獣医師の先生にさまざまな犬種の飼い方や暮らし方について教わる「Vet’s Dogs~獣医の犬の飼い方~」。今回はラブラドールレトリバーのフローネちゃんと暮らす、埼玉県・七里動物病院の院長、中村悟先生のもとを訪ねました。盲導犬候補生だったというフローネちゃんとの出会いから、ラブラドールレトリバーならではの性格や気をつけたい病気などをたっぷり伺いました。
中村 悟 先生
目次
盲導犬としても活躍するラブラドールレトリバー。
性格は温和で愛情深く、学習能力も高い
はじめに、フローネちゃんとの出会い・性格について教えてください。
元々フローネは盲導犬候補生で、パピーウォーカーさんの元で育てられました。しかし身体チェックの際に肘関節異形成という病気が見つかり、私たちが迎え入れることになりました。性格はすごく落ち着いています。1歳を過ぎた頃にわが家へ来たのですが、血統の良さに加えて、少し訓練を受けていたこともあって、性格はほぼ完成していました。
温和で愛情深いラブラドールレトリバーらしく、学習能力も高い。「ダメ」と言われたことは決してしませんし、「待て」と言われればジッと待つ忍耐力もあります。一方で、遊ぶ時には思いっきり遊ぶんです。私たちが「人と暮らす犬はこうあるべき」と思い描く理想があるとすれば、フローネはそれにぴったりと当てはまるのではないでしょうか。
●パピーウォーカー:導犬候補のパピー(子犬)を生後2ヶ月齢から1歳前後までの約10ヶ月間、家族の一員として、人と一緒に安心して暮らすための関係づくりと家庭でのルールを教えるボランティア。(公益財団法人日本盲導犬協会HPより)
一般的なラブラドールレトリバーの特徴についても教えてください。
「超食いしん坊」な子が多い印象ですね。基本的に食欲旺盛なので、食欲がなくなったら、体調不良を疑った方がよいかもしれません。それぐらい食べるのが好き。また、抜け毛は多い犬種だと思います。病院でもラブラドールレトリバーが来た後は、待合室が毛だらけです(笑)。体が大きく、欧米ではトップ3に入る人気犬種ですが、献身的な性格と好奇心旺盛な活発さを兼ね備えた、“THE・犬”とも言える魅力にあふれる犬種だと思います。
好奇心旺盛で活発な子も多いラブラドールレトリバー。
オーナーさんは、愛犬とどのように向き合えばいい?
ラブラドールレトリバーの魅力でもある「元気さ」ですが、いつかは落ち着くものですか?
好奇心旺盛で活発な子も多い犬種ですが、年齢を重ねれば、ある程度は落ち着きますから焦らなくて大丈夫ですよ。ただ、元気すぎて困ってしまっても、あまり叱らないであげてください。犬は、なぜ叱られたのかを理解ができず「嫌な思いをした…」という記憶だけが残ってしまいます。一方、褒めるときにはご褒美だけでなく、「グッド!」など言葉でもたくさん褒めてあげてください!また、わが家では、「クリッカー」という音の鳴るトレーニングツールを使って、望ましい行動が取れるように学習させています。
「吠え癖」「噛み癖」の対応はどうでしょうか?付き合い方のポイントを教えてください。
吠え癖や噛み癖などヤンチャな行動に悩まれている方は、早い段階でしつけを学ぶ機会を持っていただくと良いと思います。教室などに通うことは犬が変わるだけでなく、何よりオーナーさんの行動や態度の変容につながるからです。
よく「ご年配の方が飼われている子とワンパクなお子様がいる家庭の子では、性格が違う」という話をするのですが、生活環境やオーナーさんの行動が変われば、自然と犬も学習して変わっていきます。犬の行動心理学や学習理論を知ることは、犬との関係性を良い方向へ変えるきっかけになると思いますよ。
ラブラドールレトリバーの抜け毛は、
全身を覆うロンパースや日常的なケアで飛び散らない工夫を
ラブラドールレトリバーの抜け毛対策として、オーナーさんができる工夫はありますか?
