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犬のヘルニアの症状とは?治療や予防法も解説【獣医師監修】

犬のヘルニアの症状とは?治療や予防法も解説【獣医師監修】

 
西田 英高
      

犬の椎間板ヘルニアはよく知られている病気です。しかし「腰が痛くなる病気だったかな?」と、自信がない飼い主さんもいるのではないでしょうか。今回の「Vet's Advice! 犬のヘルニア」では、西田先生が椎間板のしくみや病気の症状、日常生活の工夫などを解説します!

プロフィール
獣医師 西田 英高先生

西田 英高 先生

麻布大学獣医学部獣医学科准教授。小動物臨床研究室担当。アジア獣医内科学設立専門医(神経病)。大阪府立大学(現大阪公立大学)を卒業後、中山獣医科病院を経てテキサスA&Mヘルスサイエンスセンターの博士研究員に着任。帰国後、岐阜大学と大阪公立大学を経て2023年4月より現職。幹細胞由来エクソソームを用いた治療法や、椎間ケージ(椎間板を固定する器具)による脊椎疾患の治療法の開発に加え、麻布大学附属動物病院で神経外科を担当している。
・麻布大学獣医学部獣医学科所属教員紹介

・麻布大学小動物臨床研究室
・麻布大学附属動物病院

目次

椎間板ヘルニアの症状は?
検査と治療のことも詳しく知りたい

犬の椎間板ヘルニアは
どういう病気なのですか?

椎間板ヘルニアの図解

獣医師 西田 英高先生

「椎間板ヘルニア」を知るために、まずは脊椎(背骨)のしくみを確認しておきましょう。脊椎は椎骨という小さい骨が連結していて、内側のスペースには脊髄(神経の束)が通っています。椎骨の間でクッションの役割を果たしている軟骨が「椎間板」です。椎間板が脊髄のほうに飛び出し、脊髄や脊髄から出ていく神経を圧迫して痛みや麻痺が出る病気のことを椎間板ヘルニアと言います。

人間と同じように
腰が悪くなってしまうのでしょうか?

犬の腰椎

獣医師 西田 英高先生

人間と犬では骨の形や姿勢(人は2本足、動物は4本足で立っている)が異なるため負担がかかりやすい場所が違うので、椎間板ヘルニアが起こりやすい部分も異なります。人間は腰椎のいちばん後ろに症状が出やすいので腰痛が目立ちますが、犬はもう少し前の胸腰椎(胸椎と腰椎の間)と、頚椎の2箇所に多く見られます。

Point

  • ●胸腰部椎間板ヘルニア:腰のあたりに違和感や痛み、後ろ足の痺れや麻痺が起きる。背骨のアーチが最も盛り上がっている部分に起こることが多い。
  • ●頚部椎間板ヘルニア:首に違和感や痛み、前足と後ろ足の痺れや麻痺が起きる。胸腰部に比べて、痛みが強いことがある。。

犬の骨格標本人も犬もキリンも頚椎の数は7個。
撮影場所:麻布大学いのちの博物館(百十周年記念会館)

病気のサインについて詳しく教えてください!

獣医師 西田 英高先生

椎間板ヘルニアは2つのタイプに分かれるのも覚えておきたいポイント。椎間板は内側の髄核(セリー状で弾力があって、饅頭に例えるとあんこの部分)と外側の繊維輪(線維のように強度があって、饅頭に例えると皮の部分)でできていて、どちらが脊髄のほうに出るかによって症状が変わります。

椎間板は饅頭に例えると、あんこ(髄核)と皮(線維輪)で包んでいる構造」と解説する西田先生「椎間板は饅頭に例えると、あんこ(髄核)と皮(線維輪)で包んでいる構造」と解説する西田先生

 

椎間板の内側(髄核)が飛び出すⅠ型は、痛みや痺れ、麻痺の症状が急激に強く出ます。あんこが皮を破っていきなり飛び出して、神経に思い切りドンッとぶつかる様子を想像するとイメージしやすいのではないでしょうか。突然起きるので予測は難しいと思いますが、逆に言えば急に様子がおかしくなったら動物病院を受診するサインと考えてください(別の病気の可能性もあります)。

椎間板の外側(線維輪)が緩むⅡ型は皮がゆっくり伸びて出てくるので、進行もゆっくりで症状も軽いことが多いタイプ。必ずしも痛みから始まるとは限らず、ちょっとした違和感で済む場合も。日常生活の動作をチェックすることが早期発見のポイントです。

Checklist

Ⅰ型椎間板ヘルニアのサイン

  • □キャンと鳴いた次の瞬間、足を引きずっている
  • □抱き上げるとギャンと悲鳴を上げる
  • □急に動けない・歩けない
  • □首をすくめている
  • □頭を下げて上目遣いで固まっている
  • □首や腰を触ろうとすると避ける

Checklist

Ⅱ型椎間板ヘルニアのサイン

  • □首をなんとなくかしげている
  • □足のつき方がなんとなく一定ではない
  • □爪をする音が聞こえる
  • □千鳥足になる(ふらふらと歩いている)
  • □歩くときに足の甲をついている
  • □左右の足で爪の減り方が違う

椎間板ヘルニアの治療について知りたい!
日常生活の工夫で予防できる?

愛犬が足を引きずっている……。
どういう検査をすることになりますか?

