愛犬と共に過ごす上で、気になることの一つが病気の予防や治療。特に「フィラリア症」は、最悪の場合には命に関わることもある病気。正しく予防できず感染してしまった場合、どんな危険があるのか。そして愛犬をフィラリア症から守るために、どんな対処ができるのか。フィラリア症予防の基本知識を、大相模動物クリニック院長の村上彬祥先生にご解説いただきます。
村上 彬祥 先生
目次
寄生虫を取り込んだ蚊が感染源。犬の肺や心臓などの血管に寄生するフィラリア症
はじめに、フィラリア症とはどんな病気かを教えてください。
そもそもフィラリアとは、素麺のように細長い寄生虫のこと。フィラリア症とは、体内にフィラリアが寄生して引き起こされる様々な疾患のことを言います。フィラリアの幼虫は犬の体内に入ると脱皮を繰り返し、やがて成虫になります。心臓が好きな虫で、心臓に寄生すると心臓病を引き起こしてしまうんです。
心臓に寄生するなんて恐ろしいですね…。フィラリアに感染すると、どのような症状が出るのでしょうか?
フィラリアに感染すると心臓に繋がる肺動脈で成虫となり、肺の血管の血圧が慢性的に高まることで、心臓や肝臓に負担をかけます。そうなると、うっ血してしまい、肺・肝臓・腎臓に問題が出たり、お腹に水が溜まったりします。
わかりやすい症状だと、「呼吸のしづらさ」や「疲れやすさ」。「疲れやすさ」は散歩ですぐ疲れるだけでなく、ソファに飛び乗る・ボールで遊ぶなど、いつもの動きができなくなることで判断できます。あとは咳が出たり、喀血(気道の出血)が出たり、失神したり。急な体重減少などが見られる場合も感染が疑われますね。また血尿が出た場合、最悪亡くなってしまうケースもあるため、注意が必要です。
以下のような症状が見られたら、すぐに動物病院にご相談しましょう!
どんな犬にもフィラリア予防は必要。だからこそ動物病院・獣医師を頼ってほしい
どんな環境でもフィラリア予防は必要なのでしょうか?都会は蚊が少ないと言いますが…。
「都会は蚊が少ない」と言われますが地球温暖化の影響もあり、昔に比べて、蚊が成長しやすい環境です。日本中に蚊はいるため、どの地域でもフィラリアに感染する可能性はあります。
では、生後まもない時期でも予防した方が良いのでしょうか?
目安は生後8週齢、2ヶ月ぐらいが推奨されています。本来投薬を開始する前にはフィラリアに感染しているか検査が必要になりますが、8週では検査ができません。フィラリアは感染から約半年で成虫になるため、まだ成虫はいないですし、幼虫も見つけられません。
そのため8週齢から予防をはじめたら、初回投与の半年後からフィラリアの成虫がいるかどうかの検査を実施します。
投薬について、犬種による影響・注意点などはありますか?
ありますね。犬種によっては投与した薬がダイレクトに脳に届いてしまい、神経症状を起こしてしまうことがあります。注意すべき犬種は、コリーやシェパード。このような犬種に関しては、注意してください。
犬種以外に、投薬に注意すべき体質・時期はありますか?
食物アレルギーを持っていたら注意が必要です。フィラリアの予防薬を投与後、下痢や皮膚症状などの過敏反応が出るケースがあります。妊娠中のワンちゃんへの投薬は、薬によっては「問題ない」と記載されていますが、子どもへの影響は捨てきれません。それほど実験データが発表されていないので、フィラリア予防をするリスク、予防をせずフィラリアのシーズンを過ごすリスクのバランスをみて投薬を判断します。
体重や身体の大きさはどうでしょうか?気をつけたい点はありますか。
1歳未満の場合、体重も注意してほしいですね。「薬を1年分もらっている」という方もいますが、生後半年と1歳半では体重が大きく異なります。身体が大きく薬が足りないケースもあるし、想定より小さくて薬が多すぎる場合もある。そのため当院では、飼い主さんに「1歳未満の子は1ヶ月ごとに体重を測りにきて」とお伝えしています。もちろん1歳を超えたら、1年分の薬を出すことも可能です。
知っておきたい、犬のフィラリア症のポイント
- 1. 日本中に蚊はいるため、都会でもフィラリアに感染する可能性はある
- 2. 予防薬開始は生後8週後(2ヶ月程度)が推奨されている
- 3. コリーやシェパードへの投薬は要注意。まずは獣医師に相談を!
