前回の①体験編では、SNSの人気猫「むぎちゃん」の健康診断体験をリアルにレポートしました。意外にも検査は短時間で済み、愛猫への負担も最小限で済むことに驚いた人も多いのではないでしょうか? さていよいよ今回の②解説編では、むぎちゃんの健診結果と、一瀬友之先生の解説を詳しく紹介していきます!
一瀬 友之 先生
取材に協力してくれた「むぎちゃん」
名前:むぎ 生年月日:2016年10月1日
性別:オス 猫種:スコティッシュフォールド
同居猫:スコティッシュフォールドで1歳下の「ちのちゃん」
性格:甘えん坊で好奇心旺盛。嫌なことをされると怒る。
既往歴:ストルバイト結晶ができやすい。
SNSアカウント:
twitter https://twitter.com/mugiiiii1001
Instagram https://www.instagram.com/mugichino/
目次
検査結果で何がわかったの? リアルレポート
体験編で実施したむぎちゃんの健康診断は20分程度で終了しました。その後は、診察室で一瀬先生から検査結果の報告と解説を受けます。キャリーケースに戻ったむぎちゃんは安心したのか、オーナー様の膝の上でウトウト。では、検査結果を見ていきましょう。
血液検査の結果はいかに?
まずは血液中の血糖値、タンパク質量、コレステロール値、肝臓や腎臓に関する数値(詳細は下記リストにて)などを見ていきましょう。この数値において、むぎちゃんは、すべての数値が標準内に収まっているので、血液検査はまったく問題ナシです!
【むぎちゃんの血液検査の結果① この数値は何を見ているの?】
【一瀬先生のひと言メモ】
「T-BIL(総ビリルビン)」黄疸指数は、猫にとっては注意が必要な数値。肝臓と胆嚢が大きく影響します。ご飯を数日食べないだけでも数値が上がり、高い数値を放置しておくと、数日で亡くなってしまうケースもあります。
【むぎちゃんの血液検査の結果②】
続いて、白血球や炎症に関する数値などをみていきます。これらもすべて標準内。むぎちゃんの血液はとっても優秀です。ただ、血小板の数値「PLT(血小板)」だけが少し低くなっているので、詳しく顕微鏡で血液をみてみましょう。
これがむぎちゃんの血液です。赤く大きいものが赤血球、形が異なり少し白っぽいものが白血球、うすい赤色で固まっているものが血小板。普通は、血小板は単独で存在していますが、採血から少し時間が経ったため、このように固まっていますね(ボールペン部分)。固まった血小板は機械でカウントされないことがあるので、今回はそのために数値が低めに出たようです。実際にはたくさんの血小板があり、問題ナシです。
尿検査、糞便検査の結果は?
結晶のように見えているのは、時間が経ったおしっこに出る成分なので問題ナシ。もしも血尿があれば赤血球が見えたり、結石があれば石の成分や細菌が見えたりすることも。しかし、何もないキレイなおしっこで、こちらも異常はありませんね。
猫の場合は、「UPC(タンパク質クレアチニン比)」がとても大事です。正常な尿にはタンパク質はほとんど含まれません。もしも高い数値が出てきたときには腎臓や腸管などの病気が疑われます。ワンちゃんよりもなかなか腎機能低下=UPC上昇という検査結果に反映されないケースが多いのも特徴です。そのため、疑わしいときは超音波検査や血圧測定などの検査も組み合わせて総合的に評価していきましょう。むぎちゃんは、おしっこにストルバイトが出やすいということでしたが、その指標となるPHや「NIT(亜硝酸塩)」には数値が出ていないので、今回は正常でした。
むぎちゃん、血液も尿便も健康◎です!
