本企画「Vet’s Cats~獣医の猫の飼い方~」では、猫を飼っている獣医師に取材。実際に自宅でどのように飼われているのか、また、動物のプロとしてどのような注意をしているのかを伺います。
今回取材したのはTRVA夜間救急動物医療センターの喜多川麻美先生。一人暮らしをしながら、2匹の猫と暮らす喜多川先生に、「犬派から猫派になったお話」や、「一人暮らしで猫を飼うための住まいのコツや気をつけたいポイント」などを伺いました。先生と猫たちのマイペースな暮らしの様子をご紹介します。
喜多川 麻美 先生
現在2匹の猫と生活をしている。興味のある分野は救命救急、外科、腫瘍科。
目次
どちらかというと犬派だったのに、縁あって猫派になりました(笑)
喜多川先生は、子どもの頃から動物を飼っていたのですか?
小学3年生の時にハムスターを飼ったのが最初です。ハムスターを3匹続けて飼った後、高校2年生の時にずっと飼いたかった犬を迎えました。14歳半で亡くなったのですが、最後の3ヶ月は私も実家に戻り、現在勤めているTRVAで治療しながら看取りました。私はひとりっ子なのでまるで姉妹みたいに仲良く、ときにライバルのような関係にもなりながら過ごした忘れられない子です。
ペットとの出会いと別れがいくつかあった中で、獣医師を目指すようになったのはいつなのでしょう。
ハムスターを飼っていた時、「ものもらい」に気づいて、動物病院に連れて行ったことがあるんです。そしたら、強面のおじいさん獣医師が「よくこんなに小さいのを見つけたね!」と褒めてくださって。手際よく切開して治してくださったんです。その時に「獣医師さんってかっこいい!」と感じ、漠然と「私も獣医師になる!」とイメージを抱いていました。
現在は2匹の猫と暮らしていると事前に伺っていましたが、一人暮らしをしてすぐに飼い始めたのですか?
いえ。そもそも休日は外出したいタイプで、加えて一人暮らしなので、動物を飼うと自分の行動が制限されそうだと感じていました。それに実は、猫は少し苦手でした。飼ったことがなかったし、犬と違ってグニャグニャ動くから扱い方がわからなくて(笑)。
そんな喜多川先生が、猫を飼い始めたきっかけについて教えてください。
一人暮らしを始めて7年目くらいに、1匹目の愛猫である「うーちゃん」と出会ったんです。以前勤めていた病院に保護団体さんが断脚希望で連れてきた保護猫でした。車のエンジンルームに入ってしまい、後ろ脚が焼けただれ、そこにうじ虫が湧いている状態でした。そんなひどい状態にもかかわらず、とても元気でごはんもよく食べる愛らしい子でした。とはいえ、3本脚なので飼い手がなかなか見つからず、半年後に私が引き取ることにしました。
猫は苦手だったそうですが、「うーちゃん」を迎えることにためらいはありませんでしたか?
獣医師になってから猫に惹かれていたのですが、飼うことにはまだ抵抗がありましたね。でも、性格も良く、とにかくかわいかったんです! そんな「うーちゃん」も6歳になり、今では特別なケアの必要もなく元気に過ごしています。
2匹目を迎えて、家の中に猫社会ができ、私も気が楽になりました
もう1匹の愛猫との出会いについて教えてください。
猫を飼うようになってから家にいる時間が増えましたが、留守にすると「うーちゃん」が寂しそうにしているのが気になって、2匹目の猫「ぴっちゃん」を迎えました。
「ぴっちゃん」も保護猫でしたが、猫風邪で涙や目やにがひどくて顔がグチャグチャでした。治療して猫風邪は治りましたが、八の字眉の困り顔になっちゃって。「こんなユニークな顔の猫を飼いたい人は、きっといないだろうな」と思っていました。そこで、相性が良ければ「うーちゃん」が寂しくないだろうと考え、お試しで連れて帰ったんです。
「ぴっちゃん」が来て、「うーちゃん」や先生に変化はありましたか?
はい。2匹の相性はとても良く、互いに毛繕いしたり一緒に丸くなって寝たり、じゃれて走り回ったりしています。
そして私も、休日を猫たちと家で過ごすことがより楽しくなりました。家の中に猫同士の社会が出来上がり、私がいなくても楽しく遊んでいるだろうと思えるようになりました。
猫が過ごしやすい家を探し、工夫を加えながら暮らしています
一人暮らしで、猫と住むための部屋を探すときのチェックポイントはありますか?
