「健康診断に連れて行った方がいい」とわかっていても、なかなか踏み切れない猫オーナーさんも多いのではないでしょうか。そこで、本企画では健康診断のリアルな体験レポートとともに、「どんな診断項目があるの?」「どんな不調がわかるの?」「時間はどのくらいかかるの?」などの疑問に獣医師の一瀬友之先生がお答えします。健康診断に協力してくれたのは、SNSの人気猫「むぎちゃん」。①体験編と②解説編の2回にわたってお送りする健康診断企画は、まだ健康診断を受けたことのない猫のオーナーさん必見です!
一瀬 友之 先生
取材に協力してくれた「むぎちゃん」
名前:むぎ 生年月日:2016年10月1日
性別:オス 猫種:スコティッシュフォールド
同居猫:スコティッシュフォールドで1歳下の「ちのちゃん」
性格:甘えん坊で好奇心旺盛。嫌なことをされると怒る。
既往歴:ストルバイト結晶ができやすい。
SNSアカウント:
twitter https://twitter.com/mugiiiii1001
Instagram https://www.instagram.com/mugichino/
目次
Go To健康診断!その前に、知っておきたい基礎知識
いよいよ健康診断がスタート! その前に少しだけ、健康診断への素朴な疑問を一瀬先生にお聞きしました。
健康診断は、健康な猫や若い猫でも受けた方がいいでしょうか?
健康診断はぜひ受けてほしいです。なぜなら、病気の早期発見だけでなく、「うちの子は健康だ」と安心できるから。猫の場合、外出はストレスになるので、来院回数をなるべく減らしてあげるためにも、普段から気になることは健診の際に獣医師に何でも聞いてみましょう。健康診断を受ける頻度は、健康な子であれば、基本的に年に1回、8歳以上のシニア猫は半年に1回をおススメしています。
おススメの健康診断項目を教えてください。また、所要時間はどのくらいですか?
検査項目は、「血液検査」、「尿検査」、「糞便検査」のセットがおススメです。価格は病院および検査項目の内容によって異なりますが、5,000円から20,000円ほどになることが多いと思います。なお、当日の健康診断の所要時間は、検査項目にもよりますが15分から30分程度です。実はそんなに時間もかからず、猫の負担を最小限に抑えてスピーディーに検査できるのでご安心ください。
健康診断前、たとえば前日にすることはありますか?
検査前にすることはほとんどありません。普段と同じように過ごしてください。尿は健康診断の当日に、便は前日のものでも大丈夫ですので持ってきていただけると、当日の猫の負担が減りますよ。
いよいよ、むぎちゃんの健康診断がスタート!
【むぎちゃん健康診断スケジュール】
- 1. 触診・問診
- 2. 血液検査
- 3. レントゲン撮影
- 4. 採便
- 5. 超音波検査
まずは触診と問診から
検査へ入る前に、まずは先生の触診と問診があります。
①触診では、むぎちゃんの顔から尻尾まで、リンパ節を触りながら異常がないかをチェック。
②顔は目と口の中、耳の中を確認。触診の間に問診も行われ、オーナーが普段の生活で気になっていることなどについて先生から質問があります。
むぎちゃんについて、何か気になることはありますか。
歯ブラシをさせてくれないので歯垢が気になります。
毎日できる歯垢と口臭予防のケアは、大切ですね。まずは飲み水に入れるマウスクリーナーを使ってみてはどうでしょう。市販で手に入りやすいものがあるので、試してみてくださいね。
最近、耳が汚れやすくなってきたのですが……。
スコティッシュフォールドは耳道がつぶれてしまうので、耳の中が狭くなり、湿度が上がってマラセチアという真菌が増えて外耳炎になる場合があります。むぎちゃんはまだ炎症を起こしていないので大丈夫ですが、2週に1 回はお掃除をしてあげてください。コットンに耳専用の洗浄液をつけて指でふきとる程度で大丈夫です。
爪切りを痛がるようになったのも気になります。
それはちょっと気になるので、レントゲンで手先までしっかり撮影して異常がないかを確認してみましょう。
③爪切りを嫌がり始めたむぎちゃん。触診で手先を確認します。
④診察台は体重計の役割も果たします。体重が減っている場合は、10%以内に収まっているかもチェック。10%以上の場合は病気の疑いがあります。むぎちゃんは体重の変化はなく正常◎でした!
ここからはオーナー様には控室で待っていただき、むぎちゃんだけで検査を受けます。まずはキャリーケースに入ってもらって、先生が「大丈夫だよ~」と声をかけながら移動。
続いては血液検査、ゴロンと寝ころがって一瞬だけチクッ!
