ラグドールは、そのエレガントな見た目や温和な性格からぬいぐるみのようだともいわれる美しい猫です。今回はその歴史やかかりやすい病気、生活上の注意点などを紹介します。ラグドールについて基本的な知識を押さえて、猫も人も気持ち良く暮らすための参考にしましょう。
目次
ラグドールの歴史
ラグドールが生まれたきっかけは明らかになっていない部分もありますが、1960年代にアメリカのブリーダーが自分の飼育していた猫とペルシャ・バーマンなど、複数の品種を掛け合わせた結果誕生したとされています。
ラグドールを誕生させたブリーダーが名称の権利を守りながらビジネスを行う組織を発足。しかし、規則の厳しさを疑問視したメンバーが組織内から独立するなど紆余曲折を経ます。現在はメジャーな血統登録団体にも登録されています。
ラグドールのかかりやすい病気
続いて、ラグドールがかかりやすい病気を見ていきます。ラグドールはおとなしい猫とされていますが、病院で診察・治療を受ける際には大きく抵抗を示すこともあるので気を付けてください。
肥大性心筋症
猫で最も多く認められる心臓病です。比較的若年齢での発症が多く、また雄での発症が多い傾向です。遺伝性の関与が指摘されています。
肥大性心筋症による命にかかわるイベントには、うっ血性心不全、動脈血栓塞栓症、突然死が挙げられます。一般的に動脈血栓塞栓症が起こった場合の予後は良くありません。
■診断
臨床症状、X線検査、心エコー図検査、心電図検査、血液検査から総合して臨床診断します。動脈血栓塞栓症は後肢に起こりやすくなっています
■治療
根治療法はなく投薬、およびストレス管理がメインです。ラグドールで肥大型心筋症の遺伝変異がある場合には、予後は比較的厳しいことが多いとされます
動脈血栓塞栓症
肥大型心筋症の猫のうち、10%前後が動脈血栓塞栓症を発症します。肥大型心筋症の死因第2位です。急激な発症で、かなりの疼痛を伴います。ギャッと鳴いてその後隠れて出てこないなどが典型です。
■診断
身体検査、超音波検査、X線検査などを行います
■治療
予後は一般的に不良であり、予防が重要です。いったん回復しても再発することが多い傾向にあります
好酸球性硬化性線維増殖症(GESF)/h3>
好酸球などを主体成分とする炎症性の腫瘤(体や臓器にできる塊)性病変が特徴です。腹腔内に発生することが多く、複数個所で病変が形成される場合もあります。7~9歳齢程度の中年齢での発症が多いですが、幅広い年齢での発生報告があります。
■診断
超音波検査、X線検査、血液検査、病理組織学的検査などを行います
■治療
可能であれば外科手術で切除するのが望ましいでしょう。外科手術後の補助療法、または切除不能な病変に対する治療として副腎皮質ステロイド薬および抗菌薬療法が中心となります。
尿石症
結石の成分、大きさ、発生部位により病態はさまざまです。尿比重とpHの変動による尿中ミネラルの結晶化に加え、上皮細胞や細菌などが核となり結石が形成されます。なお、猫に多い結石にはストルトバイト結石とシュウ酸カルシウム結石があります。
下部尿路結石では、尿道の狭窄や閉塞によって腎臓→腎後性高窒素血症が発生し、慢性腎臓病に移行することも多いです。
■診断
尿検査、X線検査などを行います
■治療
ストルバイト結石は食事や投薬によって溶解することが多いですが、シュウ酸カルシウム結石は溶解しません。腎結石は生活環境、特に飲水環境の改善が重要です
ムコ多糖症
グルコサミノグリカンの分解に必要な酵素の先天的な欠損が原因です。いくつかのタイプに分かれますが、猫ではⅠ型、VI型、VII型の3タイプが確認されています。
■診断
顔面の扁平、あるいは中央部の陥没といった特徴的な外貌、変形性関節症や神経障害による歩行異常、白内障などで診断します
■治療
