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【獣医師インタビュー】薬剤耐性菌と闘う茂木朋貴先生の 「ペットを病気から守る」取り組みとは?

【獣医師インタビュー】薬剤耐性菌と闘う茂木朋貴先生の 「ペットを病気から守る」取り組みとは?

 
茂木 朋貴
      

「動物たちが病気にならないようにしてあげたい。」そんな想いで、様々な活動に精力的に取り組む、東京大学附属動物医療センターの茂木朋貴先生。病気の予防法に関する研究をしながら、薬剤耐性菌を拡大させないために、抗菌薬の処方についての教育にも力を注いでいます。日々の診療を含め、幅広く活躍している先生の取り組みとその目標をお聞きしました。

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プロフィール

茂木 朋貴 先生

東邦大学理学部生物分子化学科を早期卒業後、岩手大学農学部獣医学課程へ編入学。卒業後は東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻博士課程へ進学し、博士(獣医学)取得。2017年から国立研究開発法人理化学研究所統合医科学研究センターで人の遺伝子のゲノム解析の研究に取り組み、2018年より客員研究員となる。同時に、東京大学大学院農学生命科学研究科附属動物医療センターの特任研究員として、獣医療の現場へ復帰。2019年より特任助教。論文執筆や学会発表にも精力的に取り組み、専門誌への掲載多数。全国で抗菌薬に関するセミナーを行うなど、発信活動も積極的に行う。
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目次

遺伝子レベルで生き物を研究した後に獣医師へ。
広い視野で新しい治療法を開発する。

研究者から獣医師となった現在までの経緯を教えてください。

高校生の頃から生き物に興味があり、最初は東邦大学で分子生物学を専攻して、遺伝子とたんぱく質の研究をしていました。ところが、単なる物質を調べるより、生物そのものの研究がしたくなり、国立感染症研究所の獣医科学部でアルバイトをはじめたんです。そこで感染症の予防学に興味を持ち、動物の公衆衛生を学び直そうと岩手大学獣医学部に編入学しました。ただ4年生で進路を決める際に、定員から漏れてしまい、公衆衛生学の研究室には入れなかったんです(笑)。

そのため岩手大学では外科の研究室に入り、動物の腫瘍の研究をはじめました。当時僕は研究者になりたかったので、その後は東京大学大学院へ進学し、さらに研究を続けました。
大学院では、腫瘍に加え、遺伝子の解析の研究もしていたことから、卒業後は理化学研究所に就職し、一度獣医学を離れて、人のゲノム解析の研究員になりました。そこで何万人ものゲノム解析をするうちに、この手法を犬にも応用できるのではないかとひらめいて。そんなとき、現在勤める東京大学の動物医療センターとご縁があり、2018年10月から獣医師として働きつつ、研究もするようになりました。

現在、東京大学附属動物医療センターではどのような仕事をされていますか。

臨床医としてペットの診察に加えて、感染症に関するサンプル採取・検査・診断・抗菌薬の処方などを行っています。また、院内のコンサルテーションも大きな仕事の一つで、菌の検査結果を一緒に見ながら、原因菌を確認したり、症例に合わせて適切な抗菌薬を提案したり。そもそも、抗菌薬が必要なのかという相談にも対応します。他にも、抗菌薬のセレクトや薬の購入、原因菌と抗菌薬を整理したリストの作成など、感染症や抗菌薬に関することは何でもしますね。

抗菌薬の正しい使い方と感染症診療の手法を普及し、ペットの衛生環境を守っていきたい。

日々の診療とは別に、抗菌薬の処方についての普及にも力を入れられています。何かきっかけがあったのでしょうか?

まず獣医療における抗菌薬の使い方を是正したいと思ったのが、大学院生の頃です。2015年当時、世界中で薬剤耐性菌が増えて、抗菌薬(抗生物質)では治らない病気が広がり、大きな問題になっていました。WHO(世界保健機構)から各国へ対策が求められ、周りの医師たちの話題にも上っていたので、小動物でもきっと対策が必要になると感じて取り組んだんです。
そのときも、まずは人医療での抗菌薬の選び方を見て、その理論を獣医療にも応用してみました。すると、獣医療における抗菌薬の選び方も、論理的な法則で整理できることがわかり、「抗菌薬の選び方はロジックなんだ」とすごく納得できた。そして、その法則を発見したことで、他の獣医師から抗菌薬について質問を受けることが増えたんです。
その頃から、これを周りに伝えていければ、獣医師がもっと適切に、楽に、抗菌薬を選べるようになると考えるようになりました。

具体的には、どのような活動をされているのでしょうか。

抗菌薬の適切な処方についてのセミナー開催や講師としての参加が主な活動内容になります。講演をしていると、「こんな方法は初めて聞いた」という反応がよくあるので、これからも活動は続けていきたいですね。ロジックを理解することに経験は関係ないので、特に若い世代を中心に周知していくことが大切だと思っています。

適切な処方について普及される中で、現場に伝えていく難しさはありますか?

