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【ハグワン救急講座②】夜間救急の専門医に聞く「病気・症例別の対応ノウハウ」

【ハグワン救急講座②】夜間救急の専門医に聞く「病気・症例別の対応ノウハウ」

 
塗木 貴臣
      

日本でも屈指の救命救急体制を整えるTRVA夜間救急動物医療センターの副院長・塗木貴臣先生にお話を聞く「ハグワン救急講座」。我が子に緊急事態が発生したときに、飼い主さんはどう判断して、どう動いたらいいのか。いざというときのノウハウをお届けします。今回は具体的な病気・症例別の救急対応ガイドとして、「外傷(ケガ)」「誤飲・誤食」「呼吸器疾患」「循環器疾患」への対応ポイントとノウハウを伺いました。

プロフィール

塗木 貴臣 先生

2009年に日本獣医生命科学大学を卒業後、埼玉県・東京都の開業病院で勤務。将来の方向性を考える中で救命救急の分野と出会い、TRVA夜間救急動物医療センターに就職。2015年から、同センターの副院長を務めている。社会の中でも必要性の高い救急分野をさらに深め、発信したいとチャレンジを続けている。
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目次

「外傷・ケガ」の救急対応

インタビューを受けている男性獣医師

まず塗木先生に伺ったのは、「外傷・ケガ」への具体的な対応について。ワンちゃんがケガをして救急病院に運ばれてくるケースには、「体の表面に出血がある」か「体の中で異変が起きている可能性がある」かの大きく2通りに分けられるそうです。

「出血を伴うケガ」への対応ポイント

塗木先生

「体の表面に出血があるケースは、何かが刺さってしまったり、切り傷ができてしまったり、ときにはワンちゃん同士のケンカが元でケガをしてしまう場合などです。我が子が出血しているのを見るとどうしても慌ててしまいますが、まずは焦らず傷口を流水で洗い、タオルやガーゼなど清潔な布で押さえて止血しながら、病院に連れて来てください。」

  • ●傷口を流水で洗い流す

傷口を流水で洗っている犬

  • ●清潔な布などで傷口を押さえ、止血しながら病院へ

止血されている犬

傷口を洗浄し、止血されている犬

「鈍性外傷」への対応ポイント(高所から落ちる、何かにぶつかる等)

塗木先生によると、目に見えている出血よりも本当に怖いのは体の内部で起きる出血で、その原因となるのが「鈍性外傷(どんせいがいしょう)」。高いところから落ちてしまった、何かとぶつかってしまったなど、体に鈍い衝撃が加わることで発生するケガです。

●ケガをしたあと変わった様子がないか、30分程度注意深く様子を見る

塗木先生

「鈍性外傷は外見だけでは問題がわかりにくいという特徴があります。しかし体内で骨折や出血が起きている可能性もあり、症状に気づかずに放置すると危険な状態に陥ることもあります。歩き方に異変があったり、いつもの元気がなかったり、ワンちゃんの様子に少しでも違和感があるときは救急病院に連れて行ってください。何か衝撃を受けたあと、一瞬動きが止まるといった場合は、脳神経系にダメージが出ている可能性もあります。」

犬がぐったりしている様子の時間を計測している飼い主どんどんぐったりしていく場合は生命に関わる可能性もあるので、救急病院へ連れて行く。

「誤飲・誤食」の救急対応

塗木先生が勤めるTRVA夜間救急動物医療センターでは、「誤飲・誤食」で来院するワンちゃんも非常多く、誤って飲み込んでしまうと危険なものは主に2つのタイプが存在するそうです。

  • 犬が飲み込むと危険なもの<1>

●消化管に詰まる・傷つける恐れのあるもの
「1つ目は消化管に詰まったり傷つけたりする恐れがあるもの。尖った部分があるおもちゃ、ある程度大きさのあるボール、絡まりやすいひも状のものなどです。どれも体の中で消化されず、消化器を物理的に傷めてしまう恐れがあるので、飲み込んでしまった場合は何らかの方法で取り除かなくてはなりません。」

