本企画「ご長寿猫に優しい暮らし」では、高齢猫の身体的特徴やケアのポイントにスポットをあててご紹介します。本記事では、高齢猫を実際に飼われている獣医師に取材。日々のケアやサポートなどについて伺います。取材に伺ったのは、これまで数多くの猫と暮らしてきた海浜動物医療センターの西田しのぶ先生です。今は、若い猫2匹と11才の高齢猫の合計3匹のお世話に幸せを感じる日々なのだとか。 お話の中では、高齢猫の飼い主への具体的なサポート方法や、若い猫を飼っている飼い主へのアドバイスもいただきました。
西田 しのぶ 先生
目次
ストレスなく過ごすことが、高齢猫の健康を維持し、
長生きにもつながる
まずは、現在飼われている中で一番ご長寿の「レグ君」との出会いを教えてもらえますか。
事情ができて飼えなくなった知人から譲り受けたことがきっかけです。「レグ君」はまだ4歳でした。性格は当時から変わらず箱入り息子そのもので、おっとりしています。敵意を知らないのか人が好きで、自宅にお客様が来ると、なでさせてあげるなどのおもてなしができるし、他の猫もたいていは受け入れてくれます。
「レグ君」と一緒に飼われている猫ちゃんについてもご紹介いただけますか。
今は「レグ君」の他に若い子が2匹います。4歳の女の子「いのちゃん」は、網戸を破って部屋に侵入しごはんを食べていた子で、それ以来うちの子です。もう1匹の「ちっちちゃん」は、生後半年のマンチカンの女の子です。ペットショップで売れ残り、めぐりめぐって我が家にやってきました。3匹の関係性は、「いのちゃん」は「レグ君」が大好きで、「レグ君」は自分が一番好き。「いのちゃん」と「ちっちちゃん」は、ようやく最近うちとけて、お鼻をくっつける挨拶ができるようになってきました。今朝は3匹とも私のベッドで一緒に寝ていたんですよ。
「レグ君」は、どんな一日を過ごしていますか。
夜は私の足元で寝ることが多いです。一緒に起きるとその後は私に付いてまわってきます。気づくと足元でうたた寝していたりするので、私が見える場所が好きなようです。
実は約1年前に、血尿と頻尿で尿石症が発覚したため、ごはんは朝と夜の2回、療法食をあげています。そういう状況なので、おやつはあげていませんが、もう少し食欲が落ちてきたらあげるかもしれません。尿石症を患うまでは、供血猫として他の猫の手術用の血をわけられるくらい健康体でした。
「レグ君」が高齢になってから気を付けていることはありますか。
今のところ気を付けていることはありません。しかし、年をとると、飼い主さんと一緒にいることでリラックスできるので、何もしなくても一緒にいてゆっくりする時間を作ることが大事です。猫は飼い主さんの声を聴いているだけでも安心するので、少し声をかけるだけでも違います。
また、猫がリラックスしているかどうかは、飼い主さんであればわかると思いますが、「レグ君」は特にわかりやすくて、リラックスするとその場でふみふみします。猫にとっては、ストレスがないことが一番大切です。ストレスがあると、病気にもなりやすいと思います。そして、ちゃんと愛情を感じられるように、1対1で過ごす時間を作ってあげたいです。私も、「レグ君」とだけ過ごす時間、「いのちゃん」と「ちっちゃん」それぞれとだけ過ごす時間は確保しています。
19歳というご長寿で2年前に亡くなった「ぴーちゃん」について教えてもらえますか。
出会った当時、私は大学生でした。一人暮らしの寂しさゆえに猫を飼いたくて仕方がなかったときに、先輩が働いていた動物病院に子猫がいると聞いて駆け付けたんです。4匹いた中で、しっぽをあげて私のところに来てくれた子、それが「ぴーちゃん」でした。
性格は「レグ君」とまったく違って気難しい子で、猫も嫌いで人も好きではありませんでしたが、二人のときは寄ってきてくれました。これまでたくさんの猫を飼ってきましたが、「ぴーちゃん」は唯一、老衰で見送った子です。
「ぴーちゃん」が長生きできた理由は何だと思いますか。
おそらくですが、夜は二人だけで一緒に寝ていたことがストレスを軽減させていたのかもしれません。マッサージも好きだったので、毎日のように寝るときのスキンシップとしてやっていました。円を描くように体を撫でてあげたり耳も優しく揉んであげるとうっとりしていました。
- 1. 飼い主の声を聞くだけでもリラックス効果あり、声がけは積極的に
- 2. 寝るときだけは一緒に過ごすなど、1対1で向き合う時間を確保する
- 3. マッサージなど猫が喜ぶスキンシップも大切に
高齢猫は、愛情を感じられてリラックスしながらストレスなく過ごすことが、健康的に過ごすうえで一番大切です。
高齢猫だからこそ、日ごろからやってあげたいケアやサポートとは
高齢猫の飼い主へ、お世話をするうえでのアドバイスは何かありますか。
たとえば、トイレの個数です。年をとってから増やしても、新しいところには入りたがらないこともあるので、増やすのであれば、元気なうちにやっておきましょう。それから、入りやすさにも気を配ってください。上から入るタイプのものは年をとると入りにくくなります。
