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Vet’s Advice! 犬の関節炎【膝蓋骨脱臼編】

Vet’s Advice! 犬の関節炎【膝蓋骨脱臼編】

 
古田 健介
横浜青葉どうぶつ病院
302HugQ
      

トイ・プードルやチワワなどの小型犬に多い関節疾患が「膝蓋骨脱臼」です。通称、膝の『お皿』と呼ばれることのある膝蓋骨が正常な位置からずれることで、痛みや歩行困難などの症状を引き起こします。膝蓋骨を指す「パテラ」という表現が広まっているため、正しい病態が伝わりにくい病気の一つです。「Vet's Advice! 犬の関節炎・膝蓋骨脱臼編」では、古田先生に膝蓋骨脱臼の原因や治療、飼い主ができる日常生活の対策について教えていただきました。

プロフィール
獣医師 古田 健介先生

古田 健介 先生

横浜青葉どうぶつ病院院長。北里大学獣医畜産学部獣医学科卒業。在学時から小動物第一外科学研究室に所属し、勤務医として経験を積んだあとは大学病院で研修医として多様な外科手術を学ぶ。2015年に横浜青葉どうぶつ病院開院後は、院長として整形外科を専門領域に手術や治療を行う。関節疾患のセカンドオピニオンをはじめ他院では難しい症例にも対応している。。
横浜青葉どうぶつ病院

目次

膝のお皿がずれる「パテラ脱臼」について
整形外科の獣医師に聞く!

愛犬が「パテラ」のようですが、
どういう病気なんでしょうか?

獣医師 古田 健介先生

「パテラ」とは膝のお皿ともいわれる「膝蓋骨」(名称)のこと。膝のお皿は溝にはまっているのが正常な位置ですが、内側や外側にずれてしまう状態が「膝蓋骨脱臼」もしくは「パテラ脱臼」です。「パテラ」という通称が広まっているものの、本来はずれ方によってさまざまな病態があり、犬1頭1頭の状態に合わせて治療法を考えなければいけない複雑な病気です。

Column

 

英語ではパテラ=膝蓋骨のこと。
パテラ=病名のように捉えている方もいますが、膝蓋骨の名称なのです。

用語解説

レントゲン写真レントゲン写真

歩き方がときどきおかしい気がする……。
様子を見ていても大丈夫ですか?

獣医師 古田 健介先生

パテラの脱臼の度合いに応じて軽症から重症まで「グレード」で分類されています。グレードは脱臼の度合いを表した基準であり、治療方針を示すものではありません。グレード1であっても手術をしたほうがいいケースもあり、グレードを治療の基準にするのは必ずしも正解ではないことを知ってほしいですね。

Pointパテラ脱臼のグレード

  • グレード1:膝のお皿が溝に乗っている、何かの拍子にずれてもすぐに戻る
  • グレード2:膝のお皿が溝に乗ったりずれたりを繰り返している、後ろ足を伸ばすと戻る
  • グレード3:膝のお皿が常にずれている、人が手で押すと戻る
  • グレード4:膝のお皿が常にずれた状態で元の位置に戻らない

どのようにパテラ脱臼と診断するのでしょうか。

獣医師 古田 健介先生

整形外科に詳しい獣医師であれば、触診だけである程度わかると思います。犬が後ろ足のトラブルで受診される場合は跛行(はこう/足を引きずって歩く)を主訴とすることが多く、歩き方にも変化が現れるポイント。膝の状態を詳しく確認するためにはレントゲンを撮ったほうがいいですね。

ただし、膝蓋骨脱臼の場合、年1回の健康診断で見つかるケースもよくあります。飼い主さんとしては愛犬が元気だと思っていたのに病気と言われたらショックですよね。そんな気持ちのときに矢継ぎ早に検査をすすめられたら冷静に考えられなくなってしまうのではないでしょうか。思いがけずパテラ脱臼と診断された場合は、獣医師の説明を受けて必要に応じて検査や治療を進めることが大切だと考えています。

膝のお皿を触って診断する風景膝のお皿を触って診断する風景

様子を見ているうちに歩けなくなることも!
病気のサインに気づいたら動物病院へ

パテラ脱臼の治療のことを
詳しく教えてください!

獣医師 古田 健介先生

膝蓋骨脱臼の原因治療は手術しかありません。手術は膝のお皿をあるべきところに戻してずれないように安定化させる方法です。両足ともに脱臼しているケースも少なくなく、脱臼の度合いやずれ方、膝の状態を踏まえて左右で異なる手術方法になることも少なくありません。術中にチェックしながら進めてもイレギュラーなことが起きるので、整形外科をメインで診ている獣医師でなければ臨機応変に対応するのは難しいのではないでしょうか。

また、手術で必ずしも完治を目指せるとは限りません。若齢は膝のお皿が正常な位置に戻ろうとする力が残っていますが、高齢になると経年的な変化や軟骨の摩耗の問題があって難しい部分もあります。状態によっては手術より関節疾患の薬やサプリメントを飲みながら付き合っていくことも選択肢になります。必ずしも全ての子が手術適応というわけではなく、1頭1頭見極めながら適切な対応が必要です。

膝のお皿を安定化膝のお皿を安定化

様子を見るか手術をするか、
どういうところで判断できますか?

