#HugQ(ハッシュハグ)がお届けする「プロペットオーナー」になるための講座。ペットオーナー大学。第2回(2024年6月2日開催)は札幌夜間動物病院 院長 川瀬広大先生を迎えて、わんちゃん、ねこちゃんに特化した防災対策を実践を交えてレクチャーしていただきました。
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目次
①発災時に起こることとは?
先生は2018年に北海道胆振東部地震を被災されれ防災の意識が大きく変わられたと伺いました。その時、町や病院はどんな様子だったのでしょうか。
夜中の3時ぐらいに大きな揺れがあり、まず電気が一斉に止まりました。朝になって外に出てみると、通常デジタル時計が点灯している札幌市のテレビ塔が消えていて、コンビニも真っ暗なままでした。
▲停電で店内が真っ暗なコンビニ
地震の時に、私の子どもが発熱して体調を崩したんです。地震直後にもかかわらずかかりつけの小児科の先生が診察してくれまして、「自分も病院を開かないわけにはいかない」と思い、地震翌日の夜から病院を開けました。その時の写真がこちらです。
▲ろうそくの灯りで通路を照らす様子
実際は写真で見るよりも暗く感じましたか?
本当に暗いですし、静かですし、普段とはもう全然違う光景でした。スタッフ2、3名だけなんとか集まることができましたので、いざ患者さんが来た時に動物病院の場所が分かるように準備しました。
地震が起こった直後に来た患者さんはどんな怪我でしたか?
ウサギさんと猫ちゃんが来院したのですが、2匹とも大きな揺れに対してパニック状態になったようで、ウサギさんは自分で飛び跳ねた勢いで背骨を骨折していました。猫ちゃんはベランダの網戸突き破って外に落下して怪我をしていました。
▲非常用電源で灯りをとっている院内の様子
地震からしばらく経つと動物たちの様子にはどんな変化があるのでしょう?
急に下痢をし始めたり、急に吐き気が出たり。食欲がなくなってしまった子たちが発災後2日後くらいから徐々に増えていったよう思います。
飼い主の不安な気持ちも伝わっちゃうんでしょうか。
それはあるかもしれないです。飼い主さんの顔色で動物たちが異常さを感じ取ってるのかもしれないですね。
今日は先生に直接いろいろとお聞きできる機会ですので、災害に備えて何を準備したらいいのかさっそく教えていただこうと思っております。 今回は先生が監修された#HugQから限定発売している防災グッズを参考にお話しいただきます。
▼限定発売している防災グッズはこちらから
②緊急時に必要なものとその理由
災害が起こった時、72時間は人命救助が優先されます。ですので大体3日間ぐらいは基本的にはペットオーナーさん自身でわんちゃん、ねこちゃんを守る必要があります。その時まず何よりも必要なのが水と食べ物です。実際にペットが1日どれぐらいお水を飲むかってご存知ですか?
猫を飼っていますが「よく飲んでるな」くらいしか見てませんでした。
わんちゃんの場合、おおむね体重1kgあたり50~60ml と言われています。ですから10kgのわんちゃんは500mlのペットボトル1本分ぐらいが必要です。3日ですと1.5L。準備するのが難しい方もいらっしゃるかと思います。今回の防災グッズでは水そのものではなく携帯用の浄水器を入れています。
▲防災グッズの浄水器は1つで500Lを濾過して飲み水にできる優れ物。
よくミネラルウォーターがペットにあまり良くないと聞くんですが、むしろその浄水器の方がいいんですかね?
ねこちゃんは特に尿石症の原因としてミネラルウォーターや井戸水が挙げられますので、こういうものはよいと思います。
あとは食事はどうしたらいいでしょう?
普段食べているペットフードを3日分小分けにして準備してください。災害時、ストレスを感じている環境では食欲は減りますし、普段食べているご飯でないと食べなかったりします。ですので、この防災グッズにはそれぞれで用意して入れていただくようにしています。グッズには保存食を少し入れています。
大型犬は相当な量が必要になりますね。
そうですね。でも地震によって物流が3~5日は止まると考えますと、やはり準備をお願いしたいです。
被災後、避難所での共同生活もあるかと思いますが共同生活で気をつける点はありますか?
