毎日の散歩やトイレ掃除で当たり前のように目にしている犬のおしっこ。ある日、量が少なくなったり出なくなったりしたら緊急事態かもしれません。今回の「Vet's Advice! 犬のおしっこが出ない病気」では、寺村先生がリスクのある犬や病気のサイン、尿検査の方法などを解説します。
寺村 靖史 先生
目次
人気の小型犬種はおしっこが
出にくくなる病気にかかりやすい
おしっこのことを気にしたことがありませんでした。
そもそもどのような役割があるんですか?
おしっこには体内の水分や電解質(ナトリウムやカリウムなどのミネラル成分)をコントロールしたり、老廃物(ごみ)を排出したりする役割があります。腎臓で作られてから尿管を通って膀胱に溜まり、尿道を通って体外に排出されるしくみです。
おしっこが出なくなったら生きていけないくらい、とても大切なもの。家庭で注意するとしたら、「おしっこが出ているか・出ていないか」とチェックすることが重要です。
おしっこが出にくくなる目安とは?
おしっこが出にくくなる病気のことも教えてください!
犬の場合は24時間が異常の目安といわれることがあるものの、24 時間以内なら大丈夫と決まっているわけではありません。もし病気なら治療が早いに越したことはないので、排尿が半日なければまずは原因を考えたほうがいいと思います。
おしっこが出にくくなるおもな病気
- ●尿路結石症:尿のミネラル成分が結晶化して石になる。尿管や尿道、膀胱にできて炎症を起こし、詰まって閉塞すれば尿が出なくなる
- ●膀胱炎:何らかの刺激が原因で膀胱に炎症が起きる。犬は細菌が尿道を通って膀胱に侵入する細菌性膀胱炎が多い
- ●急性腎障害:毒物の中毒や慢性腎臓病の急激な悪化により、腎臓の機能が低下して尿を作れなくなる
- ●膀胱アトニー:膀胱が収縮しなくなり、尿が出せなくなる
注意が必要な犬
人気の小型犬種はおしっこが出にくくなる病気のリスクがあるので要注意です。
- □ トイ・プードル、チワワ、ポメラニアン、マルチーズ、シー・ズー、ヨークシャー・テリア、ミニチュア・シュナウザー、ビション・フリーゼなど→膀胱結石
□メス(尿道が短く肛門に近いので細菌が膀胱に入りやすい)→細菌性膀胱炎
□高齢(免疫機能が低下するので細菌が繁殖しやすい)→細菌性膀胱炎
□体質(食事が原因ではなく、食事が体質に合わないことが原因になる)→結石症
おしっこの病気のサインは?
チェックの方法も知っておきたいと思います。
おしっこが出ていないサインは「(1)トイレに行くけど出ない」「(2)トイレに行かない」という2つのパターンに分かれます。それぞれ考えられる原因や病気が異なるので、家庭でのチェックのポイントとして知っておいてください。また、大まかでもいいので、愛犬の1日の尿量を把握しておくと役立ちます。動物病院を受診するときにも飼い主さんの観察力が病気の診断の助けになります。
(1)トイレに行くけど出ない(尿意はあるのでトイレに行く回数が増える)
- ケース①まったく出ない
理由
・結石や腫瘍、異物などで尿道が完全に閉塞している可能性がある - ケース②少しずつ出る
理由
・膀胱炎でムズムズして頻尿になっている
結石や腫瘍、異物などで尿道が部分的に閉塞している可能性がある(赤みがかった血尿が出ることが多いが、黄色いこともある)
(2)トイレに行かない(作られる尿が少ないor尿意がないのでトイレに行かない)
- 原因①トイレの場所に行きたくない
理由
・環境の変化(引っ越しや模様替え、近所の工事など)に警戒している
・台風や雷などに恐怖を感じている
・トイレ以外の場所で排尿して叱られ、室内での排泄がトラウマになっている
・体調不良でトイレまで移動できない - 原因②尿があまり作られていない
理由
・重度の脱水(泌尿器の病気以前に何らかの不調がある)
・急性腎障害 - 原因③尿意がない
- ・椎間板ヘルニアなど(神経障害が起きて膀胱に尿が溜まっているのを感じられない)
・膀胱アトニー - 原因④膀胱に尿が溜まらない
- 理由
・膀胱破裂(事故による外傷、膀胱腫瘍)
・尿管閉塞:両側の尿管が結石で閉塞し、腎臓から膀胱に尿が流れない
(2)トイレに行かない(作られる尿が少ないor尿意がないのでトイレに行かない)場合は、検査をしなければ獣医師でも見分けが難しいので、少しでも違和感を感じたら病院へ行きましょう。
おしっこの量がいつもと違う
動物病院で尿検査を頼む方法は?
