人間と同じようにワンちゃんたちにも「高齢化」の波が押し寄せ、いかに「健康寿命」を延ばせるかが大きな関心事になっています。そこで、高齢犬の診療も多く行っている獣医師の先生と、実際の介護や老化予防を実践・アドバイスしているペットケアマネージャーによる対談企画を実施。第3回は、シニア犬と長く元気に暮らすためのケア・介護について、「大型犬・小型犬ごとのケア・注意点」「犬の認知症」「シニア犬との一人暮らし」をテーマに実演レクチャーも交えながらご紹介します。
向後 亜希 先生
平端 弘美 先生
目次
シニア犬のケア・介護(1)
「大型犬・小型犬ごとのケア・注意点」
犬種や体のサイズによって老化の症状や注意点は異なるのでしょうか?注意すべき点や陥りやすい症状などがあれば教えてください。
大型犬は8歳ぐらいから高年期、12歳ぐらいから老年期と言われ、寝たきりになるのも早いので、若いうちから筋力トレーニングを行うことが大切です。
また大型犬は温厚な子が多く、ケア自体はしやすいのですが、体が大きいため介護する人の負担が大きいという側面もあります。日中、愛犬の世話はお母様がみられているご家庭も多いと思いますが、体位交換など、女性には大変な場面がある、ということは知っておいてほしいですね。
小型犬のお世話は比較的にラクですが、性格的に気が強かったり、触られるのを嫌がる子が多かったりします。温厚そうに見える柴犬や甲斐犬などの中型犬も、ワンちゃんによっては急に噛んできたりする子もいますから、子犬の頃からマッサージをするなど、体に触れることに慣れさせておくと良いですね。
年齢を問わず犬種によって罹りやすい病気もあります。そうした病気はシニアになると症状が出やすくなるので、かかりつけの先生に事前に聞いておいた方が良いかもしれません。
シニア犬のケア・介護(2)「犬の認知症」
飼い主さんにとって「認知症」は大きな心配事の一つだと思うのですが、予防の面で、若いうちからできるトレーニングやおすすめのケアはありますか?
ワンちゃんが歳をとって一緒に出かけることが減ったという方もいますが、やっぱり暇だと認知症になりやすい。刺激は必要だと思いますね。歳だからといって、外出する機会を減らすのではなく、たまには日常ではないところに出かけて、刺激を与えることも必要です。
例えば、「ジョギング」「脳トレ」「気になる異性と接する」。これらは人間の認知症予防に良いと言われているものです。犬に置き換えてみると、ジョギングは適度な運動。脳トレは、知育トイなどのおもちゃで代用できます。気になる異性と接するというのは、他の犬に会わせたり、目標を達成できたら特別なおやつをあげたり、異性に限らずドキドキすることがあると脳の刺激になります。今はサプリもあるので、食事面のケアも含めて、日々予防してあげると良いと思います。
認知症の現れ方
- 1. 無気力になる・呼びかけに反応しない・好きな遊びに興味を示さない
- 2. 前に突進して、バックできない
- 3. 右旋回・左旋回のみを繰り返す
- 4. 意味もなく、単調な声で鳴く
- 5. 食欲が旺盛過ぎる
- 6. 昼夜が逆転してしまう
*単調な声で鳴くのは体に痛みがあることが原因の場合や、昼夜逆転は体内時計が狂っていることが原因の場合もあるため、認知症を疑う前にまずはかかりつけ医に相談しましょう
平端先生の実演レクチャー<認知症予防編>
犬の認知症予防に、脳トレをはじめよう!
じゃんけんゲーム
じゃんけんゲームとは、「お手」「おかわり」「待て」をグーチョキパーで行う犬の脳トレ。「お手」のときはパー、「おかわり」はチョキ、「待て」はグーで指示を出し、ワンちゃんが覚えたら、徐々にスピードアップします。難しく感じるかもしれませんが、できる・できないではなく、犬と飼い主さんが一緒に楽しみながらやるのがポイント。
おすすめの知育トイ
自分の鼻や手を使ってフードを探す知育トイやノーズワークマットも認知症予防に効果的。犬の好物を隠しておくことで、楽しく遊びながら脳トレができます。
飼い主さんとのスキンシップも、立派な認知症予防!
口の端に指を引っ掛けて広角を上げる「広角マッサージ」。マッサージやスキンシップは体をほぐすとともに、犬を安心させてリラックスさせる効果があります。優しい声で話しかけながら笑顔で行うと、一層効果的です。
シニア犬のケア・介護(3)「シニア犬との一人暮らし」
一人暮らしの方や日中は家を空けることが多く、シニア犬に留守番させるのは心配という方もいると思います。そういった方にアドバイスできることはありますか?
こうご動物病院では、日中の預かりを受け付けています。動物病院であれば、その子の性格やお世話の仕方をある程度は理解していますから、シニア犬に留守番させるのは心配という方は、かかりつけの先生に相談してみてください。高齢犬も増えているので、そうした対応をしてくれる動物病院も増えていると思いますよ。
預かりのある動物病院はもちろん、犬の介護施設を利用してみるのも良いかもしれません。そうした施設では脳トレゲームをしたり、整体をしたり、さまざまなケアをしてくれます。また、私たちペットケアマネージャーを頼っていただいても結構ですし、シニア犬に強いドッグシッターのご紹介もできます。介護と上手に付き合っていくという意味でも、ぜひ飼い主さんが息抜きできる日を作ってください。
留守番自体は仕方がない部分もあるので、一人で抱え込まないことが重要です。全てを抱え込んでしまうと飼い主さんが疲れてしまうので。たまには息抜きしていいんだよということをお伝えしたいですね。
ありがとうございました。最後に、わが子の老いや、シニア犬のケア・介護に向き合う飼い主さんへのメッセージをお願いします。
飼い主さんが愛犬の老いについて考えたくないという気持ちはよくわかります。ただ犬は、人より確実に時が進むのは早いということは頭の片隅に置いておいてください。歳をとることを念頭に、若いうちからケアやお散歩をしっかりやれば、健康に長生きできると思いますし、そういうことを知らずに後悔される方も多いので。
また今は早期発見・早期治療を行うことで、治る病気も増えています。シニアになったら、健康診断など年2回くらいは獣医師に診てもらってください。上手に動物病院と付き合いながら、シニア犬になっても健康に、長生きしてもらいましょう。
いつかは愛犬も飼い主さんの歳を追い越して、排泄を失敗するとか、足が立たなくなるとか、できないことが増えていきます。できないことを数えるのではなく、今できていることを一つでも多く見つけて、たくさん褒めてあげてほしいです。今までたくさんの癒しと笑顔をくれた愛犬に、心を込めてお世話してください。
ただ飼い主さんが疲れていたり、悲しい気持ちでいると、それは愛犬にも伝わりますから、わからないことや不安なことがあったら、一人で抱え込まず、ぜひペットケアマネージャーという存在を頼ってください。話をするだけでも気持ちがラクになりますし、色んな介護に関する知識もお伝えできると思うので。