獣医師の先生に愛犬との暮らしについて聞く「Vet’s Dogs~獣医の犬の飼い方~」。今回は、ミニチュアダックスフンドの女の子、梅子ちゃんと兵庫県川西市のミネルバ動物病院院長、田中浩二先生のもとを訪れました。田中家のアイドル、梅子ちゃんと家族の日常生活をはじめ、ミニチュアダックスフンドの特徴、飼うときの注意点などについて、たっぷりと伺いました。
田中 浩二 先生
目次
姉妹の“三女”、ミニチュアダックスフンドの梅子ちゃん。いつも家族の真ん中に
ミニチュアダックスフンドの梅子ちゃんは、どんなふうに家族になりましたか?
一緒に働いている看護師さんの知人のワンちゃんが出産し、生まれた子犬の1頭をもらい受けました。それが梅子です。うちには人間の娘が3人いるのですが、梅子は年齢も位置付け的にも、次女と三女の間、つまり実質の“三女”なんです。例えば長女と次女が、梅子のおもちゃやタオルを取っても全く怒らないのに、三女(梅子を入れると四女的立場)には怒る。家族における自分の立場をよくわかっているんですよね。
子犬のときからうちに来て、今、梅子は10歳です。いわば子育てと子犬育てが同時に進んできたのですが、梅子はいつも家族をつないできてくれました。娘の一人が梅子に近付くと、ほかの子たちも自然と梅子の周りに集まったり、ケンカをしていても梅子を囲むといつの間にか仲良く話していたり。姉妹だけでなく僕たち夫婦も含め、家族の気持ちを温かくしてくれる大切な存在です。
ミニチュアダックスフンドの性格は繊細!
些細な感情の変化に、飼い主さんが気付いてあげて
ミニチュアダックスフンドには、どんな性格の子が多いのですか?
梅子もそうですが、怖がりの子が多いですね。人懐っこい子もいますが、基本的には繊細な犬種で、知らない人にはあまり心を開かないところがあります。その分、安心できる家族に対しては、甘えたり喜んだり、そこがかわいいんですよね。家族にはしっぽをブンブン振るけれど、知らない人には反応しない様子なんかも、飼い主心をくすぐります。
ただ、自分の感情を大きく表に出さない犬種でもあるので、飼い主さんがワンちゃんの気持ちを察知してあげる必要があると思います。梅子もあまり感情を表に出さないからこそ、娘たちは自分から梅子の様子を気にかけているようなところがあります。痛みや怖さに対しても感情をあらわにせず見逃してしまう危険があるので、しっかり様子を見てあげましょう。
梅子ちゃんが感情を爆発させることはありますか?
あまり感情表現しない梅子が怒る相手、それが(本当の)三女です。彼女にだけには、「ううー」とうなって怒っていることがあるのですが、それを見て家族は、みんな大喜びなんですよ(苦笑)。「梅子が感情を爆発させてるよ!」って。梅子のちょっとした行動に嬉しくなったり、悲しくなったり、まさに、我が家のアイドルですね。
家族のアイドル梅子ちゃん、調子の良い性格も可愛い
梅子や、ほかのミニチュアダックスフンドにも当てはまるのですが、飼い主さんに抱っこされていたり、ケージの中にいたりすると、途端に強気になる傾向があります。相手に対して強気に出ても、身の安全が守られているので怖くないんですよ。でも、抱っこから床におろしたり、ケージを開けたりした途端に、シュンと大人しくなりますね。
また普段は、僕が帰宅しても「うん?おかえり」という感じで、ソファーの上で頭をちょっと持ち上げるくらいしか反応してくれない梅子ですが、病院に連れてきたら、僕に対してすごく愛情を示すんです。知っている人が僕しかいないから(苦笑)。おやつを見せたときも、同じようにコロっと態度が変わります。そんな調子の良い子ですが、それも含めてとてもかわいいです。
梅子ちゃんは、何をするのが好きですか?
梅子は寝るのがとっても好きなんです。家でもそうですが、病院に来ても2階のソファーでずっと寝ています。週末やお休みの日は子どもたちに、もみくちゃにされるので、平日は奥さんとソファーでゆっくり過ごすのが好きなようですね。平日は絶対にそんなことしないのに、日曜日に子どもたちが家にいると、仕事に行く僕に付いて行こうとすることもあるんです。玄関まで走ってきて、僕の車の前に座り込んで。それは梅子なりの「今日はのんびりしたい……」というサイン。自分がゆっくりできる環境をよく知っていますよね。
腰に負担がかかりやすいミニチュアダックスフンド。
体重管理や散歩の工夫でヘルニア予防を
梅子ちゃんの体調やケアで、気を付けていることはありますか?
ミニチュアダックスフンドは、腰の椎間板ヘルニアを発症する子が多いという特徴があります。ヘルニアは、椎間板が脊髄を押しつぶしてしまうことで神経にダメージを与え、痛みが出たり足の麻痺につながったりする病気。ミニチュアダックスフンドは胴が長い体型のため、どうしても腰に負担がかかりやすいんです。長い橋の真ん中に圧がかかっているイメージですね。だからこそ、普段から腰に負担をかけないよう注意しています。
ヘルニアの予防として一番大切なのは体重管理。まずは太らせないことです。椎間板ヘルニアで手術が必要になった子で、皮下脂肪がたくさんついている子をよく目にします。太っていると腰への負担がかかり、それだけヘルニアの発症リスクが高くなることを、飼い主さんにはぜひ知っていてほしいですね。梅子は食が細いので、今のところ体重管理はうまくいっています。
また、腰への負担をかけないという点では、散歩ではなるべく平坦な道を歩き、止まった姿勢から急に走り出さないようにしています。無理にたくさん歩くということもさせていません。
ミニチュアダックスフンドの腰のケアポイント!