もしおしっこが少なかったり出ていなかったりしたら、
どういう対応をすればいいでしょうか。
おしっこが完全に出ていないのか、それとも、少量ずつでもトータルでいつもと同じくらいの量が出ているのか、確認できればベストです。犬が元気で食欲もあっておしっこをしない場合は、排尿したくない理由を探って問題の解決を試みてはどうでしょうか? たとえば散歩のときまでおしっこを我慢してしまうのはよくあるケース。1日2回の散歩の間隔を短くしたり、室内トイレトレーニングをしたりする方法があります。
ただ、獣医師としては「おしっこをしていなくても大丈夫」とは言えないので、かかりつけの動物病院を受診するか電話で相談することをおすすめします。まずは獣医師に電話やSNSで相談できるサービスを利用するのも一案です。
動物病院で尿検査ができると聞きました。
おしっこを採取するのは難しそうですが……。
尿検査のためのおしっこを採取するルールは動物病院によって異なります。当院ではトイレシートを裏返して敷き、そこで犬が排尿したあとに溜まったおしっこをスポイトで採取する方法をおすすめしています。散歩中に排泄する犬は、紙コップやおたまで直接採取する方法もあります。清潔な保存容器やビニール袋に入れて動物病院に持ってきてくださいね。おそらく動物病院に頼めば採取用のキットをくれると思います。
ただし、細菌性膀胱炎以外は尿検査だけでは原因がわかることは基本的にないので、尿検査に加えて愛犬を連れて動物病院を受診してください。もしおしっこの病気を繰り返してなかなか治らない場合はセカンドオピニオンを検討しましょう。
尿検査の注意点
- ●尿は液体の状態で採取する(土やトイレシートに染み込んだ状態では検査できない)
- ●可能な限り新鮮な状態で検査する必要があるので、採取から6~8時間以内に動物病院へ持参する(結石の検査は採取から30分以内)
- ●朝一番の尿を採取する(水を飲んだあとの尿は薄くなってしまうので評価しにくい
どうしてもおしっこを採取できません!
動物病院にお願いできますか?
飼い主さんによる採尿は大変なのでハードルが高いですよね。動物病院でも採尿できますが、処置が必要なので犬にとってはやや負担かもしれません。愛犬にとってどの検査がベストなのか、検査によって何を調べたいのか、どれくらいの正確さが必要なのか……といったことを踏まえて、獣医師に相談して決めましょう。 。
動物病院で尿を採取する2つの方法
- ●尿道カテーテル
尿道からカテーテル(細いくだ)を入れて膀胱から尿を採取する。比較的痛みは少ないが、尿道がむずむずして犬が違和感を覚えて嫌がるかもしれない。カテーテルを入れると尿道から膀胱へ細菌を押し込むことになり、結果的に細菌性膀胱炎になることもある。 - ●膀胱穿刺
膀胱を超音波で見ながら針で刺す。最も正確な結果が得られるので、繰り返す細菌性膀胱炎の検査に必要だがやや痛みがある。針で刺すことに抵抗感を持つ飼い主がいるかもしれないが、意外と簡単で安全にできる。
寺村先生からのメッセージ
おしっこが出なくなるのは緊急事態!
おしっこが出ないのは緊急事態のパターンがあることを知っておいてください。飼い主さんの知識がいざというときに役に立ちます。おしっこだけで腎臓や膀胱はもちろん体調がよいとはわからないので、血液検査、超音波検査、レントゲン検査などを併用しましょう。逆に、おしっこの量が増える慢性腎臓病やホルモンの病気にも注意が必要です。ゆっくり進行していくこれらの慢性疾患は、おしっこが出ないサインより気づきにくいので、愛犬は元気で健康だと思っていても、定期的に健康診断を受けることも必要です。