1歳未満の場合、投薬量をきちんと判断する必要があるため、1歳未満の子は1ヶ月ごとに、動物病院で体重を量りにいくと良いと思います。
犬のフィラリア予防には検査が必須!フィラリア症の検査が陰性でも要注意
フィラリア予防に事前の検査は必要なのでしょうか?
年に1度の検査が必要です。予防薬を投与する前に、フィラリアの感染がないことを確認しなければいけません。血管内にフィラリアがたくさんいる状態で予防薬を投与してしまうと、フィラリアの幼虫が大量に死滅することによるショック状態に陥ったり(血圧の低下や意識障害)、死骸が血管へ詰まることで、ワンちゃんが亡くなってしまうことがあります。命を守る上で、予防前の検査は大切です!
フィラリアの検査方法について教えてください。
検査方法は大きく2つで、ミクロフィラリア検査と抗原検査です。ミクロフィラリア検査では、血液を採取してミクロフィラリアを顕微鏡で確認します。 抗原検査は、フィラリアの雌の生殖器から出る分泌物(抗原)を検出するもので、犬の体内に雄しかいない場合などは陰性になります。また抗原は成虫しか分泌しないので、フィラリアが幼虫だと感染していても検査は陰性になってしまいます。
そのため飼い主さんには、シーズンの初回投与の際には「検査は陰性ですが、1日中ワンちゃんの様子を見られる日で、病院が午後もやっている日の朝に予防薬を投与してください」と伝えています。これは万が一ショックなどが起きた場合に、すぐに対応できるようにするためです。
フィラリア症の予防薬について教えてください。
フィラリアの薬は「予防薬」と呼ばれますが、厳密に言うと「駆虫薬」です。予防薬というと、犬の周りにバリアが張られてフィラリアの侵入を防いでくれるイメージがあると思いますが、蚊に刺されることを100%防ぐ薬は今のところ存在しません。ですから蚊に刺されることを前提に、1ヶ月1回など定期的に「駆虫薬」を投与してフィラリアが成長していく前に倒していくことが、フィラリア症の予防になるんです。
投与シーズンや投与頻度など、予防薬の使い方はどうでしょうか?
遅くとも蚊が出はじめた1ヶ月後くらいには開始したいですね。一般的には5月から11月がシーズンと言われますが、蚊の活動期間は地域差があります。例えば、あたたかい気候の沖縄であれば蚊の活動期間も長くなりますよね?
また最近は温暖化もあり、前年とまったく同じ気候とは言えません。だから当院では「◯月まで投与すれば大丈夫です」とは伝えていません。本当であれば1月から12月まで通年投与が安全だと思いますが、蚊の体内でフィラリアは15度以上になると動き出すことなどを考慮し、住んでいる地域の気温で投薬開始を検討しましょう。
引用:ノミダニフィラリア.com「犬のフィラリア症の予防方法」
https://n-d-f.com/filaria/prevention/index.html
(2022年4月26日)
知っておきたい、犬のフィラリア予防
- 1. 犬のフィラリア予防には、年1度の検査が必要
- 2. 検査方法は「ミクロフィラリア検査」と「抗原検査」の2つ
- 3. 投与開始のタイミングは、蚊が出てくる1ヶ月前からが安心。遅くとも1ヶ月後までには必ず投与。
フィラリア症は犬が蚊に刺されることを前提に、1ヶ月1回など定期的に「駆虫薬」を投与してフィラリアを倒していくことが大切なんです。