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犬の糖尿病とは?症状や治療方法も解説【獣医師監修】

犬の糖尿病とは?症状や治療方法も解説【獣医師監修】

 
佐藤 雅彦
      

生活習慣病の印象が強い「糖尿病」ですが、犬の場合は発症の原因が明らかになっていません。どんな犬にもリスクがあると考え、健康チェックで早期発見を心がけることが重要です。今回の「Vet's Advice! 犬の糖尿病」では、佐藤先生が症状の見分け方や長生きを目指す治療法を解説します。

プロフィール
獣医師 佐藤 雅彦 先生

佐藤 雅彦 先生

山口県出身。2005年に岩手大学農学部獣医学科を卒業後、東京の一次診療病院での勤務を経て、2011年に東京大学大学院の獣医学専攻課程で博士号を取得。その後渡米し、日本獣医専門医奨学基金の第1期生としてコロラド州立大学で小動物内科レジデントを修了。2018年に米国獣医内科学専門医(小動物内科)の資格を取得。帰国して東京大学附属動物医療センターで特任准教授を務め、2020年にどうぶつの総合病院 専門医療&救急センターの内科主任に着任。質の高い二次診療の提供とともに、学生や研修医への臨床教育にも力を注ぐ。
どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター

目次

犬によく見られる糖尿病は
インスリンが作れない「1型糖尿病」

犬の糖尿病とはどんな病気なんですか?
人間の糖尿病との違いを教えてください。

獣医師 佐藤 雅彦先生

まずは糖尿病を理解するために種類や原因を知っておきましょう。生き物は炭水化物を「糖(ブドウ糖/グルコース)」に分解して吸収し、血液中の糖を細胞が取り込んで体を動かすエネルギー源として利用しています。血液中を流れる糖を細胞に取り込ませる働きを担っているのが、膵臓で作られる「インスリン」というホルモンです。血液中の糖が増えすぎないように調節する役割もあります。
インスリンが十分に作られない場合や、インスリンの効きが悪い(うまく働かなくなくて糖を取り込めない)場合、糖を体内でエネルギー源として活用できず、血液に糖が増えすぎて「高血糖」の状態になります。増えすぎた糖が尿に混ざって出てくるので糖尿病といわれるわけですね。犬はインスリンが作られない「1型糖尿病」が大半を占めます。

インタビューに答える佐藤先生

Point

  • 1型糖尿病:インスリンが作られない(インスリン分泌低下)
    膵臓の機能が低下してインスリンが十分に作られなくなる。犬の糖尿病の大半を占めるが、人間では1割程度と少ない。犬が発症する原因はわかっていない(人間は自己免疫疾患といわれる)。
  • 2型糖尿病:インスリンの効きが悪い(インスリン抵抗性)
    インスリンはある程度作られているが、糖を細胞に取り込ませる働きが十分にできない。人間の糖尿病の9割を占めるが、犬では非常に少ない。人間では生活習慣病(肥満や食生活の乱れ)が原因になる。経過と共にインスリン分泌量も低下してくる。

早期発見に役立つ糖尿病の症状は?

獣医師 佐藤 雅彦先生

糖尿病の代表的な症状は「多飲多尿」です。糖の濃度を下げるため腎臓が糖を尿に移行して排出するようになり、尿の量や回数がとても増えます。すると体内の水分が足りなくなるので、水を飲む量や回数も増えます。「水をたくさん飲んだからおしっこが増えた」と勘違いする人もいますが、病気の場合は体内に水分を補給するために飲んでいるわけです。
「食欲亢進(多食)」と「体重減少」も知っておきたい症状です。糖が細胞に十分に取り込まれないので、必要な糖を補給するために食欲が増える一方、それでも足りずに体重が減るという矛盾が特徴です。これらの症状に気づいたらすみやかに動物病院を受診してください。

インタビューに答える佐藤先生

Checklist糖尿病が疑われる3つの症状

飼い主さんが不調に気づいて早めの受診に繋げることが重要です。糖尿病の代表的な3つの症状を確認しましょう。

  • ①多飲多尿
    飲水量は朝(犬が水を飲む前)ボウルに多めに水を入れて量り、翌朝(犬が水を飲む前)に残りを量って計算する。
    健康な犬の一日の飲水量の目安:1kg×50ml(5kgなら500ml、10kgなら500ml程度)1kgx100mlを超えてくると明らかな多飲。
  • ②食欲亢進(多食)
    食事量を変えていないのに催促するようになる(一時的に体重が増えるケースもある)。
  • ③体重減少
    食事量が増えても徐々に痩せる(糖を取り込んでエネルギーとして利用できないため)。

