今回からスタートする「すべての動物たちに幸せな毎日を ~つなぎ手たちのメッセージ~」は、「動物たちが健やかに幸せに暮らしていける社会をつくりたい」と奮闘している方々の活動や思いを紹介するシリーズです。
今この社会では、動物と共に暮らしているオーナーの皆さんはもちろんのこと、獣医師や動物の保護活動に力を注いでいる団体、ボランティアの皆さん、たくさんの人が「動物たちの幸せ」を願って暮らし、活動しています。ここではどのような人たちが、どこでどんな活動をしているのかを紹介するとともに、読者の皆さんと「動物たちの幸せな未来のために、私たちに何ができるのか」を一緒に考えていければと思います。
記念すべき第1回は動物専門の寄付サイトを運営する公益社団法人アニマル・ドネーション(以下、アニドネ)の代表理事 西平衣里さんと、#HugQを運営する日本全薬工業株式会社(以下、ZENOAQ) の福井寿一社長のスペシャル対談を開催。
それぞれの思い描く「動物の幸せな未来」、そしてその実現について語っていただきました。
西平 衣里さん
(株)リクルートの結婚情報誌「ゼクシィ」創刊にメンバー、クリエイティブディレクターとして携わる。14年間の勤務後、ヘアサロン経営を経て、犬を飼ったことをきっかけにアニドネを設立。「キモチ」を「カタチ」にするお手伝いを、と動物専門寄付サイトの運営に尽力し、日本の動物福祉を世界トップレベルにすることをミッションに、社会に向けた広報活動や認定団体への教育支援など、様々な取り組みを行っている。
アニマル・ドネーション:
https://www.animaldonation.org
福井 寿一さん
代表取締役会長 福井邦顕の長男として福島県郡山市に誕生。明治学院大学社会学部卒業後、日本全薬工業に入社し、米国での企業研修などを経て、2008年に海外事業部長として同社、北京代表処へ赴任。2011年に帰任後、国際本部長を経て2018年より現職へ。近年では、日本の畜産を応援するサイト「どっこいしょニッポン」、獣医師とペットオーナーをゆるやかにつなぐ「#HugQ(ハッシュハグ)」などのWEBメディアを開設し、エンドユーザーへの情報発信にも精力的に取り組んでいる。
日本全薬工業株式会社:
https://www.zenoaq.com/
どっこいしょニッポン:
https://dokkoisyo.jp/
#HugQ:
https://www.hash-hugq.com/
目次
支援者と保護団体をつなぐアニドネと、獣医師とオーナー・生産者をつなぐZENOAQ。「つなぎ手」としての役割とは
(以下、福井)
今日は対談にお越しいただきありがとうございます。
(以下、西平)
こちらこそ、お話しできることを楽しみにしておりました。
アニドネさんとZENOAQは、これまでもノミ・マダニ駆除薬の売り上げの一部を動物保護活動のため役立てる寄付活動、セーブペットプロジェクトなどでもご一緒してきましたので、お付き合いはもう長くなりますね。
いただいた寄付金は保護犬や保護猫たちの医療費や、マイクロチップの装着などに大切に使わせていただいています。保護活動でもっともコストがかかるのが医療費なので、本当にありがたいです。
動物福祉においては企業としてどう貢献していけるかをZENOAQも常に考えているので、そう言っていただけるとうれしいです。
ZENOAQさんは動物用の医薬品メーカーですが、現在はどのような事業に力を注いでいるのですか? また、#HugQはどのような経緯でスタートしたのでしょう?
