動物病院やペットの情報サイトなどで見かける「ノミ・マダニ対策」。「うちの子は室内飼いだから大丈夫」と思っている人も、油断は禁物!ノミやマダニは思いもかけない経路から侵入して、ペットの体や生活環境に潜んでいることもあるのです。そこでノミ・マダニの生態や、それらによって引き起こされる病気、そして対策法について、オシャペットクリニック院長の高木俊輔先生にお聞きしました。今回は【マダニ対策】について詳しく解説します。
高木 俊輔 先生
目次
小さな虫とあなどるなかれ。実はこんなに怖いマダニの被害!
最初に、マダニの生態や生息地などについて教えてください。
マダニは硬い外皮に覆われた8本脚の節足動物です。森林など自然豊かな環境に多く生息していますが、都会の公園や河原などにも棲みついています。活動が活発になるのは春~秋にかけてですが、温暖化の影響で1年中活動するとも言われています。
ダニも、ノミのように哺乳類や鳥類などに寄生して血を吸います。ノミとの大きな違いは、体に取り付くと皮膚に牙を刺し込み、吸血し終わるまで動かないこと。はじめは1mm程度の体が、血を吸い続けることでぷっくりと膨らみ、小豆ほどの大きさになります。
まさに吸血鬼ですね……。吸血の期間はどのくらいでしょうか?
寄生に気づかず放置していると、1週間も吸い続けることがあります。ペットが同じ箇所をひんぱんに痒がる様子を見せたら、気をつけてあげてください。特に、お散歩中に草むらに入ったときなどに、比較的体毛の少ない顔や足の裏などに寄生することが多く見られます。お散歩から帰ったら、ペットの全身をチェックすることを、ぜひ心がけてほしいですね。
マダニの寄生を見つけた場合は、その場でとっても良いのですか?
そこが注意しなくてはいけないところで、マダニの牙は皮膚の奥まで食い込んでいるため、無理に取ろうとすると胴体だけがちぎれて、牙の部分が体内に残ってしまいます。その時点でマダニは死にますが、異物が体内に残留することでシコリができたり、皮膚炎を起こしたりします。見つけても引っ張って取ろうとせず、すぐに動物病院に連れていきましょう。
マダニについて知っておきたい3つのポイント
- 1. マダニは自然豊かな環境のほか、都会の公園・茂みなどにも生息する
- 2. 活動が活発になるのは春~秋だが、1年中活動するマダニもいる
- 3. マダニの寄生を見つけても、無理に取らずに動物病院へ!
「愛犬にできものができました」と言って来院されることで、マダニを発見することがあります。皮膚に見慣れない突起物・付着物があれば、早めに獣医さんに相談しましょう。
命さえもおびやかすマダニ由来の病気と、その対策法とは
マダニに寄生されると、痒みのほかにどんな症状が現れるのでしょうか?
皮膚炎のほかに、多量に吸血されることで貧血を起こすことがあります。さらに、マダニは命にかかわるような恐ろしい病原体も持っています。そのひとつが「犬バベシア症」です。バベシアはマダニが持っている寄生虫で、犬に寄生すると赤血球を破壊してしまい、貧血や発熱、食欲不振などを引き起こすばかりか、急性の場合は黄疸や衰弱などにより死に至る危険性もあります。
とても怖い寄生虫ですね!それは犬だけなのでしょうか?
猫の場合は、「猫ヘモプラズマ症」を発症する場合があります。ヘモプラズマというリケッチア(一般の細菌より小さい微生物で節足動物が媒介者になる)が原因で、貧血や発熱、元気消失や関節炎を起こすことがあります。さらに、マダニの被害はペットだけのものではないんです。
それは人間にも影響があるということでしょうか?
その通りです。SFTSという言葉を知っていますか?これは「重症熱性血小板減少症候群」という病気で、SFTSウイルスを保有するマダニに咬まれることで発症します。症状としては発熱や下痢、嘔吐、腹痛などの消化器症状をはじめ、頭痛や筋肉痛、意識障害や失語などの神経症状、リンパ節膨張、皮下出血などが起こり、死に至る例も報告されているんです。もともと西日本や九州などの野生動物が多く出没する環境で見られた感染症でしたが、近年、全国的に広がっていて、被害も増加傾向にあります。
愛犬・愛猫はもちろん、飼い主さんも注意が必要なんですね!そんな恐ろしいマダニの対策法を教えてください。
マダニを寄せつけないため、外に連れ出した後はペットの全身を細かくチェックしましょう。発見したときは、いち早く動物病院に連れていきましょう。 マダニはマダニ駆虫薬で退治しますが、1年を通して活動するとも言われるので、定期的に対策してあげると安心です。駆虫薬は、飲ませるタイプの経口剤と、滴下タイプのスポット剤があり、価格は薬の種類や病院によって異なりますが、スポット剤の方が安価な場合が多いですね。それぞれにメリット、デメリットがあるため、ペットに合ったものを選んであげてください。
経口剤
- ・メリット :食べて駆除が確実にできる。シャンプーのタイミングに関係なく使用できる。
・デメリット:アレルギーがあると使えない場合がある。食べないことがある。
スポット剤
- ・メリット :皮膚に垂らすだけなので投薬が簡単。比較的安価。
・デメリット:滴下部分がベタついたり、薬液が垂れたりすることがある。使用後数日はシャンプーができない。
スポット剤を使うときは、ワンちゃんも猫ちゃんも、グルーミング時に滴下部分を舐めてしまう恐れがあるので、届きにくい首すじから肩あたりにつけるのがポイント。
また、ワクチンを打った場合、当日から数日間は、駆虫薬の投薬はお休みするようにお伝えしています。それは、万が一体調不良が起きたときに、どちらが影響したかわからなくなる事態を防ぐためです。