「あおぞら動物病院」の増山先生からバトンを繋いでいただいたのは、東京都江東区の苅谷動物病院グループ江東総合病院の院長であり、代表取締役の顔を持つ苅谷卓郎先生。父から受け継いだ獣医師のバトンを胸に、「確実な診断と適切な治療」を実直に行う動物の総合病院を目指しています。また、地域に根付いた一次診療としての使命を忘れず、動物と飼い主さんが気軽にいらしていただけるシステムの構築にも余念がありません。医療者として経営者としての取り組みをうかがいました。
苅谷 卓郎 先生
目次
「病気を見つけて治療につなげる」と、気概をもって診察にあたる。
苅谷動物病院グループは、あらゆる病気を診られる総合病院を目指しているそうですね。
当院はかかりつけ医としての役割を持つ一次診療ですが、人間の総合病院のように、消化器科、循環器科、皮膚科など多数の診療科目を設置しています。通常の診療に加えて、各診療科のスペシャリストや専門医と連携できるのが強みですね。心臓病のように急変する病気にも備えて、24時間体制で診察にあたっています。じつは愛犬が夜中に具合が悪くなったこともあって、夜間救急診療が可能な動物病院は必要だと実感しているんです。
初代院長のお父様から、動物病院と共に受け継いだことを教えていただけますか。
父が50年前から持ち続けている「検査をして病気を見つける」というマインドは、僕を含めてグループ全体に行き渡っていると思います。正確な診断が適切な治療につながると思っているからです。街の動物病院が同規模の人間の病院に比べて検査機器が充実しているのは、動物の病気を診断するのが非常に難しいことも理由の一つだと思います。よくある「何度も吐く」「元気がない」という症状は、あらゆる病気の可能性があるのではないでしょうか。人間のようにどこに不調があるのかうったえないので、動物の症状や飼い主さんの問診を手がかりに検査で突き止めるしかありません。
僕らは「絶対に診断をつけて治療につなげよう」という気概を持って診察にあたっています。飼い主さんにはいろいろな検査を提案しますが、不必要なことは行っていません。ただ、検査には費用がかさみ、ときには何も見つけられないこともあってためらう若手の獣医師もいるんですが、治療が後手になると命が危うくなる病気もあるので、必要な検査はすべて飼い主さんに提案するように指導しています。僕は大学で画像診断を学んだので、院内で診断に迷ったときや超音波を当てるのが難しい場合にフォローするのに役立っています。現在も定期的に獣医画像診断認定医はもちろん、いろいろな分野のスペシャリストの先生を招いて勉強会を行なっているんですよ。
独自の献血プロジェクトや会員制健康維持システムを展開。
犬と猫の献血という珍しい取り組みを行っているそうですね。
動物医療界には人間のように血液を供給する機関がないので、20年前に「献血プロジェクト」を始めました。もともとは父が血液内科に関心があったことと、献血のためだけに院内で犬猫を飼うことに抵抗があったからと聞いています。今は犬20頭、猫20頭以上がドナーとして献血に協力してくれています。大学付属や二次診療の動物病院からも輸血の血が足りないときには連絡がくるんですよ。ドナーのみなさんには数えきれないほど多くの動物が助けられて感謝しています。
血液は2カ月以内に使わなければいけないので、1頭につき年2回のスケジュールを組んで依頼していますが、急患の場合は緊急で献血をお願いすることもあります。代わりにドナーの健康は責任を持って厳重に管理しています。1回につき採取する血液の量を決め、病気の有無を確認するために毎年の健康診断も行なっています。当院では10~15人の獣医師や愛玩動物看護師が献血チームに関わっているんです。通常の診察以外の業務や健康管理の費用のことを考えると、献血プロジェクトを行うには動物病院にある程度の規模が必要で、生半可な気持ちでは続けられないと思います。
会員制の健康管理システムをはじめ、多彩なサービスが評判です。
定期的な健康診断が理想とはいえ、なかなか動物病院に足を運ぼうとは思わないですよね。そこで会員制健康維持システム「ペットケアクラブ」に入会した方は、毎月の体重測定や身体検査を無料で実施するほかに、すべての医療やサービスを10%引きでご利用できるサービスを設けました。ほかにも誕生月や予防医療などの割引特典もあります。
