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「血液検査」で何がわかる?飼い主に伝えたい採血の基本と検査の必要性。血液内科・福岡 玲先生【獣医師インタビュー】

「血液検査」で何がわかる?飼い主に伝えたい採血の基本と検査の必要性。血液内科・福岡 玲先生【獣医師インタビュー】

 
福岡 玲
      

米国獣医画像診断専門医・栗原 学先生からバトンをつないでいただいたのは、東京大学大学院農学生命科学研究科附属動物医療センターで血液・免疫科を担当する福岡 玲先生です。動物の病気を臨床と研究の両面から明らかにすることを目標にしています。健康診断にも含まれる血液検査でわかることや、血液の病気を伺いました。

米国獣医画像診断専門医・栗原 学先生

プロフィール
福岡 玲先生

福岡 玲 先生

東京大学大学院農学生命科学研究科附属動物医療センター内科系診療科の血液・腫瘍内科特任研究員。2009年千葉大学理学部生物学科卒業後、獣医師を目指して帯広畜産大学畜産学部獣医学課程へ学士編入。卒業後は安田動物病院(兵庫県)に5年間勤務したのち、東京大学附属動物医療センターの研修医を経て2021年から現職。骨髄異常や貧血をはじめとした血液内科の症例を中心に診察および臨床研究を行っている。愛犬はチワワのカイちゃん(メス・13歳)

目次

理学部から獣医学部へ。帯広で牛に囲まれながら学ぶ

笑顔の福岡 玲先生

千葉大学理学部から、獣医師を目指して帯広畜産大学に入学されています。珍しいご経歴ですよね。

高校生の頃から獣医師を志望だったのですが、親と将来のビジョンがうまくすり合わせできず、最初は理学部に進学する道を選んだんです。動物に関わる基礎生物学を学べるのにも魅力を感じました。ただ、サイエンスの分野はかなりシビアで、学んだ内容を仕事にするのはほぼ無理とわかってきたんです。4年間大学で学んだ内容を仕事に活かせないのは納得がいかなくて親と話し合い、改めて獣医師を目指すことができました。
叔父と叔母が獣医師で帯広に住んでいることもあり、帯広畜産大学に学士編入しました。関東近郊では味わえない牛ざんまいの貴重な日々を過ごしましたよ(笑)。今は小動物の診察と臨床研究をしていますが、大動物が懐かしくなることもあります。

卒業後は学んだことを活かせる場を求めて、動物病院で勤務されたわけですね。

病気の原因や診断、治療はもちろん予防などにも幅広く関わる臨床研究ができたらいいなと考えていました。理学部時代に思考から結論へと導くトレーニングをずっと積んできたので、研究には興味があったんです。就職先を探しているときに、安田和雄先生(安田動物病院院長)は学会での研究発表に力を入れていると聞き、「勤務しながら臨床研究ができそう」と思っていたら希望がかなってうれしかったですね。

インタビューに答える福岡 玲先生

今は東京大学附属動物医療センターで勤務されていますが、街の動物病院との違いを感じますか。

一般的な話をすると、いちばん違うと感じるのは来院する飼い主さんの目的です。一次診療(街の動物病院)には動物の調子が悪いときにとりあえず連れてくる飼い主さんが多く、獣医師も検査なしで治療を始めて様子を見ることも少なくありません。飼い主さんの中には、検査のために動物に痛い思いをさせるのではないか、と不審感を抱く方もいるからです。

東京大学附属動物医療センター(二次診療施設)ではかかりつけ病院である程度の検査をしても診断がつかず、治療方針が定まっていない症例が中心です。飼い主さんは、検査をしっかりして診断をつけてほしい、どういう治療があるのか知りたい、と検査や治療に意欲的な方が多いと思います。東京大学附属動物医療センターでは診断にこぎつけることを使命とする空気があり、意欲的に診察を進められる環境だと思います。とはいえ、一次も二次も動物を助けるという目的に変わりはありません。

定期的な血液検査がおすすめ。体調や目的から判断して検査項目を決めることも大切

笑顔の福岡 玲先生

犬も猫も受けることが多いのが血液検査ではないかと思います。

血液検査は異常や病気を特定できるわけではないけれど、全身状態を把握できれば次に必要な検査や疑われる病気が絞れるので、最初の手がかりとしては重要な検査だと思います。検査の目的はそれぞれで、定期的な健康診断のセットになっていることもあれば、体調が悪いときに原因を見つけるために行われることもあります。年齢が上がると病気のリスクも上がるので、早い段階で異常を検知できる可能性がある血液検査を定期的に受けておくのはいいと思います。

検査する項目は広めに測って多くの項目を見るのがルーティンのように行われていますが、本来は動物の体調や検査の目的に合わせて考えることも必要ではないかと思います。基本的にどれくらいの項目を検査するかはかかりつけの獣医師と相談してくださいね。

動物病院が苦手な犬猫は、不安や緊張が検査結果に影響するのでしょうか。

多少は影響しますが、それより動物の負担が心配です。私の愛犬のカイも外では緊張しがちな内弁慶タイプなので、飼い主さんの気持ちはわかります。たとえば、受診のストレスが強いと考えられるワンちゃんやネコちゃんで、どうしても動物病院の受診が必要な場合は獣医師に相談して、先に飼い主さんが自宅で簡単な鎮静薬を投与してから来院する方法もあります。海外では動物福祉の観点から犬猫の負担を極力避けるために、処置や検査の前から積極的に鎮静薬が使われています。あとは飼い主さんから離れたほうが落ち着くこともあるので、安全に検査を行えることを優先して動物病院のスタッフに預けるのも一案だと思いますよ。

