猫はおしっこのトラブルが多いので、トイレは健康のバロメーターです。ある日、量が少なくなったり出なくなったりしたら緊急事態かもしれません。今回の「Vet's Advice! 猫のおしっこが出ない病気」では、寺村先生が注意したいおしっこの病気やトラブルのサイン、尿検査の方法などを解説します。
寺村 靖史 先生
目次
猫に多いおしっこの病気は「猫特発性膀胱炎」
トラブルのサインや予防対策は?
おしっこにはどのような役割があるんですか?
おしっこには体内の水分や電解質(ナトリウムやカリウムなどのミネラル成分)をコントロールしたり、老廃物(ごみ)を排出したりする役割があります。腎臓で作られてから尿管を通って膀胱に溜まり、尿道を通って体外に排出されるしくみです。
おしっこが出なくなったら生きていけないくらい、とても大切なもの。家庭で注意するとしたら、「おしっこが出ているか・出ていないか」とチェックすることが重要です。
おしっこが出にくくなる目安とは?
おしっこが出にくくなる病気のことも教えてください!
おしっこが出ないのは緊急事態。猫では排尿が半日なければまずは原因を考えたほうがいいと思います。排尿と排便の姿勢が似ている猫もいるので、排泄物もチェックして出ていないのがおしっことうんちのどちらなのか確認しましょう。
おしっこが出にくくなるおもな病気と注意が必要な猫
- ●膀胱炎:猫は交感神経が活性化されることによって自然に起きる猫特発性膀胱炎(Feline Idiopathic Cystitis/FIC)が多い。
- ●尿路結石症:尿のミネラル成分が結晶化して石になる。尿管や尿道、膀胱にできて炎症を起こし、詰まって閉塞すれば尿が出なくなる。猫は尿管と尿道どちらにも閉塞を起こしやすい
- ●急性腎障害:毒物の中毒や慢性腎臓病の急激な悪化により、腎臓の機能が低下して尿を作れなくなる
注意が必要な猫
- □1~10歳□オス(去勢済みのオスに多いが、未去勢のオスやメスも注意)□ストレスに敏感で神経質□肥満であまり動かない□多頭飼育□主食がドライフード□水をあまり飲まない
ニャるほど!深掘アドバイス その1
猫特発性膀胱炎
頻尿、血尿、尿道閉塞の猫の約60%は猫特発性膀胱炎です。さらに発症しても85%が5~7日で自然に治るので、獣医師は抗生剤をむやみに使わないことが推奨されています。ただし、飼い主さんが「そのうち治る」と自己判断で様子を見るのは危険です。ほかの病気が隠れている可能性があるので、まずは獣医師に相談してください。
おしっこの病気のサインは?
チェックの方法も知っておきたいと思います。
おしっこが出ていないサインは「(1)トイレに行くけど出ない」「(2)トイレに行かない」という2つのパターンに分かれます。それぞれ考えられる原因や病気が異なるので、家庭でのチェックのポイントとして知っておいてください。また、大まかでもいいので、愛猫の1日の排尿回数や尿量を把握しておくと役立ちます。
(1)トイレに行くけど出ない(尿意はあるのでトイレに行く回数が増える)
- ケース①まったく出ない
理由
・結石や腫瘍、異物などで尿道が完全に閉塞している可能性がある - ケース②少しずつ出る
理由
・膀胱炎でムズムズして頻尿になっている
結石や腫瘍、異物などで尿道が部分的に閉塞している可能性がある(赤みがかった血尿が出ることが多いが、黄色いこともある)
(2)トイレに行かない(作られる尿が少ないor尿意がないのでトイレに行かない)
- 原因①トイレの場所に行きたくない
理由
・環境の変化(引っ越しや模様替え、近所の工事など)に警戒している
・台風や雷などに恐怖を感じている
・トイレ以外の場所で排尿して叱られ、室内での排泄がトラウマになっている
・体調不良でトイレまで移動できない - 原因②尿があまり作られていない
理由
・重度の脱水(泌尿器の病気以前に何らかの不調がある)
・急性腎障害 - 原因③尿意がない
- ・椎間板ヘルニアなど(神経障害が起きて膀胱に尿が溜まっているのを感じられない)
・膀胱アトニー - 原因④膀胱に尿が溜まらない
- 理由
・膀胱破裂(事故による外傷、膀胱腫瘍)
・尿管閉塞:両側の尿管が結石で閉塞し、腎臓から膀胱に尿が流れない
(2)トイレに行かない(作られる尿が少ないor尿意がないのでトイレに行かない)場合は、検査をしなければ獣医師でも見分けが難しいので、少しでも違和感を感じたら病院へ行きましょう。
猫はおしっこの病気に注意が必要なんですね。
予防するために飼い主ができることは?