誤飲してしまう可能性のグッズと犬尖ったもの、硬いもの、大きいもの、
絡まりやすいものなど。
  • 犬が飲み込むと危険なもの<2>

●中毒になってしまうもの
「もう1つはチョコレートやタマネギなどに代表される、犬が中毒症状を起こしてしまうものです。他にはニラやニンニク、キシリトールガム、人間が服用する薬などが該当します。これらは消化されますが、ワンちゃんの体にとっては有害なもの。体内から取り除くか、既に体に取り込まれてしまった場合は適切な処置を施す必要があります。」

犬が食べてはいけないものと犬体内で消化はされるが、
犬の体には有害な成分を含んでいる。

誤飲・誤食してしまったワンちゃんを救急病院に連れて行く際には、「食べたものの残骸・かけら」や「食べたものと同じ商品・薬」をできる限り一緒に持ってきてほしいと、塗木先生は言います。

塗木先生

「食べたものの大きさや質感、成分など正確な情報がわかれば、私たちも速く正しい判断がしやすくなります。また、誤飲・誤食が『いつだったのか』も重要な情報です。時間が経過している場合、既に内容物が胃から腸へ進んでいるため、吐かせる処置をしても意味がありません。そして、そもそも『本当に誤飲・誤食があったのか』は確認してほしいところです。他の家族に聞いてみるのもいいと思いますよ。」

インタビューを受けている男性獣医師

ものを吐くだけでもワンちゃんの体には負担がかかり、体力も消耗してしまいます。吐き出させるのに薬品や麻酔を使うこともあり、相応のリスクも伴います。「処置をしたのに実は何も食べてなかった」ということがないように、確認はしっかりしておきたいですね。

塗木先生

「ワンちゃんの誤飲・誤食に関しては、塩を飲ませて吐かせる方法が紹介されていることもありますが、あまりおすすめはできません。少なくとも『まず優先してやるべきこと』ではない。慌てて家で吐かせてしまうよりは、そのままの状態でまず病院に来ていただく方がいいです。塩分を大量に摂取することも、ワンちゃんにとって決して好ましいとは言えません。」

「呼吸器疾患」の救急対応

呼吸器疾患は命に直結する上に、症状の悪化するスピードが速い要注意の病気。そのため「早期発見が特に大事」と塗木先生は仰います。

インタビューを受けている男性獣医師

塗木先生

「呼吸器の異常にいち早く気づく方法は、まずワンちゃんの『呼吸の仕方や様子』を観察すること。呼吸する音がおかしいとか、呼吸が荒く苦しそうだとか、様子がいつもと違うようなら病院に連絡した方がいいです。それから『その子自身の見た目や様子』を見ることも重要。息をするのに精一杯で他のことに気が回らずボーッとしている、そして舌が紫色になっているなどの状態が見られるときは、重症の可能性があるのですぐにでも救急病院に連れて行ってください。」

呼吸の数え方

●「15秒間に犬が呼吸した回数」×4=「1分間の呼吸数」

心臓に持病のある子が肺水腫(肺に水がたまる病気)を併発する場合や、吐いたものが気管に入って誤嚥性肺炎になる場合など、別の原因から肺に影響が出て呼吸困難になるパターンも多いとのこと。いずれのケースも呼吸のスピードが「ハーハー」と速くなっているかどうかが、呼吸器の問題に気づく1つの指標になるそうです。

塗木先生

「日頃から呼吸の数を数える練習をしておくと良いですね。ワンちゃんが寝ているときや普段リラックスしているときに、時計を見ながら『15秒間に何回呼吸しているか』を数えます。それを4倍したものが通常時の1分間の呼吸数。そしていつもと様子が違うなと思ったら同じように呼吸数を数え、通常時と比べることでペースが速くなっていないかをチェックすることができます。」