インタビューに答える福岡 玲先生

飼い主さんに血液検査に関して伝えたいことはありますか。

異常は検査をしなければわからないことが多い代わりに、動物医療の発達で検査をすればわかることも増えています。理由がわからないまま不調を繰り返すより、かかりつけの先生と相談して必要な検査を受けてください。基礎的な身体検査で病気が見つかることもあって、コストパフォーマンスがいい検査もあるんですよ。

あと、採血は後ろ足から行われることが多いですが、獣医師向けの教本では首の血管から太めの注射針で採血することが推奨されています。後ろ足の細い血管から採血した血液は凝固しやすくて正しい検査値の解釈ができなくなるからです。実際に「血液検査で異常値が出た」と紹介された犬猫を私が再検査したら、問題ないケースもわりとあるんですよ。首に注射針を刺したら驚くかもしれませんが、首からのほうが比較的安全に早く終わり、正確な結果が出やすいことを知っておいてくださいね。

血液の臨床研究を続け、医療のアップデートを目指す

インタビューに答える福岡 玲先生

福岡先生に診察をお願いする場合、飼い主さんに頼みたいことは?

すでに異常があってホームドクターから紹介されるケースが多いので、私は全身状態を確認するために血液検査を広めに見ています。飼い主さんには過去の血液検査の結果を持ってきていただきたいですね。これまでの検査結果を確認できれば数値がもともと低いのか、最近急に変化してきたのか、といったことがわかります。どういう推移かわからないと検査をゼロから始めなければいけなくなり、飼い主さんにも犬猫にもデメリットになりますから。あとは体調に関する情報も書面でまとめていただけると助かります。

精密検査にあたる骨髄検査が必要な病気について教えていただけますか。

まず血液のしくみから説明すると、骨髄は赤血球などの血液細胞をつくる「工場」、血液は工場で作られた製品が並ぶ「店舗」のようなものです。工場と店舗のどちらにどのような問題が起きているかで病気が分かれます。たとえば工場である骨髄の問題であれば、製品が作られていない、製品を作るのを妨げる様なトラブルが起きている、不良品がどんどん作られてしまって正しい製品が店舗に提供できない……といった異常が考えられます。国内のミニチュア・ダックスフンドには血液細胞の不良品ができる骨髄異常が多いことが明らかになっています。

血液細胞の数に異常があるときには骨髄検査を検討しますが、全身麻酔が必要になります。そこで先に動物に負担をかけなくて済む血液検査やレントゲン、エコー(超音波)で徹底的に診て、それでも原因が見つけられない場合は骨髄検査が適応になることが多いですね。

インタビューに答える福岡 玲先生

血液の凝固しやすさについても研究を行っていると伺っています。

勤務医時代に犬猫の血液の凝固しやすさ(凝固充進マーカー/TAT)を調べられる血液検査機器に出会い、理学部出身の血が騒いで学会発表もしました(笑)。血液が異常に凝固しやすくなる=血栓ができやすくなる原因はさまざまですが、大もとの病気を治療することが大前提です。ただし、血栓がたくさんできてしまって、人で言うところのいわゆるエコノミー症候群になれば犬猫も命に関わります。手遅れになる前に先手を打って凝固しやすさを調べ、血液凝固を抑える治療も必要に応じて行うべきではないかと考えています。

インタビューに答える福岡 玲先生

最後に、獣医師としての目標や使命を教えていただけますか。

1頭でも多くの命を救うというのは獣医師をやるうえでは大前提なので、あまり使命とは思っていないんです。臨床研究が自分にとってやりがいなので、明らかになっていないことを明らかにし、より多くの動物と飼い主さん、獣医師がメリットを受けられるように医療のアップデートに貢献するのが目標です。獣医師や研修医のみなさんにも臨床研究の魅力を共有できるように発信していきたいと思っています。

米国獣医画像診断専門医・栗原 学先生のバトンの回答

質問をする栗原先生栗原先生

Q1.一次診療の動物病院から東京大学というアカデミア(教育機関)に戻った理由を教えてください。

質問に答える福岡 玲先生福岡先生

以前勤務していた安田動物病院では年2回くらいの学会発表がノルマで、臨床研究ができる環境が整っていました。それでもアカデミアへ戻ろうと思った経緯としては、大学のほうがさまざまな症例が集まるうえ、検査も積極的に行われているからです。臨床しながら研究もできるなら、さらにステップアップした活動が可能になると思って東京大学に移ることにしました。

質問をする栗原先生栗原先生

Q2.内科の中でも血液をメインとして臨床・研究を行なっている理由と、その決め手も教えてください。

質問に答える福岡 玲先生福岡先生

血液を顕微鏡で観察すると病気の異常所見が見えるのが興味深いというか、視覚的に入ってくる情報をリンクさせるのが性に合っているのかもしれません。ただ、学生の頃は血液に関して専門的な教育を受けたり症例を診たりする機会には恵まれず、あったのは国家試験のために勉強していた知識だけ。勤務医時代に安田先生から「血液に関する新しい検査機器を研究に使ってみないか」とお話をいただいて本格的に血液の研究を始めました。

日本小動物医療センター・篠宮佑季先生へのバトン

Q1.学生時代から皮膚科や耳科の高い専門性を持っているのにも関わらず、別分野とも言える消化器内科の二次診療施設に身をおいている理由はなんでしょうか?
Q2.将来的にどの様な活動を目指していますか?取得したい資格などがあればそれも含めて教えて下さい
Q3.まだまだ国内に浸透していない検査や処置・治療があれば教えて下さい(消化器内科・皮膚科・耳科いずれの分野でも構いません)

東京大学大学院農学生命科学研究科附属動物医療センター

東京大学大学院農学生命科学研究科附属動物医療センター

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