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猫が乳がんになると余命はどれくらい?一日でも長く一緒に過ごすために飼い主ができることは

猫が乳がんになると余命はどれくらい?一日でも長く一緒に過ごすために飼い主ができることは

 
平野 太陽
      

猫の命を奪うがんの中でもっとも多いのは「乳がん(乳腺腫瘍)」です。乳腺にできるしこりの95%が悪性のがんであり、猫の飼い主さんが注意するべき病気のひとつ。「右京動物病院OIKE」院長の平野太陽先生に乳がんの予防方法、早期発見のためのチェックポイントをうかがいました。乳がんの検査と治療、飼い主さんの寄り添い方も知っておきましょう。

プロフィール
獣医師 平野 太陽 先生

平野 太陽 先生

2021年より右京動物病院OIKE院長。腎泌尿器認定医。麻布大学獣医学部卒業後、のづた動物病院獣医師長を経て右京動物病院を開院。小さな傷口で動物の負担を減らせる腹腔鏡手術に力を入れ、医師の腹腔鏡技術世界大会である「KAMINOTE2022 TEAM COMPETITION」では団体戦優勝。猫の乳がん(乳腺腫瘍)の予防になる避妊手術にも対応している。「稼ぐなら医療以外の手段で」と宅地建物取引士を取得した
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右京動物病院OIKE:Instagram
平野 太陽先生:Instagram

目次

猫の飼い主が注意するべき乳がんは
「悪性の乳腺腫瘍」

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まずは猫の乳がんについて教えてください。

獣医師 平野 太陽先生

遺伝子の変異によってできた乳腺のしこり(細胞のかたまり)を「乳腺腫瘍」と呼びます。その中に悪性と良性があり、悪性の乳腺腫瘍を「乳がん」と呼びます。猫の場合は悪性度が非常に高く、乳腺にできるしこりの95%が悪性の乳がんというデータも。猫の死因の中でも乳がんは最も多く、猫の命を脅かす病気のひとつです。
猫の乳がんは、おなかから胸に左右4個つずつ並んでいる合計8個の乳腺に発生します。乳腺はリンパ管で繋がっているため、1個の乳がんが見つかれば33~60%の確率でほかの乳腺にも発生しています。また、肺などの臓器に転移しやすいのも特徴です。

乳がんのリスクが高いのはやはりメスの猫でしょうか?

獣医師 平野 太陽先生

乳がんの発生には女性ホルモンが影響しているため、最もリスクが高いのは避妊手術をしていないメスです。ただし避妊手術をしているメスや、ごくまれにオスにも発生することがあります。乳がんが発生した年齢はデータ上では約12歳が中央値ですが、早いケースでは2歳という例もあるため、成長に伴ってリスクが上がっていくと考えてください。

猫の乳がんを予防する
避妊手術と早期発見の重要性

若くても乳がんになる危険があるんですね。
どうすれば予防できますか?

獣医師 平野 太陽先生

乳がんの予防には1歳未満の早い段階での避妊手術が有効です。初回発情の前(生後6カ月未満が目安)なら91%、2回目前なら86%(生後12カ月未満が目安)も乳がんの発生率を避妊手術により低下できます。しかし3回目(13カ月以上が目安)では11%まで減ってしまい、24カ月を超えると乳がんの予防効果はほとんど期待できなくなってしまうんです。
だからといって1歳以降の避妊手術も無駄ではありません。糖尿病、子宮蓄膿症、卵巣がんの予防になり、発情に伴うストレスも解消できるので、ぜひ避妊手術を検討してくださいね。若いうちに避妊手術をしたほうが麻酔のリスクは少なく、猫の負担も少なくて済みます。

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乳がんを早期発見できるチェック方法を知っておきたいと思います。

獣医師 平野 太陽先生

乳がんの初期は皮膚の下にできる小さなしこりです。見た目ではわからないので、飼い主さんがおなかを触ってチェックすることが重要です。この段階で猫が痛みや違和感を覚えることはほとんどなく、しぐさでは判断できないと考えてください。乳がんのチェックは毎月1回程度を目安にしましょう。丁寧にチェックすれば3~5mm程度のしこりでも発見できます。難しいと思ったら動物病院で獣医師にチェックを頼みましょう。

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Point乳がんのチェックポイント

  • ●しこりの感触
    しこりは皮膚の下にできる。硬さは枝豆の粒くらいで、つまんで皮膚の下で動かすことができる。
  • ●猫を仰向けにする
    猫がリラックスしているときに足の間に仰向けにする。難しい場合はうつ伏せでもよいが、触っている場所がややわかりづらい。
  • ●脇の下から足の付け根まで触る
    右側と左側の乳腺を順番にチェック。脇の下から足の付け根まで皮膚の下まで揉み込むように触る。
  • ●無理強いしない
    触られることに苦手意識を持たせないように、嫌がるそぶりがあれば途中でも終了する。

猫の乳がんは初診時の段階で2~4割がリンパ節に転移し、3~6割が多発しているケースも。「しこりがまだ小さいから大丈夫」と様子を見ていてはいけません。愛猫のためにも異変に気づいたらすぐ動物病院を受診してください。

自宅でチェックしていて乳がんと間違えてしまう症状は?