ラブラドールレトリバーは、1年中毛が抜けている印象がありますよね。当病院へ来られるオーナーさんも「こんなに毛が抜けるの?」と驚いている方も多いです。換毛自体は止められませんが、毛が落ちることを防ぐことはある程度可能です。例えば、「マナーコート」と呼ばれる、手首・足首まで覆う服を着せるのもおすすめです。元々、ホテルなどにも同行する盲導犬のための服ですが、最近は市販されていることもあるのでチェックしてもいいかもしれません。わが家でも、車に乗せるときにはフローネに着せていますが、落ちている抜け毛の量が全然違います。
ブラッシングやシャンプーなど、日々のケアでできることがあれば教えてください。
例えば、冬場は静電気が邪魔をして、ブラッシングをしても毛が落ちにくくなります。そんなときは静電気防止スプレーとラバーブラシをセットで使うと、抜け毛をしっかりと落とすことができます。またシャンプーの際に、保湿力の高いシャンプーを使うことも静電気の発生を抑えることにつながります。しっかりとシャンプーで抜け毛を落とした後は、保湿剤も忘れず付けてあげられるといいですね。
ラブラドールレトリバーの抜け毛対策
- 1. 抜け毛が飛び散らないように、「マナーコート」を着せるのもおすすめ
- 2. 乾燥や静電気は抜け毛の大敵!シャンプー後は保湿をしっかりと
注意すべき病気が少なくないラブラドールレトリバー。
早期発見のためにも、小さな異変を見逃さないで
ラブラドールレトリバー特有の病気には、どんなものがありますか。
「股関節形成不全」を抱えている子は少なくないと思います。股関節が炎症を起こし強い痛みを伴います。重症化すると、人工の股関節に代える手術が必要なこともあります。「白内障」を患う子も多いですね。眼球にある水晶体というレンズが白く濁り、次第に視力が落ちる病気です。同じように目が白く濁る「核硬化症」と症状がよく似ているため、区別することが大切です。「悪性腫瘍(ガン)」も犬全般に多い病気ですが、「リンパ腫」など見た目でわかる腫瘍と「脾臓腫瘍」のようにエコーやCTで見つかる腫瘍があります。早期発見には定期的な健康診断が必須です。
ラブラドールレトリバーは、皮膚系のトラブルも多いと聞きます。
そうですね。中でも「ホットスポット(急性湿性皮膚炎)」に悩まされる子は多いかと思います。夏場などに皮膚が蒸れることで、局所的な膿皮症を起こします。シャンプー後はしっかり乾かすことはもちろん、早めにわかれば抗生剤などで治療することもできます。また、ラブラドールレトリバーは「アトピー性皮膚炎」を気にされる方も多いです。ただ、アトピー自体は遺伝的な影響が強い疾患のため、特別ラブラドールレトリバーという犬種が発症しやすいというわけではありません。
少し変わったところでは、「肘タコ」「肘のかさぶた」ができる子もいるそうですが……。
おそらく「胼胝(べんち)」と呼ばれる肘にできるタコのことだと思われます。大型犬であるラブラドールレトリバーによく見られ、コンクリートなど硬い場所に肘をつくことでカチコチに硬くなってしまう症状です。室内にいるときは、柔らかい座布団やクッションなどを敷いてあげると予防になります。ただし、タコにならずに赤く腫れてしまった場合(ハイグローマ)は、すぐに動物病院を受診してください。
ラブラドールレトリバーが気をつけたい病気
- 股関節形成不全
痛みを伴う病気ですが、オーナーさんが気づけない場合も。特に、骨の形成が完成する2歳頃まではレントゲンなどで定期的にチェックすることをおすすめします。 - 白内障
目の白濁が進むと、失明しかねない病気です。「歩くときによくぶつかるようになった」など歩行に異常が見られたら、まずは受診してください。 - 悪性腫瘍
犬種を問わず多い病気ですが、中でもレトリバーは発症率が高いと言われています。早期発見には定期的な健康診断が必須です。 - ホットスポット
細菌感染による皮膚炎の一種で、ラブラドールレトリバーが発症しやすい疾患のひとつ。毛の中を高温多湿にしないようケアすることが、予防につながります。 - ハイグローマ
肘の後ろに水が溜まって腫れた状態です。感染症を引き起こさないためにも、異変に気づいたら速やかに獣医師の判断を仰ぐようにしてください。
賢さと忠誠心を持ち合わせたラブラドールレトリバーは、
“犬と暮らす楽しさ”を満喫できる犬種です
ありがとうございました。最後にラブラドールレトリバーのオーナーや迎えたいと考えている方へのメッセージをお願いします。
私はトイプードルやマルチーズなど、さまざまな犬たちと暮らしていますが、ラブラドールレトリバーという犬種は、賢さと忠誠心を持ち合わせた「人と暮らす犬の理想」のような存在だと感じています。そんなラブラドールレトリバーのことを理解し、しっかりと準備をしてから飼いはじめていただければ、こんなに楽しい犬はいません。気をつけたい病気に気を配りながら、ラブラドールレトリバーのいる暮らしをぜひ楽しんでください。