ずっと家にいる猫たちが、“楽しく窓の外を眺められる部屋であること”は外せません。留守番をしている間、人も家も見えない、鳥も見えない環境はつまらないと思い、窓の外の景色に動きがあることを重視しました。
また、玄関の外に内廊下があるところを探しました。万が一、猫が玄関から脱走してしまっても、屋内なら危険度も下がります。広さや間取りはコストとの兼ね合いもあるので、住みながら工夫しています。
猫の安全や快適を守るために、家の中ではどのような点に注意しているのでしょう。
誤飲しそうなおもちゃは全部クローゼットにしまい、その部屋のドアも閉めています。でも、一度だけ全部開けられてしまったことがあって…。今は、クローゼットに養生テープを貼っています。落とされて困るものを出しっぱなしにしないことも基本ですね。それから、窓の外がよく見えるように、猫専用のカウンターテーブルを手作りしました。2匹とも気に入って、日向ぼっこを楽しんだりお昼寝したりしています。
喜多川先生流。猫と暮らすための家探しのポイント
- 1. 窓から見える景色に動きがあるとgood!
- 2. 猫が触れてはいけないものを収納するスペースを確保!
- 3. 玄関の外は内廊下だと、逃亡時も安心。
人間が隠すより、猫が見つける方が一枚上手。収納して隠していたはずのものを引っ張り出すこともあるので、厳重に管理してくださいね。
一人暮らしで猫を飼うなら、日頃の観察、早めの治療をおすすめします
猫たちは家の中で、どのような暮らしをしていますか?
猫同士でとても仲良くやっています。というのも実は、我が家では猫用トイレは1個なんです。トイレ数の理想は猫の頭数プラス1個、私の家の場合は3個なのですが、住宅事情もあって2匹共用です。1個のトイレ内でこっち側は「うーちゃん」、あっち側は「ぴっちゃん」とうまい具合に使い分けています。
ごはんスポットや爪研ぎなどはいかがですか?
ごはんは2匹とも同じものを食べています。もちろん器は別々です。おやつは基本的に与えていませんが、長時間留守をした後や病院での検査後などに、特別感を出しつつあげています。
爪研ぎは1つずつですね。3本脚の「うーちゃん」には床置きタイプ、「ぴっちゃん」には縦置きタイプを用意しています。キャットタワーも置いていますが、「うーちゃん」は登り降りが苦手なので、「ぴっちゃん」が独占しています。
お一人でのシャンプーや爪切りは大変そうですが、工夫していることはありますか?
2匹とも、ベタベタ触られるのがあまり好きではないので、シャンプーを使って洗うことはしていません。汚れたら時々、マイクロバブルのシャワーで汚れを落とす程度です。
爪切りも本気で嫌がるので、眠っている隙を狙って切ったり、遊びにきた友達に押さえてもらって切ったりしています。
日常的なケアで気をつけていることはありますか?
トイレの頻度やごはんを食べるスピードなど、いつもと違う点がないか、しっかり観察するようにしています。気になることがあれば、すぐに触ってチェックし、何か症状が出たらすぐに病院で検査します。
一人暮らしの方は特に、「これは放っておいて大丈夫かな…」と気になることがあれば、早めに動物病院へ連れて行くことをおすすめします。緊急での受診が必要な際、一人暮らしの場合は必ずしも家にいられるとは限らないので、早め早めに治療し猫の健康を保つことが安心につながるのではないでしょうか。
留守にする場合の、注意点について教えてください。
家を空けるのが24時間未満であれば、私も猫も信頼している友人に鍵を渡して「ごはんあげておいて」とお願いします。また、24時間以上家を空ける場合は実家に預けています。自動給餌器や見守りカメラは、うちの子たちはすぐに壊してしまいそうなので使っていません(笑)。
一人暮らしで猫を飼うなら、いざというときに頼れる友人や家族の存在も欠かせませんね。
喜多川先生流。一人暮らしで猫を飼うためのTIPS
- 1. シャンプーや爪切りは高頻度でなくて大丈夫。
- 2. 日頃の健康観察はしっかりと。
- 3. 友人や家族など、頼れる人が近くにいるとベター。
友人に世話を頼むのは「お互い様」の気持ちが大切。例えば、逆に友人が旅行に行くときは、私が友人の犬に餌をあげています。ひとりで、猫のケアを何もかもするのは大変。人の手を借りてもいいんだと考えると気が楽になりますよ。
ありがとうございました。最後に、猫オーナーさん、そして一人暮らしで猫を飼いたいと思っている方へメッセージをお願いします。
私は、ペットを気軽に衝動的に飼うべきではないと考えています。でも逆に、その子の命が終わるまで責任を持って世話をする覚悟があれば、一人暮らしでも大家族でも飼ってよいのではないでしょうか。
私自身、一人暮らしで猫を飼って6年経ちますが、いまだに「猫ってワカラナイ」「不思議ないきものだなー」と感じています。それがときに鬱陶しくもあり、でもそれ以上にかわいくて仕方ない幸せな毎日です。
よく言われる表現ですが、犬と人間は共存するが、猫と人間は同居しているだけ。一人暮らしの私にとって、2匹の猫との暮らしは、まさに心地よい“同居”ですね。猫のあたたかさが待っている家って、いいですよ。