排泄物によるトラブルの話はよく聞きますね。狭い空間でおしっこをして体が汚れてしまうとか、お腹をくだしたりするような子が多いので、除菌ができるようなウェットシートやペットシーツがあると衛生面でも安心だと思います。匂いを封じこめるこういったアイテムもあります。普通のポリ袋と比べると全然臭いが違います。
▲水を使わず結んでゴミ箱に捨てられることも重宝するポイント
災害時はペットもストレス感じていますが、人間もものすごいストレスを感じていることが多いので、ちょっとしたことがすごいトラブルにつながってしまいますので気をつけたいですね。
わんちゃん、ねこちゃんのストレス軽減させる工夫はないですか。
安心して過ごせる空間を用意してあげることです。今回の防災グッズにはこんな折りたたみケージを入れています。災害時に持って逃げるのは大変ですので畳んだ時に小さいかどうかは重要です。
▲想像以上に小さくたためて、大きく広がるケージ
ねこちゃんだと2、3匹は入れます。わんちゃんだと20~30kgぐらいの子だったら入れますね。猫ちゃんって実はトイレに結構スペースを取りますが、これならトイレも入れられます。
▲防災グッズに入っているトイレはケージとシンデレラフィットする
今回の防災グッズに猫砂を入れなかった理由はあるんですか?
ねこちゃんはすごくこだわりが強い動物ですので、猫砂が変わるだけでおしっこを我慢しちゃったりとかしますので、普段のものがよいからですね。
家でもこのケージに慣れた方がいいんでしょうか。
この中に入るんだよ、安心できる場所だよというのは慣れさせてあげたほうがいいと思います。普段使っているお気に入りの毛布などを中に入れてあげると災害時でもすごく安心できると思います。
他に準備したいものはありますか?
あとはリードですね。
▲犬にも猫にもつけられる万能なスリップリード
今回の防災グッズにはスリップリードを入れています。さっと首にかけてもらって首の太さに応じてしめるだけ。スリップリードならどんなサイズのわんちゃん、ねこちゃんでも対応できます。
ねこに使ってもいいんですか!?
もちろんです。猫に使っても問題ありません。日本ではあまり見かけない光景かもしれないですが、アメリカの動物病院では動物看護師の方がこのスリップリードを常に首にかけていて、わんちゃんやねこちゃんが診察台から逃げたらサッと捕まえるんです。
そうなんですね。ちなみに防災グッズの選定ではご苦労もあったかと思いますが、そのあたりいかがでしょう?
ペットも多様ですのでペットの防災グッズとして1くくりにはできません。ですので、まずは72時間を乗り切るために最低限必要なものをということで厳選しましたね。結構時間がかかって、何年もかかってやっと形になりました。
このグッズにもう1個だけ足すとしたら何を足しますか?
飼い主さんにしかできませんが、わんちゃん、ねこちゃんが好きなものをぜひ入れておいてほしいですね。おやつでもいいですし、普段使っているおもちゃでもいいですし、とにかく安心できるものを。
先生がグッズの使い方を交えて必要なグッズを紹介くださいます!
③平常時にしておくこと
災害が発生する前、平常時に用意しておくこと、やっておくべきことについて教えてください。
災害発生時に避難所に行く可能性がありますよね。その時に怖いのが感染症です。感染症予防のためにアレルギーがなければワクチン接種をしっかりしておくということがまず1つ。環境によってはダニやノミが集団発生してしまい大変なことになるということもありますので、ノミ・ダニの薬、フィラリアのお薬でしっかり予防しておいてください。
2つめに、マイクロチップ。ペットオーナーと一緒にいれれば問題はないのですが、もし迷子になってしまった場合に、どこの子なのかを識別するのに役立ちます。
あとは、逃げ出してしまった時に「この子を探してます」を伝えるために写真も準備できるといいですね。
写真は印刷しておいた方がいいんですかね?
停電や電波状況によってはスマホが使えないことも考えられますので、アナログな感じで写真を持ってもらったり、プリクラを撮っておいてもらってすぐに取り出せるようにしたいですね。
早速今日はこの後、私は印刷に走ります(笑)。あと先ほどから避難所という話が何度かでていますが、どこの避難所に避難するのかを調べておかないとですよね?
そうですね。大切なのは、ペットを連れて行ける場所がどこなのかを知っておくことです。ペット同行避難と言って一緒に連れてけるっていうところはあるんですが、中にはペットNGというところもありますので平常時に把握しておく必要があります。
ということで、今日はみなさんのお住まいの地域の避難所を調べていただこうと思います。それでは5分間とります。
平常時の備えについての先生のお話はこちら。
④避難シミュレーション
~各自が住む市町村のHPで避難場所を探しました~
災害時は、何回も言いますが携帯電話が使えないことが多いんです。自宅避難をされている方は情報がほとんど入ってきません。避難所は動物病院の情報が得られたりする貴重な場所ですので、行けるように準備しておくことが大切です。
シミュレーションの様子をご覧いただけます。
⑤デモンストレーション:応急処置
なかなかこういった機会もないので、皆さん、ぜひ集中して聞いていただければと思います。先生、お願いします!