ZENOAQは1946年に設立し、ちょうど今年、2021で75周年を迎えます。創業以来、動物用の医薬品のメーカーとして、特に畜産動物の医薬品をメイン事業としていました。しかし時代の変化とともにペットを飼う方々が増え、現在では小動物の分野にも事業を拡大し、ノミ・マダニ駆除薬など多くの商品をペットオーナーさんにも使っていただくようになりました。
私も犬を飼っているので、ZENOAQさんのノミ・マダニ駆除薬にはずっとお世話になっています。
ありがとうございます。近年では国内外の企業や研究機関と連携し、自社製品の開発、新たなものづくりにも力を入れています。その中で、事業や製品を通して生産者と獣医師、動物病院とオーナー様をつなぐ以上に、もっともっと様々なつながりをつくっていければと考えるようになったんです。
なるほど。その思いが#HugQにつながっていくんですね。
そうなんです。2016年にまずスタートしたのが、日本の畜産を応援するWEBマガジン「どっこいしょニッポン」で、続いて2021年に立ち上げたのがこの#HugQです。ここでは、犬と猫それぞれのオーナー様と、獣医師さんの相互理解を深め、両者の円滑なつなぎ役になれればと考えています。
企業や動物病院に対してビジネス展開をしているイメージが強かったZENOAQさんが、獣医師さん向けではなくオーナー向けのメディアを立ち上げられたことに驚いたんですが、そういう意図があってのことだったんですね。#HugQの内容を拝見し、医療のプロのフィルターを通しての情報発信は、信頼感があって、とてもいいなと感じました。
西平さんはどのような思いで、アニマル・ドネーションを立ち上げたのですか?
アニマル・ドネーションは、寄付のプラットフォームとして組織を立ち上げてから、2021年9月で丸10年を迎えました。動物保護活動に奮闘している現場の皆さんに、様々なところから集まった寄付を届けることが活動の主軸です。寄付したい人と保護団体とをつなぐ中間組織ですね。立ち上げのきっかけは、私自身が犬を飼い、その子の病気治療などで動物病院に通ったり、動物医療のことを調べたりするうちに、日本の動物福祉の問題を知ってしまったことにあります。動物が大好きだったので、あまりにもかわいそうな境遇の動物たちが日本にはまだたくさんいることを知り、動き出さずにはいられませんでした。
最初から寄付のプラットフォームを作ろうと考えていたんですか?
いえ、最初は情報を集めていたんですが、それだけではなく、何か「動物を救う手立て」が必要だと感じたんです。その手立てを探るうちに、医療費が集まれば、救える命がたくさんあると気づき、寄付金のプラットフォームという形にたどり着きました。最初はなかなかうまくいかないこともありましたが、「日本の動物福祉を世界トップレベルにする」ということを掲げてまっすぐに活動を続けていくうちに、共感してくださる方や企業も増えてきました。2021年3月には、内閣府から紺綬褒章の認定団体として認められるなど、少しずつではありますが社会に必要だと認められてきたように感じます。
なかなか向上しない日本の動物福祉。動物たちの幸せのために、私たちにできること
現在の日本における動物福祉の課題を、どう考えていますか?
コロナ禍によるペットブームの到来で、動物福祉の課題が浮き彫りになりつつあるように感じます。例えば、ペットショップで子犬を購入後、半年もせずに手放してしまった人がいるというようなニュースが報道され、問題意識を持つ人も多くなったのではないでしょうか。
そうですね。つい先日も、1,000頭を抱えるブリーダーが崩壊したという報道がありました。保護されたのは登録数よりもはるかに多い1,000頭の犬たちだったといいます。こういった子たちは、狭いケージに入れられ、散歩にも行ったことのない子がほとんど。どんな環境で飼育がされていたのかと思うと胸が痛みます。2021年6月から動物の飼育数や管理方法に具体的な基準を設けた改正動物愛護法が施行されましたが、これにより、こういったブリーダー崩壊は今後どんどん多くなることが懸念されます。
ブリーダー施設での動物たちの飼育環境が改善されるのは良いことですが、たくさんの動物たちが行き場を失ってしまいそうですね。
そうなんです。すでに頭数制限違反となるので、今いる子たちを手放したいという連絡が、ブリーダーさんから保護団体にも入ってきています。先日はベンガル猫25頭をいきなり引き取ることになり、保護団体も保護スペースに頭を抱えていました。
日本には保健所や動物愛護センターはあっても、保護された動物たちが快適に暮らしていけるような大きな行政のシェルターなどもないですしね。
ええ。ヨーロッパなどでは動物は感情のある生き物だとされて、その感情も重視されるので、犬猫たちの保護設備も整っているのですが、日本ではまだ「命あるもの」という扱いです。もう少し、社会的な意識が高まっていけば、次第に日本の動物たちをとりまく課題も、解決に向かうことができるのではと思うのですが……。
世の中の問題意識が高まっている今は、もしかしたら、社会における動物福祉への意識向上のチャンスともいえるかもしれませんね。
日本の動物たちを幸せにするために、私たちが手を取り合ってできることとは、どんなことがあるでしょうか?
