猫は体調の悪化を隠すのが上手な動物。だからこそ、大切な愛猫の健康維持のためには、オーナーによる、不調への適切な行動が重要です。そこで本企画「にゃ・ジャッジ」では、見逃してほしくない愛猫の不調のサイン、受診のタイミングについて獣医師から直接アドバイス。第1回目のテーマは排泄!ここからPART①とPART②の2回にわたって、オーナーの皆さんが「どうしよう!」と迷うケースについて、猫裁判長と、有識者の太刀川獣医師に「こう動くべし!」とジャッジしていただきます。
【注意】本企画のアドバイス(「◎様子を見てOK」、「×早めに病院へ」)は、あくまでも一般的な目安とお考えください。少しでもおかしいと感じたら、かかりつけの獣医師へ相談されることをおすすめします。
目次
太刀川 史郎 先生
CASE1「あれ、おしっこが今日は出てない!?」
回数が少なくても、
いつもの色&量が出ていて、
おもちゃで遊べていれば、まだ大丈夫!
解説
猫はおしっこのルーティーンが崩れると、トイレに何度も行くようになります。「いつもは見かけない “猫のトイレ姿” が今日はやけに目につくな……」。その気づきが「おしっこが出ない」というトラブルの最初のサインです。
そもそも猫や犬は、知らない環境などではおしっこを我慢しがちな生き物です。2~3日程度しない子は珍しくありません。さらに「身体の外に水を捨てたくない性質」を持っているため、健康な子は膀胱が多少膨れてもおしっこを我慢してしまうのです。これらの理由から、普通に遊ぶことができる健康な状態であれば、多少おしっこの回数が減っていても、何日間かは様子を見てもいいでしょう。
猫じゃらしなどのおもちゃで遊ぶようであれば、数日は様子を見ても大丈夫。1~2日経ってもリズムが戻らない,トイレには行くけどおしっこの量が少ない、色が濃いなどが見られれば早めに病院へ
総合的に量が少ない、
色が濃い時は要注意、早めに病院へ!
解説
おしっこの量が少ないという状況は怖い病気につながることもあります。例えば腎臓病の末期。さらには尿に含まれるばい菌が腎臓へ逆流して腎臓病を繰り返す、あるいは尿路に結石が詰まって腎臓を傷つけ、最終的には慢性腎臓病になる可能性も。これは7歳以下で若くして亡くなる子たちに多いケースです。たとえ、おしっこが出たとしても「量が少ない」ときは要注意! 「色が濃い」ときもさまざまな病気の可能性がありますので、早急に病院へ連れて来てください。
量が少ない、色が濃い時は病気の可能性あり、なるべく早めに病院へ
先生からのアドバイス
おしっこ(実はウンチも当てはまるのですが)が出ないと気づいたときには、いつものルーティーンが崩れていないかをチェックしてください。身体を触ると嫌がる、抱っこを嫌がる、隅っこでじっとしている、帰宅時に出迎えに来ない、いつも完食するフードを残したなど、ルーティーンが崩れるようであれば、何かの兆候かもしれないと思って注意深く観察するようにしましょう。
普段からおしっこを出しやすくするためには、お水を飲ませる工夫をしてもいいかもしれません。たとえば、お水に氷を入れてあげると、氷が水に浮くのが気になって手でチョイチョイと触るため、その手を舐めればお水を飲むことができます。氷の冷たさは気にしなくてもOK!
また、ドライフードしかあげていないのであれば、ウェットフードを増やすといいでしょう。ドライフードにはほとんど水分が含まれていません。水分をとるためにも、ドライとウェットを半分ずつにするのがいいと言われています。ウェットフードは扱いが面倒ですし、少し割高なので敬遠する人もいますが、お水をあげるというつもりで与えるとGOODです。
CASE2「おしっこがいつも以上に出ている気がする!」「今日は何度もトイレに行くけど大丈夫?」
おしっこをたくさんする(多尿)だけなら、数日は様子を見て大丈夫
解説
トイレに頻繁に行ってたくさんおしっこをする『多尿』の場合に疑われる病気は、ホルモンの病気や糖尿病、甲状腺機能亢進症、腎臓病など。急変して命に関わるような可能性は低いので、ちょっと様子を見てもいいかもしれません。血液検査をすればわかる病気が多いので、当日急いで病院に行かなくても、都合のつく時に病院へ連れて行けば大丈夫です。
おしっこをたくさんする(多尿)場合は、数日様子を見守りながら病院へ
トイレに何度も行くのに
おしっこが少ない(頻尿)の場合は、
早めに病院へ
解説
