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猫の甲状腺機能亢進症とは?症状・原因・治療法をわかりやすく解説【獣医師監修】

猫の甲状腺機能亢進症とは?症状・原因・治療法をわかりやすく解説【獣医師監修】

 
山本 宗
猫専門病院 Tokyo Cat Specialists
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猫の甲状腺機能亢進症は、全身の細胞の代謝が異常に活発化する病気です。発症してからしばらくは元気に見える症状が続きますが、治療が遅れると各臓器に負担がかかり、慢性腎臓病や肥大型心筋症、高血圧症を引き起こします。今回の「Vet's Advice! 猫の甲状腺機能亢進症」では、山本先生に甲状腺機能亢進症の症状や治療法をうかがいました。

プロフィール
獣医師 山本 宗伸 先生

山本 宗伸 先生

日本大学獣医学科外科学研究室卒。東京都出身。10歳の頃、授乳期の子猫を保護したことがきっかけで猫に魅了され、獣医学の道に進む。獣医学生時代から猫の扱いに定評があり、猫医学の知識習得に力を注ぐ。都内猫専門病院で副院長を務めた後、ニューヨークの猫専門病院 Manhattan Cat Specialistsで研修を積み、帰国後に猫専門病院「Tokyo Cat Specialists」を開院。国際猫医学会ISFM、日本猫医学会JSFM所属。
Tokyo Cat Specialists

目次

猫の甲状腺機能亢進症は
治療が遅れれば余命に関わる病気

愛猫は元気だと思っていたのですが
獣医さんに「甲状腺機能亢進症」と言われました。
元気に見えるのに「甲状腺機能亢進症」と診断されることはあるのでしょうか。

獣医師 山本 宗伸先生

そもそも「甲状腺」とは、甲状腺ホルモンを出す内分泌器官で、人間と同じ頸部の左右にあります。甲状腺ホルモンには全身の細胞の代謝を活発にする作用があり、いわば車のエンジンをかけるアクセルのような働きをするわけです。「甲状腺機能亢進症」はその名のとおり甲状腺の機能が亢進する(過剰になる)病気のこと。全身を動かすアクセルが踏みっぱなしの状態で、各臓器の細胞の活動が異常なほど活発になりすぎてさまざまな症状を引き起こします。

甲状腺の位置

猫の甲状腺機能亢進症の原因は?
発症しやすい猫の特徴があれば知りたいのですが……。

獣医師 山本 宗伸先生

甲状腺機能亢進症は老化や加齢によって起こると言われ、10歳を超えるころから発症する猫が増えます。私は実際に診察していて、品種、毛柄、性別、避妊・去勢手術の有無は関係ないと感じます。はっきり言ってしまうと原因がないため、予防が難しい病気です。満遍なく発症リスクがあると考えたほうがいいでしょう。
10歳以上の猫に関する報告では、甲状腺機能亢進症を発症する割合が最少で1.5%、最多で11.4%とされています。動物医療のデータは、病院での検査方法や飼い主さんへの聞き取りなどで幅が出やすいのですが、私の印象でも数%といったところ。仮に5%としてもかなり多い割合なので要注意です。たとえば自分の家族や友人が20人中1人の割合で発症している病気と考えたら、一般的な病気という認識をもてるのではないでしょうか。

甲状腺機能亢進症を発症した猫の余命を教えてください。

インタビューカット

獣医師 山本 宗伸先生

全身を動かすアクセルを踏み続けている状態なので、治療が遅れるほど各臓器に負担がかかります。慢性腎臓病や肥大型心筋症、高血圧症などの病気を引き起こし、やがて衰弱して亡くなります。余命は診断されてから約2年ですが、腎臓病がないケースでは約5年というデータがあります。※
甲状腺機能亢進症は治療でコントロールできれば体調も改善し、直接の死因にならないことがほとんど。慢性腎臓病などの合併症や悪化や発症の予防につながります。

※出典:Carney, Hazel C., et al. "2016 AAFP guidelines for the management of feline hyperthyroidism." Journal of feline medicine and surgery 18.5 (2016): 400-416.

治療が遅れれば慢性腎臓病を引き起こす
甲状腺機能亢進症の症状を見逃さない

病気の早期発見のために
具体的な症状が知りたいです。

獣医師 山本 宗伸先生

甲状腺ホルモンは全身の臓器の細胞の活動を活発にするため、甲状腺機能亢進症になると食欲が増えて動き回り、元気に見えるのが典型的な症状です。瞳孔散大といって黒目が大きくなることもあり、猫のバセドウ病と呼ばれることもあり、人間のバセドウ病と症状はほぼ同じと考えてください。病気が進行した体重減少の段階で動物病院を受診する飼い主さんが多いものの、初期からさまざまな症状が現れるので、早期発見の手がかりとして覚えておきましょう。

Checklist知っておきたい甲状腺機能亢進症の症状

甲状腺機能亢進症の猫に現れる症状と発症の割合。

  • ・体重減少:94.4%
  • ・多食:77.8%
  • ・多飲多尿(尿が多く出すぎて飲水量が増える):71.4%
  • ・頻脈:61.9%:
  • ・活動亢進(落ち着かず歩き回る、鳴くことが増える):55.6%
  • ・下痢:50.8%
  • ・呼吸異常:38.1%
  • ・心臓の異常:34.1%
  • ・皮膚病変(毛並みが悪くなる、脱毛する):31.8%
  • ・嘔吐:30.2%
  • ・食欲低下:10.3%
  • ・活動低下:10.3%