まずは、原因菌と抗菌薬の関係を体系化した「感染症診療」を獣医師に知ってもらうことが課題です。実は今の日本の獣医学には、感染症を専門に扱う学問がありません。そのため僕は、研修医を対象とした「感染症診療」の研修プログラムを運営していて。
第一ステップでは原因菌や抗菌薬に関する基本的な講義を行い、第二ステップでは実際の感染症診療を行うと共に、プログラム参加者から他の獣医師への周知もお願いしています。僕一人で普及していくことは限界があるので、「感染症診療」を広めるための仕組みを作っているところです。

人・動物・環境が一体となって病気を予防する「One Health」。オーナーさんの協力も必要に。

薬剤耐性菌を減らすため、オーナーさんでも協力できることはありますか?

抗菌薬が処方されたら必ず飲み切ってください。例えば、膀胱炎の薬を飲んで症状が良くなったら中断して、また膀胱炎になったときに飲ませるなど、自己処方はNGです。薬を中断したことで菌が死滅しなかった場合、新たな耐性菌を生み出す原因になります。
もう一つは、薬が処方されなくても、きちんと診断しているので安心していただきたいですね。オーナーさんの不安を解消するために、不要な薬を処方してしまい、抗菌薬の乱用につながっているケースもあるので。獣医師によく説明してもらって、納得してもらえると助かります。

薬剤耐性菌は、ペットだけでなく人にも影響があると聞きました。

ペットの薬剤耐性菌は、人に移る可能性もあります。例えば、糖尿病の方が犬を通して耐性菌に人が感染した場合、薬が効かずに最悪、感染部を切断するケースも考えられます。つまりペットの薬剤耐性菌は、人間の健康にも関わってくる問題なのです。
今、「One Health」という考え方が世界で主流になりつつあります。病気の予防には、人と動物、そして介在する環境も含めて、健全な状態を守っていくことが必要だという考え方です。
そういう意味では、薬剤耐性菌は抗菌薬の自粛だけでは2割弱程度しか減りませんが、手洗いやそのほかの衛生管理を徹底することで6割強まで改善すると言われています。
ペットの薬剤耐性菌の問題も「One Health」の視点で、手洗いを徹底するなど衛生環境を整え、みんなで改善していくことがベストだと感じています。

今後はペットを守る環境づくりと同時に、難病の治療・予防法の研究にも力を入れていく。

現在されているお仕事では、どんなときにやりがいを感じますか?

治療した子の病気が治ってオーナーさんから感謝されることは、もちろんうれしいです。また、診療は教科書通りに行うのが一番ですが、それが当てはまらないときは、腕の見せ所と気合が入ります。病気の原因に立ち戻って、論理的に考え、治療法にたどり着けたときは「よしっ!」と感じる瞬間ですね。
一方で、病気を治すために全力を尽くすのは、獣医師として当然のことだと思っています。それよりも、そもそも病気にならないようにしてあげたい。それが僕の目指す、究極の目標ですね。

幅広くご活躍されている中で、今後やっていきたいことを教えてください。

セミナーや研修医のプログラムで、抗菌薬や感染症診療の知識を伝えていくことは、今後も続けていきたいと思います。加えて、僕は研究が好きなので、まだ治療法のない病気の新たな治療法や予防法、薬の開発なども進めていきたいです。今は原因不明のパグ脳炎やチワワの心臓病などの難病について、血液を使って遺伝子的要因を探し、治療や予防に役立てる研究をしたいと考えています。

最後にオーナーさんへのメッセージをお願いします。

愛犬・愛猫の体調が気になったときは、早めに獣医師に相談してください。インターネットの情報に頼ってしまう方も多いと思いますが、例えば下痢一つをとっても、その原因は複数あります。その中で私たち獣医師は、品種や年齢、当日の体調、血液や尿検査の結果、さらにオーナーさんの話や実際の様子も踏まえて、問題を洗い出し、多くの診断名から原因を絞り込んでいます。
サイトに書いている内容は、その子の情報が考慮されておらず、いざというときには参考にならないことが多い。だからこそインターネットの情報は予備知識に留め、気になることがあれば、迷わず病院に来ていただくのが、愛犬・愛猫を元気にする近道です!

大学院農学生命科学研究科附属動物医療センター

松原動物病院・佐藤佳苗先生のバトンへの回答

佐藤先生

Q1. 抗菌薬の適正な使われ方について、オーナー様側で知ってもらいたいことはありますか?

茂木先生

抗菌薬が処方されたら、最後まで飲み切ること。薬が処方されなくても、不安に思わないこと。この2点をわかっていただけると助かります。抗菌薬の乱用を防ぎ、正しい診断をするためにも、動物病院に連れてきてください。どんな小さなことでも気にせず全部話していただけると、診断の決め手が見つかりやすくなります。

佐藤先生

Q2. さまざまな研究にも取り組んでおられますが、特に力を入れようとしているものはありますか?

茂木先生

治療法が見つかってない病気の遺伝的要因を、血液を調べることで解明したいと考えています。原因不明となっているパグ脳炎の研究に取り組む予定で、現在パグとヨーキー、そしてチワワの血液を集めています。もし提供していただけるオーナーさんがいらっしゃれば、ご連絡いただけると幸いです。

杉並動物循環器クリニック・木﨑皓太先生へのバトン

Q1. 循環器の専門家を目指そうと思ったきっかけは何ですか。
Q2. 病院を運営する上で、一番の気苦労は何ですか。
Q3. 今後の人生で、まだやってみたいことはありますか。

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