「大切な愛猫の体調不良にはすぐに気づいてあげたい!」 そんなオーナーの思いとは裏腹に、猫は不調を隠してしまいがちです。そこで本企画「にゃ・ジャッジ」では、見逃してほしくない愛猫の不調のサインや受診のタイミングを獣医師から直接アドバイス!今回のテーマは「口まわりのできもの・体のしこり編」、オーナーの皆さんが「どうしよう!」と迷うケースについて、有識者の佐藤愛実獣医師に「こう動くべし!」とジャッジしていただきます。
【注意】本企画のアドバイス(「◎様子を見てOK」、「×早めに病院へ」)は、あくまでも一般的な目安とお考えください。少しでもおかしいと感じたら、かかりつけの獣医師へ相談されることをおすすめします。
目次
佐藤 愛実(さとう まなみ)先生
CASE1「あごに黒いつぶつぶがついている!」
ニキビのようなものなので
まずは蒸しタオルで拭いてみて!
解説
あごの下にできる黒いつぶつぶは皮脂腺の分泌物が固まったもので、「あごニキビ」と呼ばれています。症状がニキビだけであれば治療の必要はほとんどありません。まずは蒸しタオルで拭いて清潔にして様子を見てもいいでしょう。
念のため毛をかき分けて皮膚の状態もチェックしてください!
皮膚に異常が出ている場合は
炎症が起きているので病院へ
解説
皮膚が赤くなる、皮がむける、ジュクジュクした膿が出る……といった症状があれば、炎症が起きているので治療が必要です。細菌やカビの感染症をはじめいろいろな病気が考えられるので、放っておいたらどんどん悪化してしまう可能性大。痛みも出てくるので、動物病院で早めに検査と治療を受けてください。
ニキビがなかなか治らなかったりあごの下から広がったりしている場合も、感染症などの病気が疑われます。早めに獣医師に相談しましょう。
先生からのアドバイス
黒っぽい猫や長毛の猫は見た目ではわかりづらいので、見た目だけでなく皮膚の状態をしっかり確認することが大切です。
先生からのちょっとためににゃる話
あごニキビのケア
あごニキビは去勢手術をしていないオスにできやすいといわれていますが、年齢や性別に関係なく見かけると思います。分泌物が徐々に溜まってつぶつぶのかたまりになるので、「あごの下がなんとなく汚れているかも?」と感じた段階で拭いてあげましょう。
CASE2「歯ぐきが赤くて、口臭が気になる」
歯に沿って赤くなっている程度なら
歯磨きで治ることもある
解説
歯磨きを行わないと、細菌の塊である歯垢や歯石が溜まり、それらに接する歯肉(歯に沿った歯ぐき)が炎症を起こして歯肉炎になります。歯に沿って線状に赤くなっている程度で口臭が無臭に近く、口を痛がる様子が無ければ、歯肉炎の初期と考えていいでしょう。歯磨きでしっかり掃除をすれば治ることもあります。
歯磨きがうまくできないときは、獣医師に相談すれば磨くコツや練習方法を教えてもらえます!
歯ぐきや口が全体的に赤い、口臭がきつい、
よだれなど痛みのサインがあるときはすぐ病院へ
解説
炎症が歯肉から歯を支える骨まで広がると歯周炎になります(歯肉炎と歯周炎をまとめて歯周病ともいいます)。歯垢が蓄積して歯石になっているケースが多く、歯磨きでは汚れを取り除けないので、病院での歯石除去や抜歯などの処置が必要になります。そのほか、口全体に炎症が起きる歯肉口内炎や腫瘍も考えられます。見た目では区別できないので、動物病院を受診して検査を受けてください。
進行すると強い痛みを伴うので、くわえたものを落としたり、前足で口をこすり続けたりするしぐさが見られます。猫の行動に「あれ?」と思ったら獣医師に相談しましょう。
先生からのアドバイス
ドライフードはウェットフードに比べて歯垢や歯石がつきにくいといわれていますが、猫下部尿路疾患や慢性腎臓病などの泌尿器系の病気に配慮するならウェットフードのほうがよい面もあるので、一概にドライフードをおすすめしていません。人間だってお煎餅を食べていれば歯がきれいになるわけではないですよね。歯のトラブルを予防するためには、しっかり歯磨きをするのがベストです!