獣医師 古田 健介先生

整形外科の獣医師としては、症状の有無が手術に適合するかどうかで判断します。下記で紹介する「飼い主が気づける膝蓋骨脱臼のサイン」が継続して見られる場合は注意が必要です。例外として、明らかな臨床症状が見られなくても生後数カ月でグレード3以上の状態であれば早めに手術を検討したほうがよいでしょう。若いころは成長によって治ることを期待しがちですが、筋肉がつくことで膝のお皿を引っ張る力も強くなり、骨の変形にもつながります。

ただし逆に「後ろ足のつま先が内向きだから」という理由だけで手術をするのは医療のやりすぎ。パテラ脱臼でもそのまま不自由なく一生を終えられる犬も少なくありません。整形外科に詳しい獣医師に相談して犬の症状に合わせた治療計画を立てましょう。

Column

ワンだふる!深掘アドバイス

リハビリテーションの方法

術後は少しずつ日常生活の動作を解禁していくことがリハビリテーションになります。僕は4本足で立つこともリハビリだと考えています。リハビリ施設でバランスボールやトレッドミルなどの器具を使うのも一案です。膝蓋骨脱臼の手術を適切に行えば、再発の可能性はかなり低くなります。飼い主さんには術後2週間から1カ月が経過して問題なければ安心だと伝えています。

古田 健介先生

パテラ脱臼を発症しやすい犬種に
おすすめの日常生活の対策

パテラ脱臼の原因と
注意したほうがいい犬種は?

獣医師 古田 健介先生

原因はまだ特定されていませんが、膝蓋骨脱臼を発症しやすい犬種がいるので遺伝的な背景は否定できないと考えています。飼育頭数が多いことを加味しても、トイ・プードル、チワワ、ポメラニアン、柴犬によく見られます。小型犬は内側、大型犬は外側への脱臼が多いのが特徴です。

犬種に関係なく足をひねった拍子に膝蓋骨脱臼を起こすこともありますが、もともと遺伝的に発症しやすいリスクがあって、事故はそのきっかけにすぎないのかもしれません。正直なところ注意していても発症してしまう場合もあるので、生活に過剰な制限をかけるよりは適度な散歩や運動を楽しんでくださいね。予防が難しい病気ですが、膝蓋骨脱臼につながるけがのリスクを減らすことが対策になります。

Point日常生活の注意

  • 体重管理を心がける
    肥満は関節だけでなくさまざまな病気の原因になります。動物病院で愛犬の適正体重を確認し、維持するように心がけましょう。
  • ボール投げを控える
    投げたボールを犬がキャッチしてターンするとき、後ろ足を軸にして回転した拍子に足がねじれてしまうのが危険です。膝蓋骨脱臼はもちろん前十字靭帯損傷のリスクもあります
  • 滑りにくい床材を使う
    フローリングにはタイルカーペットを敷いたりワックスを塗ったりするのも一案。繊維が立っているカーペットは爪を引っかける可能性があるので避けましょう。誤飲の心配がない場合はコルクタイルやジョイントマットも選択肢に入ります。
  • 階段の上り下りを避ける
    段差が大きい階段やソファを上り下りするときの体勢は関節に負担がかかります。階段を避けたりスロープを使ったりしましょう。
  • 足裏の毛を短くカットする
    肉球には動作の衝撃をやわらげるクッションや滑らずに止まれるブレーキの働きがあります。足裏の毛は肉球にかからないくらいに短く切っておくのがポイント。

足の形や歩き方が個性に見えそう……。
わかりやすい病気のサインを教えてください。

獣医師 古田 健介先生

整形外科の分野は診断や治療が難しく、膝蓋骨脱臼も「膝がちょっと悪いのも個性のうち」「痛がっていないから様子を見よう」と、治療のタイミングを逃してしまうケースが非常に多いんです。飼い主さんから見て日常生活の中で「何だかおかしいな」とクエスチョンがつくことが続くのであれば、整形外科をメインに行う獣医師にセカンドオピニオンを検討してほしいですね。

X脚になっているX脚になっている

Checklist飼い主が気づける膝蓋骨脱臼のサイン

  • *成長や加齢によって現れる
  • □後ろ足のつま先が内側・外側を向いている
  • □がに股・内股になっている
  • □O脚やX脚になっている
  • □カクンカクンとぎこちなく歩いている

  • *ある日突然、現れる
  • □後ろ足を上げている
  • □後ろ足をかばうように引きずって歩く
  • □急に「キャン」と鳴いて動かなくなる


古田先生からのメッセージ

早めの治療で生活の質を守る!

膝蓋骨脱臼は命に関わらないけれど、生活の質を下げてしまう可能性のある病気です。関節疾患の中でも非常に多いため「ありふれた膝の病気」というイメージが浸透してしまい、心配しつつも様子を見ているうちに治療が遅れるケースがとても増えています。これは飼い主さんだけでなく獣医師サイドの問題でもあるのではないでしょうか。動くたびに痛い、歩くたびに違和感がある……と想像してみればつらさがわかりますよね。愛犬が快適に暮らせるように関節の健康にも気を配り、心配なことがあれば早めに獣医師に相談してください。

動物病院の前に立つ古田先生

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