「健康診断は受けた方がいい」とわかっていても、いつ、どんな検査をすればいいのかと迷われている方も多いのではないでしょうか。そこで前回の「犬の健康診断ってどんなもの?① 体験編」では、SNSでフォロワー数3万人超えの人気犬・クロエちゃんの健康診断に密着&レポート。そして今回は、気になる検査結果について、金井先生に詳しく解説していただきます!
金井 修一郎 先生
日本大学獣医学科卒業後、日本大学動物病院専科研修医として動物病院の内科・外科診療にあたる。2007年神奈川県藤沢市に「むつあい動物病院」を開業。病気の治療や予防から、しつけや食事の悩みなども気軽に相談できる病院をめざす。一般診療に加え、漢方薬・鍼灸などの中医学的治療も行う。幼い頃から、家に動物がいることがあたりまえの暮らしの中で、ペットが亡くなったときの悲しさ、悔しさが獣医師を志した原点。現在も犬猫の保護活動や、飼えなくなった犬を里親として迎えるなど動物愛あふれる先生です。
取材に協力してくれた「クロエちゃん」
名前:クロエ 生年月日:2018年6月8日
性別:メス 犬種:ラブラドールレトリバー
性格:普段は優しくて甘えん坊な性格
既往歴:健康診断は、2年前に血尿が心配で血液検査を受診。かかりつけの病院では、診療の後におやつがもらえるので、病院に行くとテンションが上がるクロエちゃん。今回の健康診断も尻尾フリフリ、やる気満々です!
SNSアカウント:http://twitter.com/chloe0608wan
目次
検査結果のリアルレポート!クロエちゃんの検査結果はいかに?
健康診断時の触診で、首左側の付け根にリンパの腫れが見つかったクロエちゃん。血液検査でどんなことがわかるのか、さっそく先生に解説していただきましょう!
完全血球計算の結果。すべてが標準値内で、ひと安心!
では、血液検査の結果をご説明します。まず、完全血球計算の項目、赤血球、白血球、血小板など、すべてが標準内の正常値で問題なく、至って良好です。
知っておきたい血液検査の基礎知識
血液検査の項目は「完全血球計算」と「血液化学検査」に分かれます。
- 完全血球計算:
血液中の細胞数をカウントし、貧血や炎症、ウイルス性の感染症や免疫系の疾患を調べる。 - 血液化学検査:
腎臓、肝臓、脾臓、甲状腺など、臓器・器官系が正常に働いているかどうかを調べる。
腎臓疾患を見極めるクレアチニン(Cre)の数値がやや高め!?
次に血液化学検査の結果を見てみると、腎臓疾患を見極める上で重要なクレアチニン(Cre)の数値がやや高め。正常基準値0.5~1.4mg/dL のところ、クロエちゃんは1.5 mg/dLという若干高めの数値が——。
クレアチニン(Cre)の正常基準値が0.5~1.4mg/dLと考えると、クロエちゃんの1.5 mg/dLは若干高めですね。ただ腎機能に問題があると、クレアチニン(Cre)とともに上昇するSDMAの数値は正常値。尿検査でも腎臓機能低下を示すものはないので、現時点で精密検査の必要はありません。ただ今後も定期的な健康診断で、クレアチニン(Cre)とSDMA両方の数値を注意して見ていきましょう!
ちょっと気になる中性脂肪。今後は脂肪分の少ないフード選びを
続いて要注意なのが、中性脂肪(TG)。正常基準値31~92mg/dLに対して、クロエちゃんは171mg/dLとかなり高め。コレステロールも正常基準値内ではありますが、若干高めという結果になりました。
クロエちゃんの中性脂肪(TG)は171mg/dLで、正常基準値をオーバーしていますね。コレステロールは正常基準値内ですが、若干高いです。糖尿病などの病気リスクを防ぐためにも、フードを脂肪分の少ないタイプに変えるなど、食事を見直した方がいいかもしれません。
小さなお子さんがおられるご家庭に多いのですが、日常的に子どものお菓子や食べこぼしを口にしていると、中性脂肪、コレステロール値などが高くなる傾向があります。
まさに、先生のご指摘の通りです。子どもが何か食べているときはいつもテーブルの下でクロエが待ち構えているんです。もっと気をつけないといけないですね…。実際、子どもが産まれてからクロエは太り出したので、さっそく対策を考えます。
食事やフードによって検査数値に影響が出ることも
健康診断では、病気でなくても数値に異常が出やすい項目があります。食事を摂ると上昇する血糖値、中性脂肪やコレステロールの数値もそのひとつ。そのため、検査前12時間は絶食することが大切。また着色料や添加物、防腐剤が含まれたフード、開封して時間がたって酸化してしまったフードなどを食べ続けていると、肝臓の数値に影響が出ることもあります。
尿と便の検査結果は、まったく異常なし!気になるリンパ節の腫れは?
健康診断での触診で、首左側付け根のリンパ節に小さな腫れが認められたクロエちゃん。⾵邪や感染症の疑いはないとのことでしたが、検査の結果はいかに?
健康診断を受けるまで、首のリンパ節の腫れにはまったく気づいていなかったので、検査結果がすごく不安でしたが先生の説明を聞いて安心しました。今のところクロエが痛がったり気にしたりする様子はないので、とにかく毎日マッサージして、様子を見守りたいと思います。
尿検査と便検査からわかること
尿は血液と同じく、体の状態を知る上で重要な情報源です。尿検査と血液検査を合わせて行うことで、脾臓・腎臓・泌尿器系・糖尿病など、様々な病気の発見につながります。便検査では、血便がないかどうか、寄生虫や下痢を引き起こす細菌の有無や腸内細菌のバランスなどを調べます。
クロエの状態をしっかりと知るためにも、
必要性を感じた健康診断でした
クロエちゃんのオーナーさんの感想
触診でリンパの腫れが発見されたので心配でしたが、今のところ大きな病気の心配はないとのことでホッとしました。クロエはまだ4歳で若く元気なので、不調やトラブルがなければ病院で検査する必要はないと思っていました。
ただ今回、健康診断を受けたことで、クロエの体の状態をしっかり知るためには、定期的な健康診断は絶対必要だと痛感しました。飼い主の自分では気づけない体の変化に気づけたこと、今後、気をつけて見るべきポイントがわかり、本当によかったです。
金井先生からのメッセージ
健康診断は、愛犬の小さな変化に気づくチャンスです。
動物病院に行くのは「愛犬の具合が悪くなったとき」だと思いますが、健康診断は、元気なときに獣医師に診てもらえるので、オーナーさんも普段の生活で、気になっていることを質問しやすく、私たちも犬の健康状態を様々な角度から診察しお答えすることができます。
健康診断は、愛犬の目に見えない小さな変化に気づいてあげるチャンスです。たとえ検査で異常や病気が発見されても、自覚症状が現れていない早期発見であれば、早めの治療で病気の進行を防ぐことも可能です。何も異常なく健康であれば、それに越したことはなく、オーナーさんにとって何より喜ばしいこと。ずっと元気で長生きしてほしい愛犬のために、春秋のワクチン接種と同様に定期的な健康診断を心がけてくださいね。
2回にわたりお届けしてきた犬の健康診断企画。病気の早期発見はもちろん、目には見えない愛犬の体の変化や注意すべきポイントを知ることができる健康診断の中身、メリットを実感いただけたでしょうか? 体の調子を伝えることができない犬たちのために、ぜひ、健康診断を受けてあげてくださいね。
取材にご協力いただいた病院
取材協力: anicas