- 1. 体重管理による肥満防止が大事
- 2. 散歩は平坦な道を選び、無理をさせない
- 3. 運動するときは、急なかけ足や坂道はNG
[ミニチュアダックスフンドの肥満チェック法]
ミニチュアダックスフンドの肥満は、あばら骨を軽く触って、1本1本の骨が確認できるかどうかでチェックしましょう。太っていると皮下脂肪が分厚くついているため、かなり強く押さないと確認できません。軽く押しただけであばら骨がわかるのがベスト。これを目安にごはんやおやつの与え方、運動の仕方などを管理してあげてくださいね。
垂れ耳のミニチュアダックスフンドは、耳ケアが不可欠!歯周病予防もお忘れなく
ミニチュアダックスフンドの場合、耳や歯のケアに注意は必要ですか?
垂れ耳なので、耳の中の感染症にも注意しています。垂れ耳の子は、耳が閉じているため湿気がこもりやすく、細菌や真菌が繁殖しやすいんです。臭いがきつくなったり、耳垢の色が変わったりというような変化が見られたら要注意。日常的に観察し、清潔に保ってあげるようにしましょう。
近年、ワンちゃんの歯周病が増えていますが、ミニチュアダックスフンドにも多いと言われています。僕は、犬の歯周病は歯の病気ではなく、「骨の病気」だと考えています。歯周病は進行して末期になると、歯が溶けてしまい、その結果、口と鼻がつながってしまったり、下顎が簡単に骨折してしまったりすることがあるからです。
歯磨きをしてあげることがベストな予防方法なのですが、できない子は定期的に、歯石除去や歯周ポケットの掃除を受けると良いでしょう。歯と歯茎の境界が充血するような所見が見られたら、歯周病の可能性があります。目に見える歯石の除去だけでは不十分。歯周ポケットの掃除まで、きちんとやってくれる獣医さんにかかってほしいですね。
実は、梅子は歯磨きができません。代わりの口腔ケアとして、歯磨きガムをあげています。梅子の食事はほぼドライフード。ドライフードは丸呑みする子が多く、歯垢があまりつかないと言われており、実際、梅子もあまり汚れが付いていません。柔らかい食べ物やジャーキーなどをあげている飼い主さんは、歯垢がついていないかにも注意してあげてくださいね。
アレルギーを持つ子も多いミニチュアダックスフンド。
かゆみがあれば、まずは食生活の見直しを
ミニチュアダックスフンドならではの病気や注意したいことはありますか。
ミニチュアダックスフンドにはアレルギーがある子も多く、梅子は食事が原因で皮膚にトラブルを起こしたことがあります。そのため今は、ドッグフードを1種類に限定し、それだけをあげるようにしています。ついつい、おいしいものをあげたくなりますが、かゆみの原因が入っているかもしれないので、控えるようにしています。
犬の場合、タンパク質が原因でアレルギーを発症することが多く、牛肉や豚肉、鶏肉、あとはお米や大豆アレルギーという子もいます。ワンちゃんが自分の手を舐めているときは要注意。「癖かな、遊んでいるのかな」と思う飼い主さんが多いのですが、これは手のかゆみが原因かもしれません。まずは、ごはんをドライフードの主食だけに限定するなど、様子を見てください。
主食だけにしてもかゆみが止まらないようなら、主食に入っている成分が問題かもしれません。成分をいくつか除去してみるなど、かかりつけの動物病院に相談し、何が原因か確かめてみることをおすすめします。
ミニチュアダックスフンドの日常ケアポイント!
- 1. 耳の中を清潔にし、黒い耳垢が出たら病院へ!
- 2. できれば歯磨きを、できなければ年単位での歯周病ケアを
- 3. かゆみチェックで、アレルギーなどの発見を
ミニチュアダックスフンドも、6歳を超えると内臓の病気が増えてきます。定期健診や日々の健康チェックを
その他、注意していることはありますか。
定期健診を欠かさないようにしています。内臓に起因する問題や病気は、血液検査やレントゲン、超音波などを行わなければ、見つけることができません。特に6歳を超えてくると、内臓の病気が増えてきます。症状が出てから発見される腫瘍の摘出手術では、手遅れになってしまうことが多い一方、肺の腫瘍などは早期発見で完治が見込めるのです。早期に見つけてもらえる子は、やっぱり飼い主さんがきちんと健康診断を受けさせているんですよね。
あとはよく観察し、よく触ることで、いつもと変わりがないか見逃さないようにしています。女の子なので、乳腺へのしこりなどもチェックしています。娘たちも、梅子の健康チェックにとても協力的。「いぼができた!」、「何かしんどそうだよ?」など、変化があればすぐに教えてくれます。幸い、これまで大きな病気をしていないので、健康を維持できるように、これからも家族で見守りたいと思っています。
ありがとうございました。最後にミニチュアダックスフンドのオーナーの皆さんへメッセージをお願いします。
繊細なところがあるのが、ミニチュアダックスフンドです。自己主張をあまりしない子もいるので、飼い主さんが小さな異変にも気付いてあげる必要があります。家族にしか心を開かないミニチュアダックスフンドは、その忠誠心がかわいく、愛おしい。梅子は、“三女”として我が家に君臨し、家族にとってなくてはならない存在です。
胴長の体型で、どうしても腰に負担がかかりがちになりますので、きちんと体重管理をしてあげましょうね。歯や耳の状態も、スキンシップとともに、しっかり見てあげてください。ずっと一緒に、元気に暮らせるよう、飼い主さんの協力が不可欠です。僕たち家族も、甘えたがりで調子の良い梅子と、毎日を楽しく過ごしたいと思っています。
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