うんちとおしっこも異常はありませんね。血便や寄生虫もなし。むぎちゃんは「たまにうんちがゆるくなる」とのことでしたが、1日で正常に戻るということなので、問題はなさそうです。血液、尿、便、ともにバッチリ健康ですので、安心してください。
【一瀬先生からのアドバイス】
おしっことうんちの検査は、検査当日に持参してもらえれば猫には何のストレスもなく検査できるうえに、多くの情報を教えてくれますから、ぜひ受けていただきたいですね。
採尿は、システムトイレで使うようなペットシーツを利用しているならば、シートを外したり、裏返せば採取できます。測定エラーを出さないためにも、おしっこは4時間以内の新鮮なものが理想。持ってくるぎりぎりまで冷蔵庫で保存しておくといいですよ。
うんちは、当日に出なければ前日のものでもかまいません。採取できなければ病院でも採取できますので、ご相談ください。
レントゲン検査の結果は?
レントゲンでは、骨を見つつ、腎結石や胆石などの石がないかを確認し、肺疾患、心臓疾患、喉の病気なども確認します。今回は、「むぎちゃんが最近爪切りを嫌がっている」ということだったので、追加で指先も撮影しましたが、骨軟骨異形成症(通称スコ病)と言われる症状は見られませんね。ただし、別の部分に気になるところが……。実は、肘の骨の変形が始まっているようなのです。もしかすると、その影響で痛みがあり、爪切りを嫌がっているのかもしれませんね。
【一瀬先生からのアドバイス】
むぎちゃんの爪切りの際は、肘をまげて切ると痛みが和らぎます。その他の対策としては、「非変性Ⅱ型コラーゲン配合のおやつ」として食べられる関節用のサプリメントもおススメです。
今はまだ大丈夫ですが、将来的には、高い所から飛び降りる際に関節への負担を軽減することも有効。衝撃を吸収できるクッション材を床に敷いたり、ある程度高い所まで行ったら、あとはオーナー様が降ろしてあげたり、炎症が起きないように注意してあげてくださいね。
肘の変形は進行し続けるものなので、今からできる対策をして症状の進行を遅らせ、重症化しないようにコントロールをしていきましょう。
超音波検査の結果は?
超音波では臓器の異変を見ていきます。腎臓、肝臓、脾臓、胆嚢、すべてキレイで気になるところはありませんね。結論としては、肘以外はすべて健康体! 今の生活を続けてもらって大丈夫ですよ。
健康診断を終えて
健康診断は大事だと改めて思いました
【むぎちゃんのオーナーさんの感想】
帰宅後のむぎは、がんばったご褒美のおやつを食べた後、いつものようにお昼寝をしたり、のんびりしたりして過ごしていました。病院のにおいがするせいか、同居猫の「ちの」にはシャーシャー言われていましたが、しばらくすると元通りになっていましたね。
今回、健康診断は大事だと改めて思いました。普段気になっていることも相談できてよかったです。爪切りを嫌がるようになったとお伝えしたことで、「痛みがあるのかも?」と手先までレントゲンをとって、肘の変形が始まっていることが早めにわかり、対応できる選択肢も増えました。実は、早速サプリメントを始めたんです。強い痛みが出る前に気づくことができて本当によかったです。
少しでも長く健康に過ごしてもらえるように健康診断を今後は定期的に受けさせていきたいです。
一瀬先生からのメッセージ
病院へ連れて行くのが大変な猫ちゃんの場合は、健康診断をためらうオーナー様の気持ちも理解できます。しかし、健康診断を受けて、異常がなく健康であることがわかれば、これ以上の安心材料はありません。病院が苦手な子を連れていける可能性をあげられるおうちでの対策(サプリメントやお薬など)もでてきていますのでかかりつけの先生に相談してみてください。 愛猫の健康維持のためにも健康診断を受けに、ぜひ一度病院を訪れてみてくださいね。そして、その際には普段気になっていることをどんどん相談してください。一緒に愛猫の健康を守っていけたらと思っています。
さいごに
①体験編と②解説編の2回にわたって、健康診断のリアルレポートをお届けしましたがいかがでしたか? 一瀬先生曰く、「健康診断を受ける猫は年々増えています」とのこと。さまざまなことがわかる健康診断を、この秋に受けてみてはいかがでしょうか。
取材にご協力いただいた病院
いち動物病院 千葉県市川市曽谷 1-18-18 いちアニマルクリニック 千葉県鎌ヶ谷市東道野辺7-18-2 松井ビル1F
取材協力: anicas