心房の上にある気管を押し上げることによって咳が生じます。そのため原則心臓の治療を強化することが必要です。しかし気管支疾患を併発することも珍しくありませんので、気管支拡張役や去痰薬、場合によっては低容量のステロイドや抗生剤を使用することもあります。咳を抑えるために心臓以外の治療薬を使用する場合は注意が必要です。

またご自宅でできることとしては、温度や湿度の管理やハウスダストの除去など環境の整備をしてあげられると良いと思います。心拍数や血圧は環境要因に左右されやすいため、室温はなるべく一定に保ち、湿度は40~60%を維持してあげると良いでしょう。

犬の心臓病を予防する方法

犬の心臓病は早期発見が難しい病気ですが、普段の生活や定期検診によって予防につなげましょう。

年齢や体調にあわせた食事・運動を心がける

体重が重すぎると心臓に負担をかけてしまいます。それに体重が重くなるほど多くの血液を必要とし、血管内部への脂肪沈着などにより血圧も上昇。肥満は心臓に大きな負担をかけるため、年齢や体調にあわせた食事内容、適度な運動で太りすぎを防ぐことが大切です。

定期健診に行く

かかりつけの病院への定期検診を欠かさないことも大切です。

<定期検診で行う検査一覧>
・問診
・血液検査
・尿/便検査
・レントゲン検査
・超音波検査
・MRI検査

心臓病をターゲットとした検査の種類や
受けるべきタイミングは?

獣医師 草場 翔央 先生

個人的には、幼少期と高齢期におすすめしています。 幼少期というのは、初めて病院に行くときに必ず聴診をしてもらうと良いと思います。動脈管開存症や肺動脈弁狭窄症などは、聴診で異常が見つかることがほとんどです。もちろん子犬の時に心臓のエコー検査をしてもらうとより安心だと思いますが、ワクチン接種プロトコールが済んでいない時期に病院に預けるのは感染症のリスクが増えるだけですし、わんちゃんに負担を強いるだけになってしまいますので注意が必要です。人間でも赤ちゃん検診があるのと同じように、生まれつき持っている病気がないか確認してあげましょう。

高齢期の検診の意義は慢性進行性の病気の早期発見です。高齢期の代表的な心臓病は僧帽弁閉鎖不全症ですが、稀に心筋症にかかってしまうこともあります。心筋症は聴診で見逃してしまうことがありますので、超音波検査を実施することをおすすめします。病院が角にストレスになってしまうわんちゃんに関しては、心臓バイオマーカーなども血液検査で見ることができますので、エコー検査の前に実施しても良いと思います。

当院ではワクチンやフィラリアの検診の時に心雑音を認め、心エコー検査で僧帽弁閉鎖不全症を認めることも多く、早期発見につながっています。そういった時期に発見できる場合はステージB1でのことが多く、薬物治療を行うことはありません。また定期検診を行うことで進行を防ぐ努力をしています。超音波検査は麻酔などが必要ない検査なので、ぜひ検診で受診することをおすすめします。

定期検診を初めて受ける際の
注意点はありますか?

インタビューに答える草場先生

獣医師 草場 翔央 先生

検査内容にもよりますが当日は絶食が必要な場合が多いので、必ず事前に検査する内容を獣医に確認しましょう。基本的に絶水は必要ありません。現在気になっていることや聞きたいことがあれば前もって受付で伝えておくか、メモなどに箇条書きにして持って行くと良いと思います。

草場先生からのメッセージ

飼い主の希望に応じた治療を提案できる獣医師に相談しよう

今回は主に心臓に関してお話しさせていただきましたが、心臓病以外にも人間と同じようにさまざまな病気が存在します。上手に定期検診を利用して、愛犬の「健康寿命」を伸ばしていきましょう!

獣医師 草場 翔央 先生

取材にご協力いただいた病院

神奈川県 横浜市緑区
草場 翔央
横浜みどり動物医療センター しょう動物病院
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横浜みどり動物医療センター しょう動物病院院長。日本大学生物資源科学部獣医学科卒業。千葉県や東京都の動物病院で臨床を経験した後、2017年に開業。「最期までこの病院で診てほしい」というオーナーの要望を受け、移転・拡充を経て2024年4月に院名も改め新スタートを切った。大切にしている診断のレベルをさらに上げるべくCTを導入し、相談の多い消化器科や皮膚科を始めとした幅広い領域において高水準の診療を提供することを目指している。

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