災害時は、いろんなものが倒れたり落ちたりしていまして、パニックになって、走り回った時に、爪を傷つけてしまうということがあります。ペットの爪が折れちゃって、それを止血しなければいけないとか、あるいは肉球に何かが刺さってしまって出血しているとか、そういった時に、包帯をどう巻いていったらいいかをデモンストレーションしていきたいと思います。ちなみに今回のグッズの中には自着性包帯と言って、包帯と包帯同士がテープなしでペタっとくっつくものが入っています。
1. 基本的に出血している場合は圧迫して止血してください。押さえるのはティッシュでOK。傷口に異物が刺さっていたり、汚れがある場合にはまずはそれを洗い流してください。
2. 出血点を圧迫した状態で包帯をしていきます。上からで足に沿って縦の方向に包帯を乗せるような形で巻き、足先までぐるっと巻いたら、また胴体のほうにむかって伸ばしていきます。
3. 指を挟んで折り返して2重なるように巻いていきます。
4. そのあとは、今度は横向きに巻きます。
5. 足先だけ巻くだけではスポっと抜けてしまうので、上までグルグル巻いて完成です。
日本に1つしかない模型を使ってのデモンストレーションの動画はこちらから。
これ、先生練習しないと厳しいですね。我々素人は。
こういった包帯自体はいろんなところで購入できるものなので、1度ご自身のペットに練習させてもらってください。あと、小さいサイズのわんちゃん、ねこちゃんや足の短い子には腕だけでなく胴体にも包帯を巻く方法があるのでそちらは別途動画をご覧ください。
小さいサイズのわんちゃん、ねこちゃんや足の短い子への処置についてはこちら。
包帯の巻き方を別の角度からより詳しく見る。
⑥質問コーナー
講義の最後は参加者からの質問コーナー。川瀬先生が丁寧に教えてくれました。
薬は何日分あれば十分ですか。
ホルモンのお薬や心臓のお薬だとか、そういったものに関してはしっかり余裕を持って1週間分以上準備していただいた方がいいかと思います。動物病院自身が被災していて薬をすぐに出せないことも考えられますので。
家の中で避難する場合はどのようにすれば良いでしょうか。
いつでも逃げられるような状況を作っておいたりとか、あるいは避難所にも定期的に行って、新しい情報がないかを調べていただくのがいいかなと思います。
蛋白漏出性腸症の老犬です。 処方食が合わず手作り食です。被災時にはどういう風にご飯をあげたらいいか悩んでおります。
白いご飯にささみを3対1ぐらいの割合で与えるというのが一般的には超低脂肪食で使われているようなご飯です。もし可能であれば、そういった低脂肪食を冷凍しておいていただくとよいと思います。停電していてもしばらくはもちます。あとは、お水だけでご飯が炊けるようなグッズが最近ありますので、 そういったものを使っていただくのも方法の1つですね。
マイクロチップを埋めています。保護されれば確認してもらえるのでしょうか。
マイクロチップには識別番号が入っていますのでリーダーで読めば確認することができます。 ただ、マイクロチップが入っているからOKではなく、ちゃんと申請しておかないと番号はわかってもどこの子かわかりません。登録をしっかりしてください。動物病院でも対応してくれます。
ペットと同行避難した場合、ペットの滞在スペースは人の滞在スペースとは別ですか。
同行避難しても一緒にいられないケースは多いと思います。またペットのケージが全員分あるわけではないので、そういうものもご自身で準備する必要があります。自治体によってまちまちですので平時に確認いただくといいと思います。
ケージのサイズを教えてください。また、これは防水ですか。
横93センチ、奥行き50センチ、高さ47センチです。ゴールデンレトリーバーは入れますが、超大型犬は厳しいかなというサイズです。防水ではありませんがナイロン素材で多少の濡れは問題なさそうです。
バッグ自体は防水ですか。
防災グッズが濡れてしまっては困りますので完全防水です。中に空気を溜めれば浮き輪にもなり、水を運ぶこともできます。
質問コーナーをフルでご覧になりたい方はこちら!
⑦川瀬先生からのメッセージ
札幌夜間動物病院院長 酪農学園大学卒。獣医学博士、日本獣医救急集中治療学会理事長、日本獣医循環器学会認定医、RECOVER認定BLS・ALS指導医。北海道大学非常勤講師としても教鞭を取る。
川瀬先生
メッセージ
今回このような機会を設けていただき本当にありがとうございました。 私自身も地震や災害に対して見直す本当にいい機会になりました。ペットに対しての防災意識を皆さんに持っていただけると、本当にいざという時に助かる動物たちが増えます。災害は起こった時にはじめて「準備しとけばよかったな」と思うものですが、できれば明日起こっても大丈夫なように、すぐに準備をしていただけたらと思います。あとは、今回の防災グッズを見ていただき、何が必要かの参考にしていただけたらと思います。今日は本当にありがとうございました。