獣医師 平野 太陽先生

避妊手術をしていない猫は乳腺が張るので乳がんと思うかもしれません。あとは寄生虫のダニを見間違えることもあります。また「押して動くしこりは良性」「サイズが変わらなければ大丈夫」といった誤った知識で早期発見が遅れる場合も。猫の乳がんは95%が悪性であり、サイズが不変でもしこりがあるのは異常だと思ってください。愛猫の変化を見逃さないように、些細なことでも気になったら獣医師に相談するのがいちばんです。

猫の乳がんの検査と診断、
進行度によるステージ分類

もししこりを見つけたら、動物病院でどのような検査を受ければいいでしょうか?

獣医師 平野 太陽先生

レントゲン、エコー、CTの画像検査で肺などの臓器への転移の有無を確認します。少し専門的ですが、肺のレントゲンは空気がある部分が黒く、空気を含んでいない部分(がんや押しつぶされた肺))は白く写ります。そのため肺が圧迫されて空気があまり入っていない状態ではがんがはっきり写りません。肺への転移を確認するには、うつ伏せ、右下横向き、左下横向きの3方向から撮ることが重要です。それでも5mm以下の病変は見つけられない場合があるため、CTを組み合わせて検査することもあります。CTでは0.5mmの病変も見つけられますが、実施施設が限られていること、全身麻酔が必要など多少のハードルも存在します。
乳がん以外のがんの可能性を排除するために、しこりに針を刺して採取した細胞を顕微鏡で見る細胞診検査も行うべきだと考えています。肥満細胞腫であれば手術範囲は狭くできるかもしれませんし、繊維肉腫などの足が長いがんなら手術範囲は広がるかもしれません。

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乳がんのステージと余命が気になります……。

獣医師 平野 太陽先生

乳がんの大きさ、リンパ節への転移の有無、遠隔転移の有無によって4つのステージに分類されています。ステージ分類により大まかな余命がデータとして出ていますが、悪性度や手術方法によっても変化しますし、データではなくその子一人一人を見た診療が必要となります。

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細胞診検査にて乳がんを強く疑う場合には画像検査を用いて詳細なステージ分類を行います。一番大切なことは、完治する可能性がまだ残されている根治ステージなのか、残念ながら完治は望めない非根治ステージなのかを見極めることです。これにより不要な手術を避けることもできます。

猫のQOLを考えて乳がんのステージに合う治療を選択する

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乳がんの場合、どのような手術をしますか?

獣医師 平野 太陽先生

根治ステージ(主にステージ1,2)では外科手術が適応になります。術後の成績は手術方法によっても異なりますが、がんがある片側の乳腺だけでなく、両側の乳腺一括して切除する方法が一番再発率の低い手術方法です。最低でも片側全ての乳腺をリンパ節を含めて一括で切除する方法が強く推奨されています。傷も大きく一定の負担をかける手術になるため、根治ステージであることを予め確認しておく必要があります。

手術の際に乳腺と繋げた状態で腋窩リンパ節と副腋窩リンパ節、浅鼠径リンパ節(内側と外側)と副鼠径リンパ節を切除する「リンパ節郭清」を行うと、再発率を下げられることが明らかになっています。乳がんの手術を行う場合はかかりつけの獣医師に相談してみてください。 状況に応じて術後に抗がん剤を使用し、再発率を可能な限り低くする補助療法も実施します。脈管浸潤やマージンの評価など専門的な判断が必要になりますので、こちらもかかりつけの獣医師に相談してみてください。

乳がんのステージによっては手術ができないこともあるんですね……。

獣医師 平野 太陽先生

がんが転移している非根治ステージ(主にステージ3、4)では、無駄な侵襲や負担を避けるため手術を実施しない場合も多いです。しかし緩和治療としてがん自体を取り除くことで、QOLが向上する場合はその限りではありません。自壊して破裂しているがんと一緒に生活していくことは、ご家族や動物にとって苦痛を伴います。緩和的な手術であれば傷も小さく、最小限の負担で実施できますので獣医師に相談してみてください。

また根治的な処置ができなくても、内科療法によって進行を遅らせることも可能です。してあげられることは沢山あるので気を強く持ってくださいね。

キャットリボン運動:https://catribbon.jp/

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平野先生からのメッセージ

まずは信頼できる獣医師に相談を。

乳がんに限らず、腫瘍治療の基本は予防と早期発見です。避妊手術や日頃からの健康診断、お家でも乳腺チェックなどちょっとした習慣が大きな違いを生みます。ネットにも沢山情報は溢れていますが、かかりつけの獣医師に一度相談してみてください。乳がんに関して詳しい情報を知りたいと思ったら、「キャットリボン運動」を推奨している動物病院に相談してみるのもいいかもしれません。
また非根治ステージでも進行を遅らせたり、不快感を軽減する方法は色々あります。気を落としすぎず、辛いですが前を向いて最高の余生を一緒に作っていきましょう。がんは高齢になるほど増える病気なので、愛猫が長生きできた証拠でもあります。そもそも人間と猫の寿命を比べれば猫のほうが短いけれど、人間より短命な猫は不幸せでしょうか。がんになった猫は不幸せなのでしょうか。屁理屈に聞こえるかもしれませんが、向き合い方で気持ちも変わります。がんはお別れまでの時間が残された病気です。悲観や後悔から抜け出して、愛猫との幸せな時間を和やかに過ごしてほしいと心より願っています。

獣医師 平野 太陽先生

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