日本の動物福祉の課題は長く存在しつつも、なかなか解決に至っていない難しい問題です。私たち動物にかかわる企業としても、何かしたいと思いつつ、どう動くべきか判断しかねる部分もありました。しかし、アニドネさんが中間組織となって企業と保護活動に取り組む方々をつないでくださったことで、1つの道が開けました。さらにこれからは、私たちがいつもお世話になっている獣医師の皆さんとのネットワークを生かして、オーナーの皆さんの意識向上を促したり、社会に共感を得られるような活動をしたりできればと考えています。そこでまたアニドネさんとも新たな連携ができればうれしいですね。
ええ、ぜひ。アニドネでも、近年多くの企業様からお問い合わせをいただき、商品の売り上げの一部を寄付する仕組みを作ったり、コラボ商品を企画したりと、様々な形のつながりが生まれています。こういった活動の中で、企業の社員様や商品を購入した方が動物保護活動に興味を持ってくださることが本当に大切ですね。まずは知識の浸透だと私たちも思っています。ZENOAQさんは、獣医師さんと強固なネットワークをお持ちなので、獣医師の皆さんとも一緒に何かできればうれしいですね。
最近では、飼えなくなった動物を動物病院に置いていってしまう方もいるということで、獣医師の皆さんも課題感を強く持たれているようです。獣医師や医薬品の業界団体も一緒になって取り組みましょうと旗をふって声をあげることは、私たちでもできるのではと思います。
それに加えてですが、私たちがZENOAQさんにぜひお願いしたいと考えているのは、「動物たちとの暮らしがいかに豊かであるか」をもっと世間に広めていくことです。海外研究などでは、幼少期に犬や猫と一緒に育った子供はノンバーバルコミュニケーション力(非言語コミュニケーション力)に長けていることが証明されていたり、犬と見つめあうだけでオキシトシン、いわゆる幸せホルモンが出ることなどが証明されていたりします。学術、研究分野に優れた企業であるからこそ、ZENOAQさんには、こういった研究をどんどんしていただいて、日本でも動物の存在そのものの価値、彼らと共に生きていくことの豊かさを発信していっていただきたいなと考えています。
なるほど。そうですね。私たちも「動物の価値を高める」ことや人と動物の「豊かな暮らし」の実現を企業理念に掲げています。動物にかかわる研究は私たちの使命ともいえる分野ですので、ぜひ、そこは貢献していきたいですね。また、社会への発信ということに関してはこの「#HugQ」や「どっこいしょニッポン」が力を発揮できるのではと考えています。
ぜひ、よろしくお願いします。セラピードッグや、虐待などでトラウマのある子供に寄り添う付添犬などの活躍に代表されるように、動物から人が享受するものは大きいと考えています。興味を持ってくださる獣医師の先生も一緒に、何か、エビデンスを持った発信ができれば、社会が少しずつ動いていくのではと思うんです。
今の日本は、「動物も社会の一員」という文化にはまだ至っていませんが、そういった活動の先に、本当の動物との共存がある気がしますね。
動物との豊かな暮らしを実現するために、ともに挑戦していく存在に
アニドネが掲げるAWGs(Animal Welfare Goals)は興味深いですね。これを通じて、何を実現しようと考えているのですか?
8月にアニドネさんが立ち上げた、AWGsのWEBサイトを拝見しました。「動物の幸せな暮らし」を実現するために、何が必要かをとても分かりやすく提示していますね。この活動はどういった経緯でスタートしたのですか?
ありがとうございます。SDGsの普及によって、今、世界中の誰もが環境課題や社会課題の解決に向けて動き出さなくては、と考えるようになりました。これと同様に、動物福祉にも目を向けられる世の中になってほしい、そういった思いからスタートしたのがAWGsです。動物の視点に立って、「いきいきと暮らしたい」「愛されたい」「生きたい」という欲求を軸に13のゴールを設定しています。
快適な居場所や本能的欲求を満たすための散歩、人と触れ合う時間の確保など、確かにと頷く内容が並んでいますね。
犬や猫たちが人と一緒に、豊かに幸せに暮らすために何が必要かを明確にして、これを発信して広めていければと考えています。アンケートや署名機能もあるので、そこから様々なところへの提案につなげることも可能になっています。さらに今後、まだ21ほど課題があがってくる予定で、まだまだ進行形の企画なんです。
ここからの発展が楽しみですね。アニドネさんでは、様々な活動を活発に行っていますが、西平さんが今後、ZENOAQに期待することはありますか?
