オーナーさんのお悩みに獣医師がお答えする企画「ペットのお悩み相談室」。第7回のゲストは、フレンチ・ブルドッグのnicoくん。オーナーの柳さんの質問にお答えいただくのは、「お悩み相談室」おなじみの獣医師、中村篤史先生です。日本の救急医療の現場で多くの動物の命を救い、現在は海外を拠点に活躍中です。8歳を迎えたnicoくんのシニア対策やIBD(炎症性腸疾患)と上手に付き合うポイントを中心にアドバイスをお願いしました。
nico
SNSアカウント: Instagram @yanagi_nico
中村 篤史 先生
【前編】はこちらからチェック
お肌やおなかが弱くても元気いっぱい!シニアになってもかなう健康維持とクオリティ・オブ・ライフとは(前編)
目次
SNSでバズったnicoくんの、このショット!獣医師はどう見る?
「米っ歯(こめっぱ)」がなくなった……歯磨きのコツは?
nicoの口からチラッと見える下の前歯がお米みたいだから「米っ歯(こめっぱ)」と呼んでいたんです(笑)。歯石除去と抜歯をしたときに「米っ歯」が1本になり、残りも歯槽膿漏で先日抜けてしまいました……。
前歯がなくても食事には不自由しないと思います。家庭犬は野生のオオカミみたいに前歯を使って肉を裂いたりこそげたりする食べ方をしないじゃないですか。でも噛む動作には歯垢を落として唾液を出し、口内をきれいにする効果があります。デンタルガムやおもちゃを噛ませましょう。
じつはnicoくんが歯槽膿漏というのは意外でした。フレンチ・ブルドッグは歯並びが悪くて隙間が多い代わりにゴミが溜まりにくく、歯周病になりにくいはずなんです。
nicoはIBDを発症してから完全に手作りごはん。消化に負担をかけないように肉も野菜もミンチにしているから噛む必要がないんです。そういえばおもちゃも全然噛みませんね。
デンタルガムは2回くらい噛んで飲み込んじゃいましたね。意味がなかったと思います。
日常であまり噛む機会があまりないのは気になります。噛む動作はストレスの発散にもつながるんですよ。大型犬用の大きいデンタルガムをオーナーさんが持ったまま噛ませてみては?
毎日歯磨きをしているのに歯垢がついてしまうのも悩み。とくに歯ブラシでは裏側が磨きづらくて困っています。
歯をフッ素でコーティングすればある程度は歯垢がつきにくくなるので、歯磨きジェルを塗ってみてください。歯ブラシではなく歯磨きシートを使うほうが磨きやすいかも。ただしシートを飲み込む犬がいるので指にしっかり巻いて押さえましょう。
プールでダイエットと筋力トレーニングを目指す
夏は熱中症が怖いから散歩を控える代わりに、運動不足解消したくてプールに連れて行きました。nicoは泳ぐのが苦手なんですけどね(笑)。
泳ぎ慣れていない犬にはnicoくんのようにライフジャケットをつけると安心ですね。運動だけで痩せさせるのは難しいかもしれないけれど、熱中症対策を兼ねたトレーニングになります。水中では足腰に負担をかけずに筋力トレーニングができるのでおすすめですよ。
じつは背骨のレントゲンを撮ったら正常ではない状態で……。
残念なことですが、フレンチ・ブルドッグの7~8割に背骨の奇形があります。痛みを予防するためにも愛犬の状態を把握しておくことは大切ですね。関節を保護するためのグルコサミン入りのサプリメントを飲み始めてもいいと思います。
納豆が大好物です。犬にも腸活はあり?
手作りごはんに加えて腸活にも力を入れています。サプリメントや納豆をあげていると便の状態もいいんです。
腸内細菌叢を整えるプロバイオティクスが注目されていますよね。犬の場合はどんな菌がどんなふうに作用しているかわかっていなくてエビデンスがないけれど、人間と同じでダイバーシティが重要だといわれています。善玉菌だけでなく中立菌(日和見菌)や悪玉菌を含めていろいろな菌がバランスよくいる状態ですね。
nicoには今の食事や腸活は合っているでしょうか?
IBDの犬には低脂肪高繊維の食事が基本です。腸内細菌叢に関しては、特定の食材ではなくさまざまな食材の組み合わせが関係している可能性もあるので、そのときのnicoくんが食べていて調子がよいかどうかを確認しながら与えることが大切だと思います。腸内細菌叢が悪くなれば毛づやが悪くなり食欲が落ちたりしますから。
IBDの治療にはステロイドが大切なことはわかっていますが、投薬以外にもできることがあれば知っておきたいと思います。愛犬がIBDで闘病中のフォロワーさんからも聞かれることが多くて。
一部の大学や動物病院では健康な犬の便を移植する糞便移植療法(FMT)という治療が行われています。もとは人間の治療法で、さまざまな病気に対する効果が検証されているところです。獣医療でも新たな治療法として期待されているんですよ。nicoくんに適応になるかどうかはかかりつけの獣医師に聞いてみてくださいね。。
nicoくんのお悩み相談室は、中村先生と柳さんが「自分が病院に行きたくない」と思いがけず意気投合するシーンもあり、笑いの絶えない対談になりました。「IBDの最新情報はもちろん、オーナーとしての気の持ちようも教えていただきました」と柳さんの感謝の言葉に対し、「フレンチ・ブルドッグのオーナーは仲間だと思っています」と返す中村先生。最後は名残り惜しそうにnicoくんを見送っていました。さて次回は、どんなワンちゃん・オーナーさんが登場するのか、どうぞお楽しみに!