⑤エリザベスカラーを装着して、血液を採取します。「すぐ終わるからね、がんばろうね」看護師さんが体を押さえながら、優しく声をかけて緊張をほぐします。1分程度であっという間に終了。
血液検査は、院内にある血液検査器「IDEXX」を使うことで、待ち時間なく検査結果を得られます。
レントゲン室で、レントゲンにも挑戦!
⑥今度はレントゲン撮影です。むぎちゃんには横向きに寝てもらいます。
⑦部屋を真っ暗にして撮影。追加でお願いした手先もきちんと撮影できました。こちらも数分ほどで終了。
大人しくゴロンとしている間に、うんちもササッと採れました!
続いて検便です。うんちは持参しても大丈夫です。この日、むぎちゃんはたまたまうんちをしなかったので病院で検便することに。綿棒状のもので素早く採取。その後、お尻をキレイにお掃除してもらいました。
続いて、超音波検査も実施!
背中が痛くならないように、ふわふわのベッドの上に仰向けにゴロン。
部屋を暗くして、器具をあててお腹の中を見ていきます。検査中は常に看護師さんがそばでずっと「いい子だね~。もうすぐ終わるからね~」と声がけしつつサポートしてくれるため、すべての検査がスムーズに終了しました。
これにて健康診断は無事終了。むぎちゃんお疲れ様でした!
最後に、一瀬先生から愛猫が健康診断を受ける際のアドバイス
「病院に連れて行くのが大変……」というときは?
「病院に連れて行くのが大変……」というオーナー様の声もよく耳にします。まずはキャリーケースに入ってもらうのが大変なんですよね。おススメの方法は、キャリーケースを常に出しておいて、その中でおやつやご飯をあげると、キャリーケース=病院というイメージを払しょくできるかもしれません。また、キャリーケースも外が見えないタイプであれば、屋外を歩いたり、大きな音がしたりしても猫は不安になりません。よりストレスなく病院に来られるように、工夫してあげてくださいね。
問診で伝えるべきこと、持ってくるといいものは?
健康診断の当日は、自宅での様子の変化を教えてください。たとえば、1ヶ月くらい前から食事を残すようになった、顔を洗う回数が増えてきた、お水を飲む量が増えてきたなど。そうした変化に応じて、診断項目を変更できます。今回のむぎちゃんも、爪切りを嫌がるということでしたので、レントゲンの際に追加で撮影しました。
また、動画や写真があるとわかりやすい症状もあります。たとえば「咳」や「くしゃみ」です。動画を見ると、実は嘔吐だったということもあります。その他の気になる様子についても、獣医師に確認してほしいことがあれば動画や写真を活用してください。下記、「日々の健康チェックリスト」をもとに毎日様子を見てあげて、何か変化があるようであれば、ぜひ相談してくださいね。
- 健康診断当日には、問診で自宅での様子の変化を伝えよう。
- 気になる症状は、動画や写真を撮っておこう
「一瀬先生直伝!日々の健康チェックリスト」
- ① 腰
8歳以上のシニアに差し掛かると腰痛が出始めて、ジャンプをしなくなった、尻尾を振らなくなった、という症状が出てきます。腰を触るとびくびくっと痙攣したり、ひどい子は「ギャッ」と鳴いたりもします。その場合は腰椎の骨が変形している場合があります。 - ② 口臭
直接嗅ぐのが難しければ、猫が舐めた手を嗅げばチェックできます。臭いがきつければ口内に異変がある可能性があります。 - ③ おしっこの臭い
アンモニア臭などの臭いが出てきたならば、膀胱炎や腎臓などの泌尿器系疾患の兆候の可能性があります。 - ④ 歩き方(特にむぎちゃんのようなスコティッシュフォールドの場合)
骨軟骨異形成症、通称スコ病のチェックをしましょう。早い子は1歳くらいから発症します。体重をかけないように痛そうに歩く、手を触るのを嫌がるなどを確認しておいてください。
以上、今回は、むぎちゃんが実際に健康診断を受ける様子をレポートしてみました。まだ愛猫に健康診断を受けさせたことのないオーナーの皆さん、いかがでしたか?
次回は② 解説編「健康診断で何がわかるの?」 です。どんなことが健康診断でわかるのか、詳しく解説していきますので、ぜひお楽しみに!
取材にご協力いただいた病院
いち動物病院 千葉県市川市曽谷 1-18-18 いちアニマルクリニック 千葉県鎌ヶ谷市東道野辺7-18-2 松井ビル1F
取材協力: anicas