注意したいおしっこの病気やトラブルを解説した記事も参考に!
Vet’s Advice! 猫のおしっこが出ない病気

 

甲状腺機能亢進症と診断する方法を教えてください。

インタビューカット

獣医師 山本 宗伸先生

血液検査で甲状腺ホルモンを測定し、基準値より数値が高く症状が一致すれば診断になります。
ほかにも触診や超音波検査で甲状腺のサイズを測ることもあります。甲状腺は健康な猫では触診で幅1~3mm程度のサイズですが、甲状腺機能亢進症を発症している猫は8mm以上になっていることが多いです。ただし甲状腺の触診に慣れている獣医師でなければ見つけるのは難しいでしょう。また、甲状腺が大きいだけでは病気とは判断できないので、血液検査がいちばんの肝になるのかなと思います。

もし甲状腺機能亢進症になってしまったら
どのような治療をすることになりますか?

獣医師 山本 宗伸先生

まずは甲状腺ホルモンをコントロールするための薬を飲ませる内科療法を開始することがほとんどです。手術で甲状腺を切除する外科療法は、体内に新たな甲状腺が発生(異所性甲状腺)して病気が再発するケースもあり、万全の治療法とは言えません。逆に甲状腺ホルモンが足りなくなり、甲状腺機能低下症を発症すれば内科療法が必要になる場合も。食事療法もありますが、猫の嗜好性に合わない場合は続けるのが困難です。
それぞれの治療法は一長一短で、余命や予後は基本的に大きく変わらないため、かかりつけの獣医師によく相談して決めましょう。その他、海外では放射性ヨード療法を行っている国もあります。

Point甲状腺機能亢進症の三大治療法

  • ■内科療法
    甲状腺ホルモンの合成を抑える薬を服用する。コントロールできれば寿命に影響しないことが多く、甲状腺機能亢進症の治療法としては第一選択になる。薬の副作用(顔のかゆみ、肝酵素の上昇、嘔吐など)で続けられない場合は、別の治療法を選択する。
  • ■外科療法
    片方もしくは両方の甲状腺を切除する手術を行う。ただし体内に3つめ、4つめの新たな甲状腺が発生することも珍しくない。甲状腺ホルモンの数値が下がらなければ、手術をしても薬を飲むことになる。甲状腺がんの場合は手術が必要になる。
  • ■食事療法
    甲状腺に影響するヨウ素を制限した食事療法食を食べさせる。猫の嗜好性に合わない場合は続けづらい。とくに体重が健康時より5%以上減っている場合は体調の悪化につながるため、猫が食べる食事に切り替え、薬を飲ませたほうがよい。

ニャるほど!深掘アドバイス

猫と、人や犬の甲状腺疾患の違い

猫の甲状腺機能亢進症は人のバセドウ病とよく似ています。 人間の場合は若い女性が発症率が高く免疫疾患と関連することに比べて、犬は甲状腺機能亢進症は稀。猫の場合は性別や免疫疾患と関係なく発症しており原因は不明と言われてます。
症状が進行しないうちは「元気に見えるから治療しなくてもいい」と考える飼い主さんもいますが、楽に暮らせるようQOL(生活の質)を考えて早めに治療を始めてほしいですね。

インタビューに答える 平野 太陽先生

甲状腺機能亢進症の予防は難しいが
早期発見・早期治療で寿命を全うできる

自宅で甲状腺機能亢進症を
チェックする方法はありますか?

獣医師 山本 宗伸先生

猫の甲状腺機能亢進症は予防が難しい病気ですが、飼い主さんがいち早く症状に異変に気づいて動物病院を受診すれば、必ずしも余命に関わる病気ではありません。甲状腺機能亢進症という病気の症状を知っておき、慢性腎臓病や糖尿病の症状でもある多飲多尿を早く見つけるためにチェックを習慣にしましょう。
自宅で心拍数も測れれば、肥大型心筋症などの発見にも役立ちます。指を心臓(左側の5~7番目の肋骨のあたり)や股動脈(後ろ足の付け根にある血管)に当てて確認してみてください。自宅での安静時の心拍数は1分間につき平均約130回。10秒間測って6倍すると1分間の脈拍がわかります。
加えて、動物病院での健康診断もおすすめします。10歳未満は年1回、10歳以上は年2回が目安です。

※心拍数の参考

健康診断のイメージ

Checklist日常生活で健康チェック

  • □ 毎月、体重を量る(飼い主が猫抱っこして体重計で量ったあと、自分の体重を引く)
  • □ 2週間に1回程度、飲水量を量る(メモリ付きのウォーターボウルで大まかに把握する)
  • □ 猫がリラックスしているときに心拍数を測る(安価な聴診器を使う。2000円以下で十分確認できる)

健康診断について詳しく知りたい方はこちらの記事もチェックしてみてください。猫の健康診断ってどんなもの?① 体験編「勇気を出して健康診断に行ってみた」


山本先生からのメッセージ

甲状腺機能亢進症を知ることが早期発見の一歩になる

泌尿器疾患ならおしっこが出ない、呼吸器疾患なら息苦しい……と症状がわかりやすいですよね。ところが猫の甲状腺機能亢進症は全身に影響が出る全身性疾患なので、目に見えないところから弱ってくるのが特徴です。本記事で飼い主さんに甲状腺機能亢進症を知ってもらえれば、何かあったときに「もしかしたら?」と疑問をもつことができ、早期発見につながると思います。当院では10歳をすぎたら血液検査を受けるときに甲状腺ホルモンも測定しています。かかりつけの動物病院にも相談してみてくださいね。

獣医師 山本 宗伸先生

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