仰向けで寝ている犬の呼吸ペースを測定している飼い主通常の呼吸ペースを把握しておくと、もしものときに呼吸が速くなっているかを確認しやすくなる。

病院に運ぶときケージに入れるメリット

また、呼吸器に問題のある子を救急病院に運ぶときには、あまり興奮させないのがポイント。ただでさえ呼吸が苦しいのに、息が上がってしまうようなことはできるだけ避けたいところ。

塗木先生

「運ぶときにギュッと抱っこをすると胸部に圧がかかり、これも呼吸の妨げとなる場合があります。もしケージがあれば抱っこせずに済みますし、飼い主さんが外から客観的に我が子の様子を観察することもでき、状態を把握する点でもメリットがあります。ただし犬の性格によっては、ケージに入れることで緊張・興奮してしまう子もいるので、ケースバイケースでの判断が必要です。」

犬をケージに入れて安静にさせている飼い主●抱っこで胸が圧迫されず、呼吸を楽に保てる●客観的に様子を観察して状態を把握できる

「血液循環の異常」の救急対応

血液循環の異常の怖いところは、「症状が見えにくいこと」と塗木先生は言います。TRVA夜間救急動物医療センターでも、最初から循環器系の問題があるとわかってワンちゃんが運ばれてくるケースはほとんどなく、「ぐったりしている」「いつもと様子が違う」と来院した子を調べた結果、体の中での出血や感染症などが見つかるパターンが多いそうです。

インタビューを受けている男性獣医師

塗木先生

「命に関わるものでありながら、外見で見極めにくいのが血液循環の難しいところ。それでも症状に気づくためのポイントはあります。その1つが粘膜の色を見るというもの。わかりやすいのは歯ぐきで、ここがいつもより白くなっていれば循環系の異変を示す兆候と考えられます。」

循環異常が疑われるサイン

●歯ぐきの色が(普段に比べて)白くなっている

歯ぐきが白くなる、急に立てなくなる、急に吐いてしまうなどは、「急に」何かが起こっている1つのサイン。また意識レベルや活動性が低下する。つまりボーッとしていたり、ふらついたり、動かなくなったり、という症状も何が原因であれ、重症のサインと言えます。

塗木先生

「循環の異常は症状の出方も千差万別なので、判断するのが本当に難しいです。しかし『臓器のできものが破れて出血を起こしている』といった危険な状態が知らないうちに進行している可能性もあり、早期発見がとても重要。我が子の様子が普段と違うなど、少しでも違和感があったら病院での受診をおすすめします。」

歯茎をチェックされている犬歯ぐきが白くなっているのは、血の気が引いている状態。

獣医師と飼い主さんは手を取り合う関係

「外傷(ケガ)」「誤飲・誤食」「呼吸器疾患」「血液循環の異常」の救急対応について塗木先生にお話を伺いました。それぞれに症状を確認するポイントや具体的なノウハウがありましたが、「獣医師に情報を伝える、獣医師からの指示を受ける」というコミュニケーションの部分は共通して大切なポイントと言えそうです。

インタビューを受けている男性獣医師

塗木先生

「危機に直面している子を救うため、緊急時には獣医師やスタッフと飼い主さんが手を取り合って事態を乗り越えなくてはなりません。救急病院の場合、多くの方は来院したときが初診になるわけですが、短い時間の間に信頼関係を築き、必要な情報を的確に交換することが求められます。そうしたコミュニケーションの重要性も意識しながら、これからも仕事に取り組みたいと思います。」

前回の「ハグワン救急講座①」では、普段からできる準備も含めた「緊急時のキホン」を塗木先生にお聞きしています。ぜひ合わせてチェックしてみてください。

【ハグワン救急講座①】夜間救急の専門医に聞く「いざというときのキホン」合わせてチェック!

TRVA夜間救急動物医療センター TRVA(東京城南地域獣医療推進協会)東京都世田谷区深沢8-19-12 泉美ビル2F

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