猫はおしっこのトラブルが多いうえ、猫特発性膀胱炎を発症した猫は50%の確率で繰り返します。ストレスが原因になって発症するケースが非常に多いので、自宅のトイレや環境を見直すことが予防につながりますよ。
トイレの工夫
- ・トイレの数を頭数+1個以上に増やす
- ・トイレを静かな場所に置き換える
- ・こまめに掃除をする
水入れの工夫
- ・水入れの数を増やす
- ・猫が好む水入れ(自動給水器など)を使う
- ・いつでも新鮮な水を飲めるようにする
体重と食事の工夫
- ・適正体重に減量する
- ・下部尿路疾患に対応した食事療法食に変える
- ・ウェットフードに変える
ストレス対策の工夫
- ・猫が喜ぶ遊びでコミュニケーションをはかる
- ・休息環境を整える
- ・動物病院に相談して不安をやわらげるサプリメントを与えるる
寒さ対策の工夫
- ・寒くなると飲水量が減りがちなので部屋を暖かくする
- ・運動量も減る傾向があるため、猫が動きたくなるようにおもちゃやおやつで誘う
おしっこの量がいつもと違う
動物病院で尿検査を頼む方法は?
もしおしっこが少なかったり出ていなかったりしたら、
どういう対応をすればいいでしょうか。
おしっこが完全に出ていないのか、それとも、少量ずつでもトータルでいつもと同じくらいの量が出ているのか、確認できればベストです。猫が元気で食欲もあっておしっこをしない場合は、排尿したくない理由があるのかもしれません。可能性として高いのはストレスなので、自宅のトイレや環境を改善して問題の解決を試みてはどうでしょうか?
ただ、獣医師としては「おしっこをしていなくても大丈夫」とは言えないので、かかりつけの動物病院を受診するか電話で相談することをおすすめします。まずは獣医師に電話やSNSで相談できるサービスを利用するのも一案です。
動物病院で尿検査ができると聞きました。
おしっこを採取するのは難しそうですが……。
尿検査のためのおしっこを採取するルールは動物病院によって異なります。もっとも簡単な方法は、システムトイレの引き出しにシートを敷かずに猫に排尿させて、溜まったおしっこをスポイトで採取する方法です。ほかにもトイレ砂の上にトイレシートを裏返して敷いておしっこを溜めたり、排尿中におたまで直接受け止めたりして採取する方法があります。清潔な保存容器やビニール袋に入れて動物病院に持ってきてくださいね。おそらく動物病院に頼めば採取用のキットをくれると思います。
ただし、尿検査だけでは原因がわからないこともあります。おしっこが出ない場合やおしっこ以外にも不調がある場合は、愛猫を連れて動物病院を受診してください。もしおしっこの病気を繰り返してなかなか治らない場合はセカンドオピニオンを検討しましょう。
尿検査の注意点
- ●尿は液体の状態で採取する(土やトイレシートに染み込んだ状態では検査できない)
- ●可能な限り新鮮な状態で検査する必要があるので、採取から6~8時間以内に動物病院へ持参する(結石の検査は採取から30分以内)
- ●朝一番の尿を採取する(水を飲んだあとの尿は薄くなってしまうので評価しにくい
どうしてもおしっこを採取できません!
動物病院にお願いできますか?
飼い主さんによる採尿は大変なのでハードルが高いですよね。動物病院でも採尿できますが、処置が必要なので猫にとってはやや負担かもしれません。愛猫にとってどの検査がベストなのか、検査によって何を調べたいのか、どれくらいの正確さが必要なのか……といったことを踏まえて、獣医師に相談して決めましょう。 。
動物病院で尿を採取する2つの方法
- ●尿道カテーテル
尿道からカテーテル(細いくだ)を入れて膀胱から尿を採取する。比較的痛みは少ないが、尿道がむずむずして猫が違和感を覚えて嫌がるかもしれない。カテーテルを入れると尿道から膀胱へ細菌を押し込むことになり、結果的に細菌性膀胱炎になることもある。 - ●膀胱穿刺
膀胱を超音波で見ながら針で刺す。最も正確な結果が得られるので、繰り返す細菌性膀胱炎の検査に必要だがやや痛みがある。針で刺すことに抵抗感を持つ飼い主がいるかもしれないが、意外と簡単で安全にできる。
寺村先生からのメッセージ
おしっこが出なくなるのは緊急事態!
おしっこが出ないのは緊急事態のパターンがあることを知っておいてください。飼い主さんの知識がいざというときに役に立ちます。おしっこだけで腎臓や膀胱はもちろん体調がよいとはわからないので、血液検査、超音波検査、レントゲン検査などを併用しましょう。
逆に、おしっこの量が増える慢性腎臓病やホルモンの病気にも注意が必要です。ゆっくり進行していくこれらの慢性疾患は、おしっこが出ないサインより気づきにくいので、愛猫は元気で健康だと思っていても、定期的に健康診断を受けることも必要です。