前回の『Vet’s Advice』では、シニア期の犬がかかりやすい慢性腎臓病について詳しくお伝えしました。今回は、慢性腎臓病の犬の40~70%(参考値)※が発症するという「腎性貧血」について、その原因や症状、治療法、オーナーさんにできることなど、獣医師の淺井亮太先生に解説&アドバイスしていただきます!※「日本獣医腎泌尿器学会誌」参照
淺井 亮太 先生
知っておきたい腎性貧血。
ずばり教えて、淺井先生!
腎臓病の犬がかかりやすいという
「腎性貧血」って、何ですか?
「腎性貧血」は、慢性腎臓病の合併症のひとつです。徐々に腎臓機能が低下していく慢性腎臓病では、40~70%(参考値)※が腎性貧血を発症するといわれています。
※「日本獣医腎泌尿器学会誌」参照
一般によく知られる「腎臓病」は、腎臓機能に何らかの障害がある病気の総称で、大きく「急性腎臓病」と「慢性腎臓病」の2つに分けられます。慢性腎臓病が進行し、生命維持に必要な腎機能が5%未満の状態になると腎不全に至ります。
詳しくは、前回記事『Vet’s Advice 犬の腎臓病』をご覧ください。
- ●腎臓病:腎臓に何らかの障害がある病気の総称で、大きく急性腎臓病と慢性腎臓病に分かれる。
- ●腎性貧血:慢性腎臓病の進行によって発症する合併症のひとつ。
- ●腎不全:慢性腎臓病が進行したステージ4、生命維持に必要な腎機能が5%未満の状態。
慢性腎臓病の犬は、なぜ腎性貧血になるのですか?
うちの犬が慢性腎臓病なので心配です。
腎臓は赤血球をつくるホルモン「エリスロポエチン」を分泌する働きがあり、慢性腎臓病が進行して腎臓の機能が低下すると、「エリスロポエチン」の分泌量が減少し、赤血球がつくられにくくなくなるため貧血になります。慢性腎臓病が急激に悪化してしまうケースでは、腎性貧血が起こらないこともありますが、慢性腎臓病の犬では、ゆっくり徐々に腎臓機能が衰えていく過程で腎性貧血を発症するケースが多く見られます。重度の貧血は生命の危険につながるので、慢性腎臓病と診断されたときから、継続的に病院で検査をして、注意して見ていく必要があります。
貧血が悪化する前に、早く気づいてあげたいです。
腎性貧血の症状・サインを教えてください!
腎性貧血になると、元気がなく動かなくなり、食欲が落ちてやせてきます。ただ、それらは慢性腎臓病の症状だと思われる方も多く、病院に連れて来られたときにはかなり進行しているケースも。犬は元来、貧血に非常に弱いため、貧血と脱水による衰弱で生命維持が困難になる可能性が高いので、何より早い段階で気づいてあげることが重要です。
早期発見のために大切なのは、頻繁に病院で診察、検査を受けること。その上で、僕の病院では、オーナーさんが気づけるポイントとして、ふらつく様子がないか、くちびるや目の粘膜が青白くなっていないかなど、毎日チェックするポイントをお伝えし、お願いしています。
赤血球は体内に酸素を運んで体温を維持する働きがあるので、腎性貧血になると体温が下がって冷えやすくなります。ただ、体が冷えるというのはかなりステージが進行している危険な状態。
そこまで貧血がひどくなる前に気づいて、病院に連れて来てもらえれば、輸血など様々な治療ができるので、完治しないからとあきらめず、貧血のつらい症状を和らげてあげましょう。
こんな症状・サインがあれば、すぐ病院へ!
- □ 元気がなくなる □ 活動量が減る □ 寝ている時間が増える □ 食欲が落ちる・食べない □ 体重減少・やせてくる □ ふらつき □ くちびる、目の粘膜が青白くなる □ 体がひんやりしている(体温が下がる)
もし愛犬が腎性貧血になってしまったら……。
どんな治療方法があるのでしょうか?
慢性腎臓病による腎性貧血の治療は、腎性貧血の進行を防ぎ、症状を和らげることが目的になります。基本の治療は、腎臓に負担をかけるタンパク質を抑えた腎臓食、貧血改善の鉄分補給、さらに、エリスロポエチンのお薬を使うことで赤血球の減少を抑えます。現在、犬猫用のエリスロポエチンは開発されていないので、人用のものを代用して治療を行っています。
エリスロポエチンのお薬によって赤血球の数値が戻り、つらかった貧血症状が改善されれば、犬の生活の質(QOL)を保つことができ、慢性腎臓病の進行を遅らせることにもつながります。その子ができる限り支障なく生活できるよう、治療を続けてあげてください。
病院で検査をすれば
腎性貧血になるかどうかわかりますか?
残念ながら、慢性腎臓病と診断された時点では、どんな検査をしても腎性貧血になるかどうかはわかりません。だからこそ、頻繁にかかりつけ医で血液検査や健康状態をチェックしてもらうことが、腎性貧血の可能性を見極める上で必要なのです。
慢性腎臓病には、腎臓のダメージ程度によるステージ(1~4)があるので、検査を継続することで、ステージの進行レベルから腎性貧血を早期に発見することができます。
腎性貧血は、犬の死因に直結する病気です。その発見が早いか遅いかで、その後の生活の質や寿命に大きな差が出るということを、犬オーナーさんには、どうぞ知っておいてほしいと思います。
深掘れ!わんわんアドバイス その1
慢性腎臓病のステージ分類
慢性腎臓病のステージ分類は、血液検査によるCRE(クレアチニン)やSDMAの数値、尿、血圧の数値によって診断されます。一般的に腎性貧血を発症する可能性はステージ3で高まるといわれますが、初期のステージで発症するケースもあるので定期的な検査を継続して行うことが、腎性貧血、尿毒症など合併症リスクの早期発見につながります。
血漿クレアチニン濃度
IRIS(国際獣医腎臓病研究グループ)による “IRIS腎臓病ステージング”
https://www.javnu.jp/guideline/iris_2016/dog_ckd.html
今回は、慢性腎臓病の犬が発症しやすい腎性貧血について、知っておきたい基礎知識を解説していただきました。次回の後編では、腎性貧血に苦しむ愛犬のためにできることをしてあげたい!オーナーさんのお悩み&質問に、淺井先生がお答えします!