多尿であればまだよいのですが、頻尿、つまり少ししか量が出ていないのにおしっこの回数が多いと感じたら、早めに病院へ行った方がいいでしょう。頻尿の場合、膀胱炎を患っているケースが多くみられます。膀胱炎になると刺すような痛みがずっと続き、とても苦しそうな様子を見せます。こうなるとかわいそうで見ていられなくなり、一日放っておくようなことはまずないはず。特にオス猫の場合は、おしっこが出なくなると苦しみ始め、最後は痛すぎて脱力して虚脱状態に。ここまでくると治療費がかさみ、治らないこともあるので早めに病院へ連れて行くことをおすすめします。早めの受診により膀胱炎になる可能性を見越してお薬を処方することも可能に。先を見越した治療で症状の悪化を防ぐことができることもあります。
トイレに何度も行くけれどおしっこが少ない(頻尿)場合や、痛がっている場合はすぐに病院へ
先生からのアドバイス
トイレに頻繁に行くことがサインになる病気で一番多いのは膀胱炎と腎臓病です。トイレが長い、トイレに行く頻度が多い、さっき入ったはずなのにまたいる、トイレの砂が余計に散らばっている、トイレの周りにおしっこが付いている、あるいはベッドでしちゃった、別の場所でもらしちゃったなどのトラブルは病気の兆候ともいえます。こういった症状で来院する猫のほとんどは膀胱炎と診断されます。腎臓病は高齢猫がメインの病気なので、若い子であれば膀胱炎、高齢であれば腎臓病を獣医師は疑います。
先生からのちょっとためににゃる話
猫が排泄系でトラブルを抱えがちな3つの理由とは
①猫の身体的な特徴による理由。動物や人間の身体の組織は、傷ついても常にそれを修復する機能が備わっています。しかし猫の腎臓はその修復機能が非常に弱いのです。そのため、排泄系のトラブルにつながり、慢性腎臓病になる確率も高くなってしまいます。
②猫の性質による理由。猫(イエネコ)の祖先は砂漠に住むリビア山猫(リビアヤマネコ)と言われています。彼らは水の少ない砂漠で生きていくために、なるべく水分を体外に出さないようにしてきました。おしっこさえ捨てるのを控えていた彼らの性質を受け継ぎ、猫はおしっこを溜めがちに。これが膀胱炎などのトラブルを招く理由になっています。
③環境の変化による理由。自然界においては猫はネズミなどを食べることで、その血液や内臓から水分をとることができていました。しかし、ペットとして飼われている子の食事はドライフードが主流。ドライフードには水分はほとんど含まれていないので、水分が上手に摂取できず泌尿器系に影響してしまうのです。
これらの理由により、猫はそもそも排泄系にトラブルを抱えがち。ぜひ、普段から気を付けてあげてくださいね。
CASE3「1日に1回はウンチが出ているけれど、量が少ない、どうしたらいい?」
ルーティーンが崩れていなければ大丈夫!
解説
ウンチは、普通に生活をしていたら1日に1回は出るものです。2日に一度必ず出るのであれば、それが排泄のサイクルなので便秘ではありません。トイレに入ってすぐに出ていれば大丈夫。しかし、1日に1回、2日に1回などのルーティーンが崩れるのは要注意です。また、トイレの砂を必要以上にひっかきまわしたり、トイレの後に異常に走り回ったりする場合は、お腹が痛いということも考えられます。いずれにせよ、ルーティーンが崩れていなければ、少し様子を見てもいいでしょう。
いつもの頻度で出ていれば、少し様子を見てもOK。変わった様子が見られれば病院へ
トイレに何度も入っているのに
ウンチが出ないのは、要注意のサイン
解説
トイレで力んでも出ない、トイレに何度も入るのに出ないというのは異常のサインです。できるだけ早めに病院へ連れて行ってください。おしっこでもウンチでも、出ないことの方が命に関わります。しかし、特に女性オーナーの場合は、ご自分の経験からか便秘を危険な状態だと認識しない人が多いようです。猫は便秘になると、どんどんウンチがお腹の中で大きくなりお団子のようになって詰まる「巨大結腸症」になることがあります。こうなると次々に便がたまり、ばい菌が全身にまわって敗血症になり最悪の場合は死に至ることも。その他にも腸が薄くなって裂けてしまうこともあるので、見逃さないようにしたいですね。
トイレに何度も入っているのに出なければ病院へ
先生からのアドバイス
猫の便秘は癖になるので、排泄のリズムを作ってあげることが重要! まずは運動をさせてください。運動をしないと筋肉が動かず腸も動きません。一緒に遊んであげるだけで大丈夫です。フードは少しずつ食べさせてあげること。一日中食べる人が人間でもいますが、そういう人はかえって便秘になったりします。また、便が出ないとすぐに食物繊維をとらせようとしがちですが、繊維には不溶性繊維(ごぼうなど)と可溶性繊維(海藻など)があります。不溶性ばかりとると便秘を助長させてしまうので、フードに混ぜるのであれば可溶性繊維がいいでしょう。かかりつけの病院で相談し、アドバイスをもらってみてください。
次回は「排泄」編のPART②をお送りします。「下痢しちゃった!」「トイレに失敗した!」など、いろいろなトラブルをジャッジしてもらいますよ。ぜひお楽しみに!