病気になったときに行く場所では、動物も飼い主さんも通うモチベーションが上がらないですよね(笑)。生活をトータルでサポートできるように、ペットホテルやトリミングサロン、しつけ教室なども展開しています。
動物と飼い主さんに寄り添う気持ちを持ち続ける
飼い主さんから届くお手紙をグループ全体で共有していると聞きました。
僕自身も多くの動物や飼い主さんを関わるようになってから、たくさんの思い出があります。獣医師になって2年ほど経った頃、亡くなった動物の飼い主さんからお手紙をいただいたことが、僕にとっては衝撃でした。「助けられなかったのに、どうして?」と……。治療法がない慢性疾患だったので特別なことはできませんでしたが、「気持ちに寄り添ってくれたことがうれしかった」と書かれていたんです。たとえ治らない病気だとしても、力を尽くして動物と飼い主さんの生活を守っていくことが大事なんだと気づくきっかけになりました。
獣医師になったばかりの頃は「どんな病気でも治してやる」という気持ちで挑んでいましたが、診察の経験を積むとだんだん治るのか治らないのかわかってくるんです。では、何ができるのか。飼い主さんのお手紙を読むと、獣医師に求めているのは動物の治療だけでなく、どんな病気でもしっかり診てもらうことだと伝わってきます。全スタッフにそれを知ってほしくて、お手紙を見られるシステムをつくりました。
医療者・経営者として、どのような動物病院を目指していますか?
飼い主さんの気持ちになって、気軽に通える動物病院を目指しています。獣医師の僕でも具合の悪い愛犬を連れていくのに焦ったことがあるので、飼い主さんだったらどんなに心細いかと思います。「しんどいときに来てくれてありがとう」という気持ちで診察にあたっていますよ。来院のハードルが高い猫にも配慮し、グループの5つの動物病院が"猫にやさしい病院"であることを認める国際基準のキャット・フレンドリー・クリニック(CFC)にも認定されています。
来院の負担を少しでも減らせるように、「スマートフォン問診」を始めました。「スマートフォン問診」は飼い主さんが一番気になっていることがはっきりわかるうえ、獣医師がカルテに記入する時間を省けるので、動物のことをこれまで以上にしっかり診察できるようになったんですよ。受診はハードルが高いと感じるかもしれませんが、困ったことがあれば何でも相談してくださいね!
苅谷動物病院グループ
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あおぞら動物病院の増山先生のバトンへの回答
増山先生
Q1.もし獣医師にならなかったら、どんな職業についていたと思いますか。
苅谷先生
子どもの頃から生き物が身近にいたせいか理系に惹かれていたので、たぶん医師を選んだと思います。もちろん今は獣医師になってよかったと思っていますよ。じつは父に「獣医師になれ」と言われたことはないんです。強制されたらきっと反発したと思いますが、僕の性格を見越して「犬も猫もかわいいよね~!」とだけ言い続けた父の作戦勝ちですね(笑)。
増山先生
Q2.獣医師として経営者として、意識していることがあれば教えてください。
苅谷先生
変化し続けないといけない、と意識しています。同じことを続けるのは停滞につながりますよね。当院は規模が大きいので変化に対応するのが遅くなりがちなんじゃないかと思っています。病気を治すのは当たり前のことなので、「ウェブ予約」や「スマートフォン問診」のように飼い主さんの利便性を上げるシステムの構築が目標です。
増山先生
Q3.日本の動物医療界に対して、先生が成し遂げたいことはなんですか。
苅谷先生
大げさなことを言うようですが、獣医師を含めた動物医療界全体の地位向上を目指したいと考えています。人間のほうが高度な医療を行えるのは確かですが、診断をつけて治療をするのは獣医師も同じです。近年は新型コロナウイルス感染症によって、人と動物の健康と環境の健全性はつながっているという「ワンヘルス(One Health)」の考え方が広まりましたよね。人と動物の隔たりを越えて健康を守るという目標を持つことが、動物医療界の地位向上の一歩になると思います。
栗原学先生へのバトン
Q1. 一次臨床から専門分野に興味が移った背景とは?
Q2.専門医と一次臨床従事者との健全な関係性を築いていらっしゃると思いますが、意識されていることは?