室内飼育が推奨されている猫ですが、動物病院への通院や災害時の避難のために車でお出かけする練習を始めませんか?「環境が変わってもストレスは大丈夫?」「乗り物酔いをしたらどうする?」「外出先で注意することは?」などの疑問に獣医師の門屋美知代先生がお答えします。動物病院のスタッフ猫のぽんちゃんが車でのお出かけをリアルに体験。飼い主さんが愛猫と無理なくステップアップするために、本企画は①準備編、②移動編、③帰宅編の3回にわけてお送りします。
門屋 美知代 先生
かどやアニマルホスピタル
目次
お出かけの前に知っておきたい
ストレスや車酔いの対策
猫とお出かけする練習をしたいけれどストレスが心配です。
飼い主さんが心配するとおり、猫は環境の変化が苦手。室内飼育の猫にとっては玄関を一歩出ただけで知らない世界なので、ちょっとした変化にも恐怖をあおられてしまいます。だからこそ、ストレスを減らすためにお出かけの練習をしておくことが重要なんです。ぶっつけ本番で車に乗せるほうが確実にストレスを感じやすくなりますから。もし愛猫が病気になったときや災害時に避難生活を送るときに備えて、車でのお出かけに慣れておきたいですね。
猫も車酔いをするのでしょうか?
できるだけ負担を減らしたいのですが……
猫も人間と同じように車酔いをします。車移動の揺れだけでなく外出の緊張感で吐いてしまうこともあります。とくに緊張感は車酔いを悪化させるので、お出かけに慣れる練習をしておきたいですね。
猫の吐き気を抑える酔い止め薬や不安を減らす精神安定剤があるので、かかりつけの獣医師に相談して内服薬を処方してもらいましょう。持病がある場合は念のため獣医師に確認すること。事前に飼い主さんだけ動物病院に来て薬を受け取り、帰宅して猫に飲ませてから出かける方法もあります(薬が効き始めるまでに30分~1時間ほどかかるので、時間に余裕をもってください)。
絶対に脱走させない!猫を守るためのグッズ
【猫とのお出かけに必要なグッズと選び方】
キャリーケース
猫がゆとりをもって入れるプラスチック製のクレートや布製のキャリーバッグ。上と横から開けるほうが猫を出し入れしやすい。外から猫の様子を観察できるように、扉やふたは透明もしくは金網やメッシュがおすすめ。開閉音が静かなタイプのほうが猫は落ち着ける。
持ち手部分が手を話した際に音がするタイプであれば、前もって音がなりづらいようにタオルを巻くなどの音対策をしておくと猫への負担軽減につながる。
洗濯ネット
猫の体格よりかなり大きいサイズのネット。4kg前後の猫でも60cm四方がおすすめ。網目が粗くてもスペースに余裕があれば、猫は隠れたつもりになって落ち着く。小さいネットでは縮こまった体勢になり、呼吸がしづらく体調を崩す危険がある。
食器とウォーターボウル
キャットフードと水を入れるうつわを2個用意する。
水分補給ができるおやつ
水分補給ができるペースト状のおやつが便利。揺れてもこぼれる心配がなく、余った水の処理に困ることもない。
タオル
キャリーケースの中に敷く。猫が吐いたり排泄したりしたときや、車内でキャリーケースが傾かないように角度を調節するときにも役立つ。夏は冷却シート、冬はブランケットでもよい。
ペットシート
タオルの上に敷く。猫が動いたときに多少ずれることを想定して少し大きめを選ぶ。
お気に入りのおもちゃ
猫が安心できるように、キャリーケースの片隅に猫がお気に入りのおもちゃを入れておく。普段使っているならマタタビ入りでも問題ない。
お出かけの練習は
計画的なステップアップで成功へ
(1)最初は室内にキャリーケースを置くだけでOK
まずは部屋にキャリーケースを置きっぱなしにします。扉は閉まらないように固定もしくは取り外してください。猫はキャリーケースに自由に出入りしているうちに少しずつ慣れていきます。写真のように上下が分離するクレートであれば最初は下部だけ置き、慣れてきたら上部をかぶせてください。
(2)猫がキャリーケースに慣れたら移動の練習を
フードやおやつを中で食べさせて、キャリケースによい印象を与えましょう。扉やふたを閉める→持ち上げる→持ったまま部屋の中を移動する→(自宅から出る場合は洗濯ネットに入れる)→車に乗せる→エンジンをかける→5分だけ運転して移動する……と、少しずつ移動に慣れさせることが望ましいですね。急がば回れと思って、1つの手順につき数日~数週間かけるつもりでステップアップしてください。
お出かけ準備編の最後に、門屋先生から
愛猫を連れて出かける準備についての
アドバイス
年齢や個体差によって慣れるまでの時間はそれぞれ。
1歳ごろまでの若いときほど順応能力が高く、車などにも慣れやすいといわれています。子猫が自宅や家族に慣れてきたら、お出かけの練習もぜひ始めてください。成猫やシニア猫は慣れるまでに時間がかかることもありますが、焦らず練習を重ねることが大切です。
練習する時間がない!そんな時の解決策。
キャリーケースでの移動の練習をおすすめしますが、使わなくてもアイデア次第でお出かけは可能です。たとえば猫のお気に入りの紙袋や段ボールの下に漁網のような特大サイズの洗濯ネットを敷いておき、出かけるときに猫が入った紙袋や段ボールごとネットのファスナーを閉めて連れ出す方法もあります。
とはいえ、近年は全国的に災害のリスクが高まっていますよね。いざというときに愛猫を守れるのは飼い主さんだけなので、避難訓練と思ってお出かけの練習を始めましょう。
今回は動物病院のスタッフ猫のボンちゃんが車でお出かけする体験をレポート。ボンちゃんは推定15歳で保護されてからお出かけの練習を始めたそうですが、撮影時にキャリーケースや車の中で落ち着いて過ごしてくれました。
次回は②移動編「お出かけしたときの車内での過ごし方」です。車内でキャリーケースを置く位置、休憩や水分補給のタイミングなどを門屋先生が詳しく解説していきます。モデルのボンちゃんのがんばりもぜひお楽しみに!
取材にご協力いただいた病院
東京都府中市府中町1丁目40-12
日本獣医皮膚科認定医。同学会理事。小学生3年生のときに出会った「動物のお医者さん」がきっかけで獣医師を目指す。北里大学獣医学部卒業後、動物病院で勤務を始めてから皮膚疾患の多さに気づき、皮膚科の診療をより深く学ぶために東京農工大学・大学院へ。2005年年にかどやアニマルホスピタルを開院し、動物に合わせた皮膚診療に力を入れる。「飼い主さんが気軽に相談できる動物のお医者さんでありたい」と、親しみやすい雰囲気づくりも心がけている。