獣医師 西田 英高先生

椎間板ヘルニアの症状はほかの病気でも起こりうるので、絞り込むための検査を行います。一般的な動物病院では、まずはレントゲン検査で骨の異常を確認してから、必要に応じて全身麻酔によるCTやMRIでより詳しく確認していく流れが多いと思います。全身麻酔を心配する飼い主の方もいますが、事前の血液検査など(スクリーニング)で大きな問題がなければリスクは高くないと考えています。実際に麻酔の事故は非常にまれです。

椎間板ヘルニアは完治する病気ですか?
手術をするのが少し心配です……。

獣医師 西田 英高先生

薬で痛みをコントロールできない場合や、すでに足に麻痺が出ているケースでは手術を検討する段階です。手術は骨を削って、飛び出した椎間板を取り出す手術になります。Ⅰ型の場合には、髄核(あんこ)を取り出し、Ⅱ型の場合には繊維輪(皮)やその下部の骨を削って神経の圧迫を取り除く処置をします。椎間板ヘルニアも様々な種類がありますが、人間の場合、Ⅰ型の椎間板ヘルニアでは吸収されることが多いため、安静にして手術を行わずに痛みを抑える治療を行います。おそらく動物も同じように引っ込んだり小さくなるかもしれませんが、動物の場合には様々な理由で、手術が必要となることがあります。

椎間板ヘルニアになったときの
日常生活の注意点やおすすめのリハビリは?

獣医師 西田 英高先生

最初の1カ月間は散歩を控えめにして、自宅で安静に過ごさせてください。ケージやサークルに慣れている犬なら出す頻度を減らしましょう。ボール投げや追いかけっこのような運動はダメですが、僕は歩くことまで制限する厳しい制限は難しいと思っています。家庭で無理なく工夫をすれば十分ではないでしょうか。飼い主は1~2週間経って調子がよくなると治った気になってしまうのですが、せめて1カ月は安静を心がけましょう!獣医師が治ったと判断したら徐々に元の生活に戻してください。

リハビリテーションとして、バランスボールやウォータートレッドミルを取り入れると回復を助けることがわかっています。バランスボールは自宅でもできるのでおすすめです。治療のサポートとしては鍼灸もあります。緊張した筋肉をやわらげたり、痺れや麻痺が残っている部分に刺激を与えたりすれば、回復を促進すると考えられています。

胴長短足の犬が椎間板ヘルニアを
発症しやすいというのは本当ですか?

獣医師 西田 英高先生

軟骨に遺伝的な異常があって早く椎間板が劣化しやすい「軟骨異栄養性犬種」に当てはまる犬は、椎間板が弾力を失って飛び出しやすくなるのでリスクがあると考えます。日本で多く飼育されている犬種では、ミニチュア・ダックスフンドが4~6歳、フレンチ・ブルドッグはもう少し早い段階からヘルニアになりやすいと言われています。

足が短めの犬種が多いものの、必ずしも発症するわけではありません。椎間板は加齢でも劣化するので、どんな犬種でも7歳以上のシニア世代になれば同じ状況になります。ほかにも体型や栄養状態、日頃の活動内容(激しいスポーツや仕事をしている犬(警察犬)など)などが挙げられます。発症の原因は一つではなく、さまざまな要素が複雑に絡み合っています。

Point

軟骨異栄養性犬種

  • ダックスフンド、ビーグル、フレンチ・ブルドッグ、ウェルシュ・コーギー・ペンブローク、シー・ズー、トイ・プードル、アメリカン・コッカー・スパニエル、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルなど

飼い主への説明に使われる脊椎の模型。上:チワワ、中:ミニチュア・ダックスフンド、下:大型犬

飼い主への説明に使われる脊椎の模型。上:チワワ、中:ミニチュア・ダックスフンド、下:大型犬

飼い主が自宅でできるケアや
予防対策を教えてください!

獣医師 西田 英高先生

椎間板ヘルニアの効果的な予防対策はまだ明らかになっていませんが、日常生活の工夫は大切だと思います。また、再発することも想定して早めに気づけるよう気に留めておいたほうがいいでしょう。僕の経験上ではミニチュア・ダックスフンドの3割が再発していますが、その大半は手術やリハビリで歩けるようになっています。決して悲観的になる必要はありません。

Checklist

 

  • □軟骨異栄養性犬種や7歳以上の犬は、日頃から動作のチェックを習慣にする。
  • □肥満にならないように体重を管理する(肥満ならダイエットを始める)
  • □犬の居住ペースには滑りにくい環境を整備する(フローリングを避ける)
  • □体が少し温まってから、散歩や運動にいく
  • □首への負担を減らすために、散歩のときにはハーネスを使う(胸部を面で覆うタイプが理想)
  • □犬の体高(床から肩までの高さ)を超える段差の上り下りを控える


西田先生からのメッセージ

病気を恐れず、楽しく暮らしましょう!

椎間板ヘルニアを恐れるあまり、散歩もしない、運動もしない、ただ静かに過ごす……と過保護な暮らしをする必要はありません。そもそも「安静にしていれば椎間板ヘルニアにならない」という保証はないのです。心臓病や腎臓病など他の病気を挙げればキリがない。病気になったら早めに治療して、犬らしく暮らせるようにしてあげたいですよね。
僕は愛犬と遊んだり出かけたりするのが大好きで、一緒にいる時間はすごく幸せな気持ちになります。飼い主の皆様にも同じように一緒の時間を楽しんでもらいたいと思いますので、不安なことがあれば獣医師に相談してください。

西田 英高 先生

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