疼痛緩和療法などの対症療法がメインとなり、症状に合わせた生活環境の改善が重要です。進行性疾患であり、予後は不良です
子宮蓄膿症
子宮壁の急性または慢性化膿性炎症です。犬ほどは多くはありませんが猫でも発生し、ラグドールは好発品種のひとつ。典型的な臨床症状は陰部からの排膿、発熱、食欲不振、元気消失などが挙げられます。
■診断
陰部の捺印細胞診、X線検査および超音波検査、血液検査などを行います
■治療
子宮卵巣摘出術を行います。子宮を温存した場合、再発のリスクがあります。子宮口を広げる注射薬での治療も可能な場合もあります
中耳のポリープ(鼻咽頭ポリープ/炎症性ポリープ)
耳に見られる隆起性病変のうち、中耳、耳管、耳咽頭の粘膜上皮から生じる非腫瘍性のものを鼻咽頭ポリープまたは炎症性ポリープと呼びます。病因は不明です。
■診断
手持ち耳鏡にて確認します。またX線検査とCT検査を行います
■治療
内視鏡または外科的に摘出します。再発の可能性があります
皮膚肥満細胞腫
好発部位は頭頚部の表皮または真皮です。英国における報告によると、ラグドールも好発品種の可能性が示されています。皮膚病変の他に、脾臓で別の肥満細胞腫が発生しているという説もあります。
■診断
確定診断は病理組織学的検査で行います。全身の検査が必要です
■治療
外科的摘出を行います。摘出後半年以内に再発・転移がない場合、予後は2年以上です。化学療法/放射線療法は確立されていませんが、犬における治療に準拠して実施されています
猫伝染性腹膜炎
猫コロナウイルスが猫の体内で変異を起こし、猫伝染性腹膜炎ウイルスになることで発症するまれな感染症です。1歳未満の子猫に多く、雄に多いとされます。
病態としては腹水や胸水など貯留液が溜まるタイプと、病変部位に肉芽腫を形成するタイプがあります。主な症状は発熱、元気消失、体重減少、食欲不振の他、部位により腎機能低下、肝機能低下、ぶどう膜炎、神経症状などです
■診断
特徴的な臨床症状や画像診断などいくつかの検査を組み合わせて行います
難産
外部からの介助がなければ分娩が困難、あるいは不可能な状態にあることをいいます。猫は比較的安産であり、犬よりも難産の発生率は低い傾向です。ただし発生率は品種によって違い、ラグドールは難産が起こりやすいと知られています。
ラグドールとの生活で気を付ける点
ラグドールとの生活では次のようなポイントに注意しましょう。運動のさせ方や毛のお手入れなど、ラグドールの特徴に合わせたお世話をすれば、猫も快適に過ごせます。
運動しやすい環境をつくる
ラグドールの飼育で意識したいのは運動量の確保です。ラグドールは猫種の中では比較的体が大きく、またその温和な性格もあり、なかなか積極的に運動をしない個体も多く見られます。運動不足にならないよう、十分運動できる広さに、運動しやすい環境を整えてあげることが大切です。
ブラッシングは毎日欠かさない
ラグドールは毛足の長い猫であるため、毎日のブラッシングが必須です。毛玉ができやすいため1日1~2回のブラッシングを目安として、丁寧にケアしてあげましょう。
ラグドールを飼うのに向いている人
ラグドールの飼育に向いているのは、猫との穏やかな生活を求める人です。ラグドールはおとなしい性格で普段はそこまで活発ではありません。ゆったり猫との日々を楽しみたい人に適しています。
また、かかりやすい病気が少し多いので、毎日のブラッシング時などこまめに猫の状態をチェックできる世話好きの人にも向いています。
ラグドールの特徴を知って家族の一員に迎え入れよう
ラグドールは優しくおとなしい猫なので、飼育しやすい面もあります。ただし、かかりやすい病気の予防や早期発見・治療には常に注意を向けておきましょう。ラグドールをお迎えするか悩んでいる方は、さまざまな特徴を理解し、実際の飼育をイメージしながら検討を進めてください。

服部 幸 先生