先ほど研究についてのお願いもしたのですが、全国の動物病院と深いネットワークを持つZENOAQさんにぜひ力を貸していただきたいのは、保護動物との出会いの機会創出の部分です。現代社会ではペットを飼っていない人は、犬や猫に触れる機会がありません。だからこそ「動物を飼いたい」と思った人がすぐにペットショップに行ってしまうわけですが、その選択肢を広げられればと思っています。例えば保護活動に賛同してくださる獣医師さんと私たちが連携し、動物病院がお休みの日にスペースをお借りして、保護動物の譲渡会や触れ合い会を行うことなどはできないでしょうか。海外ですと、動物を飼いたいと思った方が保護動物を見に来たり触れ合ったりできる大きな施設があるのですが、日本にはないので……。
確かに選択肢を広げることはとても大切ですね。触れ合うことで感じる愛おしさや豊かさもありますし。保護動物の存在が少しずつ世間に浸透してきた今だからこそ、もっと彼らと出会う機会を作る必要性があるのかもしれません。
各地の愛護センターも努力はしてくれているのですが、なかなか動物にとって快適で一般の方が訪れるような場所にはなっていません。今後は企業やNPO、ボランティアなど様々な人が手を組んで、日本にも「保護動物と人の出会いの場」をどこかに作っていけたらと思います。
アニドネさんの、世界に広くアンテナを広げ、新たな挑戦、アイデアをどんどん打ち出していく姿勢は、とても素晴らしいですね。ZENOAQも75周年を迎え、新たな経営理念を掲げてスタートを切ったばかり。ぜひ、一緒に新たな挑戦をしてみたいですね。
そう言っていただけて本当にうれしく思います。ZENOAQさんは、福島が本社ですが、確か牧場もお持ちではないですか?
ええ、臨床牧場があります。
でしたら、ぜひいつか一緒に子供たちが牧場で動物に触れ合い、世話をすることで社会に出ていく自信をつけられるように施設を作ることもご提案したいです。 海外には、自閉症やメンタル面に問題を持つ子供たちを、牧場や農園などの環境の中で、動物介在療法・植物介在療法・環境セラピーを用いて治療をする施設があるんです。
なるほど。とても興味深いお話ですね。ZENOAQも何か自社の強みを生かして、社会課題の解決や明るい未来づくりに取り組みたいと思っていました。ぜひ、一緒にこれからも様々な可能性を探っていきましょう。そこから、一歩ずつ、動物と人の幸せな暮らしが実現できる社会をつくっていけたらと思います。
ぜひ、今後ともよろしくお願いします。
第1回対談は、アニマル・ドネーションとZENOAQ、ふたつのつなぎ手同士が、手を取り合い、さらに大きな輪を広げていこうという希望に満ちた内容になりました。
「日本の動物福祉はまだまだ成熟していません」と西平代表は言います。確かに、動物福祉の先進国と言われるドイツ、イギリスに比べて法制度が整っておらず、動物たちにとって幸せな国とは言い難い環境があります。
2020年度には、何らかの理由で行政に持ち込まれた85,897頭の動物たちのうち、約32,743頭の命が安楽死とは言えない状況で失われました。行政に持ち込まれた動物のうち、犬の約10%、猫の約20%が飼い主からの持ち込みであることにも目を背けてはいけません。
ただ一方で保護活動によって、動物の譲渡数が年々増加しているという良いニュースもあります。20年度には53,067頭の動物たちが返還もしくは譲渡によって幸せをつかんでいるのです。
このデータや今回の対談から感じるのは、目の前の動物たちの幸せな明日をつくるのは、飼い主の皆さんだということ。そして、どこかで生きている動物たちの幸せな明日をつくるのもまた、私たち一人ひとりだということです。
「動物の幸せとは何か」 「私たちにできることは何か」
ぜひここから一緒に考え、動物たちが幸せになれる未来をつくっていきましょう。
皆さんの第一歩を、この「すべての動物たちに幸せな毎日を ~つなぎ手たちのメッセージ~」シリーズが後押しできれば幸いです。