愛犬が糖尿病と診断されました。
合併症のことを考えると余命が心配です。

獣医師 佐藤 雅彦先生

糖尿病の合併症の一つは、糖が増えすぎた血液が血管を傷つけ、全身のあちらこちらに血管障害を引き起こすことが知られています。人間では治療が数十年に及ぶため血管障害の合併症が起きるリスクが高まりますが、犬は重篤な血管障害が起きる前に寿命を迎える場合が多いため、血管障害を過剰に恐れることはありません。
糖尿病の犬が注意したい合併症としては、「白内障」「膵炎」「膀胱炎」「腎盂腎炎」などです。糖尿病性ケトアシドーシスは、糖尿病の末期というより、その他の病気が重なった際に起きるのことが多いので、糖尿病の治療を行うとともに小さな異変を見逃さないことが重要です。もし犬がぐったりしていたら命に関わるのですぐ動物病院に連れて来てください。

インタビューに答える佐藤先生

糖尿病はインスリンを補給する治療で
寿命をまっとうできることが多い

動物病院ではどのような検査で
糖尿病と診断するのでしょうか?

獣医師 佐藤 雅彦先生

血液検査と尿検査をセットで行います。血液中の糖の濃度を示す「血糖値」と、尿中の糖の濃度を示す「尿糖」がどちらも高ければ糖尿病と診断します。その他の検査としてフルクトサミンや糖化ヘモグロビンといった、過去2~3週間程度の血糖値を反映する指標の検査を行うこともあります。

糖尿病の治療はずっと続けるべき?
方法について詳しく教えてください。

獣医師 佐藤 雅彦先生

犬の糖尿病の治療は、不足しているインスリンを投与して補い、多飲多尿や食欲亢進、体重減少などの症状を改善するのがゴールです。最初はインスリンの量を調節するために1~2週間に1回の検査でモニタリングを行い、適量が決まったら基本的に1日2回食後にインスリンを投与。獣医師に注射の方法を習い飼い主さん自身に自宅で投与していただきます。、1日2回の食後の血糖値のピークに効果が最大に出るタイプのインスリンを処方することが多いですね。
あとは飼い主さんが自宅で定期的に飲水量や食事量、体重を記録し、安定していれば動物病院では3~6カ月に1回程度の定期検診を行います。インスリンによる治療は生涯継続する必要があるものの、人と違い血管障害のリスクを心配する必要がないため、人間のように血糖値に常にモニタリングする必要がなく、犬と飼い主さんのQOL(生活の質)を保ちながら付き合っていく病気とも言えます。

糖尿病の食事療法食に
変えたほうがいいのでしょうか?

獣医師 佐藤 雅彦先生

インスリンの量は食事に合わせて血糖値が一定に保たれるように調整します。食事の内容や量、時間に一貫性をもって与えることが重要なので、じつは一般的な総合栄養食でも問題ありません。血糖値の上昇を多少抑えられる糖尿病の食事療法食(糖の吸収をゆるやかにする食物繊維を多く含む食事)なら、投与するインスリンの量を減らせる可能性はありますが、総合栄養食でもそれに合わせてインスリン量を決定してあげれば十分管理可能です。ただし、手作り食の場合は栄養も偏りますし、一貫性を維持するのは難しいため獣医師に相談してくださいね。

インタビューに答える佐藤先生

どんな犬にも糖尿病のリスクはある
健康チェックで早期発見につなげたい

糖尿病になりやすい犬種は?
特徴や年齢も知っておきたいと思います。

獣医師 佐藤 雅彦先生

糖尿病に関してはどんな犬も発症するリスクがあると思っておいたほうがいいでしょう。海外の研究では発症しやすいと指摘されている犬種もいますが、国や血統によっても変わります。強いていえば、もともと内分泌疾患(ホルモンの病気)をもっている犬や、高脂血症(血管に脂質が溜まって異常を引き起こす)のリスクがあるミニチュア・シュナウザーは、糖尿病にも注意したほうがいいかもしれません。
傾向としては中高齢から発症が増えるので、5~7歳ごろから自宅での健康チェックの一環で飲水量や体重管理を心がけましょう。避妊手術をしていないメスは、妊娠や偽妊娠(ホルモンの異常で心身に妊娠したかような変化が起きる)の影響でインスリンが効きづらくなり、糖尿病につながる可能性も。

犬の糖尿病を予防する方法はありますか?

獣医師 佐藤 雅彦先生

犬に多い1型糖尿病はまだ原因がはっきりわかっていません。おそらく遺伝的に何らかの要因をもっている犬は発症のリスクが高くなるのではないでしょうか。確実に予防するのは難しいかもしれませんが、万病の元になる肥満にさせないこと、メスは避妊手術を行うことでリスクを減らせる可能性はあります。


佐藤先生からのメッセージ

犬の糖尿病は健康チェックで早期発見

糖尿病は予防が難しいからこそ、飼い主さんの健康チェックで早期発見を目指しましょう。多飲多尿、食欲亢進(多食)、体重減少、この3つの症状を見逃さないこと。犬に多い1型糖尿病は、インスリンで血糖値をコントロールできれば、今までどおりの日常生活を送りながら長生きできる病気です。獣医師として飼い主さんが愛犬の治療に前向きに取り組めるように支えていきたいと思います。

獣医師 佐藤 雅彦先生

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