先生からのちょっとためににゃる話
歯のトラブルを歯磨きで予防
歯のトラブルの主な原因は、歯磨きをしていないこと。年齢を重ねるほど歯の汚れが蓄積しますが、汚れがつきやすい体質の猫は若くても歯周病になってしまう場合もあります。歯磨きの習慣でトラブルを予防しましょう。
[歯磨きの練習方法]
(1)口の周りを触ったり唇をめくることに慣れてもらう
(2)おいしい味つきの歯磨き剤を指につけて舐めさせる
(3)歯磨き剤をつけた指で少しだけ歯をこする
(4)指にガーゼを巻いてから歯磨き剤をつけて、歯を少しだけ磨く
(5)慣れてきたら、(4)の準備をしてから汚れが溜まりやすい頬と奥歯の間を磨く
(6)ガーゼを歯ブラシに変える(難しい場合はガーゼで磨ければ十分)
※歯磨きができるようになるコツは、ご褒美をうまく使いつつ、スモールステップで焦らずに慣れさせることです。決して無理強いしてはいけません。
CASE3「口の中にできものがある」
片側だけ盛り上がっている、えぐれている、
出血しているときはすぐ病院へ!
解説
歯肉炎や歯周炎、歯肉口内炎が口内の両側に見られるのに対し、腫瘍の可能性があるできものは口の片側に症状が現れることが多いです。最初は痛みがほぼない場合もあるので、進行してえぐれたり出血したりして初めて気づく飼い主さんが多いと思います。口のトラブルを減らすには歯磨きが有効です。合わせて口内チェックを習慣にして早期発見を目指しましょう。
悪化したできもの(腫瘍)と歯肉口内炎は似ていることがあるうえ、併発しているケースもあります。まずは動物病院を受診してください。
先生からのアドバイス
痛みある場合には、ごはんを食べたそうにするのに食べられない、硬いものを避けて柔らかいものばかり食べる、といった変化が現れます。口のチェックが難しい場合でも猫のしぐさを観察して早期発見に努めましょう。
先生からのちょっとためににゃる話
口内のトラブルを早期発見
歯のケアを怠ったり口のトラブルを放置したりすると、全身に悪影響が出ます。口を開ける練習で口内チェックを習慣にしてください。あくびをしているときには奥までチェックするチャンスです。 地で失敗することはあまりありませんが、いろいろな事故を引き起こす可能性があることは、知っておいてもいいと思います。
[口内チェックの練習]
(1)口の端を少し引っ張って頬と奥歯の間をチェックする
(2)頭を手で支え、反対の手の人さし指であごを下げて奥を見る
CASE4「体にしこりがある」
猫のしこりは
半分以上が悪性腫瘍なのですぐに病院へ!
解説
猫の体表にできるしこりは5~6割が悪性腫瘍で、中でも特に悪性度が高いのはメスの乳腺腫瘍(乳がん)です。乳腺腫瘍はリンパ節や肺に転移しやすく、最大でも2cmになる前に見つけて切除しなければ寿命に関わります。猫の乳腺は腋の下から足の付け根まで2列4対になっていて、多発することが多いので、腫瘍ができた部分だけでなくすべてを切除したほうが生存期間はのびます。
乳腺腫瘍は5mmでも転移していたケースもあるので、おなかにしこりを見つけたらすぐ受診してください!
先生からのアドバイス
乳腺腫瘍のほかにも、全身のどこにでもできる肥満細胞腫、日に当たりやすい耳や目の上にできる扁平上皮癌、おしりのしこり(肛門嚢に分泌物が溜まって破裂することがある)などにも要注意。体にしこりを見つけたら、すぐに猫を連れて動物病院に来てください。
先生からのちょっとためににゃる話
スキンシップを兼ねてしこりのチェック
日頃から全身を触る習慣をつけ、「感触がいつもと違う」と気づけるようにしておくことが大事。まずはスキンシップを兼ねて全身を順番に触るだけでも十分です。猫がチェックを嫌がらないように、おやつをあげながら楽しく練習してください。
[おなかのチェックの練習]
(1)指を滑らせるようにしてなでる
(2)特に乳首の周りはつまむようにチェックすると小さいしこりにも気づきやすい(とくに避妊手術をしていないメスはしっかりチェック)
キャットリボン運動「乳がんで苦しむ猫をゼロにする。」
[おなか意外の体のチェックの練習]
(1)おなか以外の部位は両手でつまみながらチェックする
(2)慣れてきたら、つまんだときに毛の内側や皮膚も確認する(寄生虫を発見できることもある)
歯磨きは歯ブラシを使ったほうがきれいに磨けますが、猫も飼い主さんも負担が大きくなります。歯に歯垢がつくまでに数日、歯垢が歯石になるまでさらに数日かかるので、まずはガーゼで1日1箇所ずつ磨くだけでも効果はあります。体のチェックも同様で、全身を一気にくまなくチェックするのは大変です。まずは猫が嫌がらない頭から始め、おやつをあげながら少しずつ範囲を広げていきましょう。