尿量のチェックも大切です。猫砂を使っている方でしたら、そこに50mℓのお水をかけたときに、どのくらいの塊になるかをチェックしてみてください。その塊の大きさを覚えておいて、普段の尿を比べれば、尿量の増減がわかります。もしも急に尿量が変化する場合には、病気も疑われます。
うんちは水分を含んで艶っぽいものが出ていれば大丈夫です。ただし、高齢になると便秘になりやすくなります。たとえば、腎臓病になると体が水を必要とするので、便の水をとってしまい、うんちがカチカチになって便秘になりやすくなります。1日おきなど、出るサイクルが変わらなければいいですが、そのサイクルが乱れるようであれば注意した方がいいでしょう。
飼い主ができることもたくさんありそうですね。トイレ関係以外では他に何かありますか。
猫は年をとると、「ごはんを食べるのが面倒くさい、お水を飲むのも面倒くさい」「のどは渇いているけれど、お隣の部屋まで行くのは面倒だな」と思うことがあるので、いろいろなところにお水を用意してあげるといいですね。飲み水とごはんのボウルは、床面にそのまま置くのではなく、少し高さのあるものだと食べたり飲んだりがしやすくなります。
それから、体重も測っておきましょう。体重が減ったと気が付くのは突然ですが、基本的には徐々に減っているはずです。自分の体重を測るついでに抱っこして確認してください。急激に減ったときは病院でチェックしてもらった方がいいです。
高齢になると遊ぶ時間も減ると聞きます。たとえば、お気に入りの場所が高ければ登らなくなるでしょうか。
遊ぶ時間は減ってしまいますが、興味を示さないからといって遊ぶことをあきらめないでほしいです。猫がおもちゃを「くだらないなあ」と思っていても目で追ったりしますし、気が向けば遊んでくれます。刺激を与えるのは年をとっても大切です。 猫はプライドが高い動物なので、今までできていたことができなくなることに傷つきます。ステップを作って好きな場所に行きやすくなるようにサポートするなど環境を整えることが重要です。
獣医師ならではの視点やご経験で、意識している高齢猫へのケアなどはありますか。
これは私の癖なのですが、呼吸数をつい数えてしまっています。1分間でどのくらいしているかなと。実は、猫は心臓病が多いんです。症状としては、息苦しさが出るので息が浅く早くなって呼吸数が増えます。病院だと興奮して呼吸数が通常とは異なるので、自宅でゆっくりしているときの呼吸数を数えておくと心臓病発見のきっかけになります。呼吸数は、通常は1分間で20回から30回程度です。安静にしているとき、呼吸をすると体が膨らみますから見ているとわかります。
若い猫の飼い主へ、今からしておいた方がいいこととして何かアドバイスはありますか。
お薬を飲めるようにしておくことでしょうか。投薬ができると治療の幅が広がります。小さいときから口が触れるようにしておくと投薬も楽です。
それから、ぜひおすすめしたいのが「1歳の誕生日プレゼントに健康診断」をしてあげてほしいです。成長が終わって体ができあがったタイミングで、その子の正常値を測っておいてください。レントゲンで心臓の大きさをチェックしたり超音波で肝臓や腎臓の大きさもチェックできます。正常値を確認しておけば、異常が発見されたとしても、もともとの数値だったのか急に変化したのかがわかります。
また、元気なときに病院へ連れていくメリットもあります。猫は隠すのが上手な動物ですが、獣医師もたびたび会っていれば、いつもと表情や反応が違うといったことがわかります。そうやって病気が見つかった子もいますから、ワクチンのときだけでなく年に2回くらいは健康診断もかねて連れてきてほしいです。
高齢猫にとって健康診断は、どのくらいの頻度で必要でしょうか。
7歳までは年に1回、それ以降は年に2回受けるといろいろな病気が早く見つけられます。血液検査と尿検査ができるといいでしょう。腎臓病であれば、発見が早いほど食事や投薬、サプリメントなど、進行をゆるやかにできる方法はあります。それに、普段見落としていることでも健康診断で判明することはたくさんあります。
たとえば、高齢になると睡眠時間が増えます。眠ることは猫にとって大切な時間ですが、気分が悪くておとなしくしている場合があります。腎臓病や高血圧が影響してだるかったり、関節炎で動きたくなかったり、原因はいろいろです。こうしたことも健康診断でチェックできます。
最後に、高齢猫との暮らしの魅力を教えてください。
私は、猫のお世話をするのが大好きなんです。「レグ君」は、年をとって体力が落ちたせいか、大嫌いだったブラッシングをやらせてくれるようになりました。夏にはサマーカットも必要なくらい毛玉をたくさん作ってしまうので、嬉しい変化のひとつです。長く一緒に暮らすと、どんな性格の子か、どうしたらくつろげるかも把握できるので、猫の気持ちを尊重しながら喜ぶことをしてあげられます。それに、高齢になった猫の介護ができるなんて幸せなことです。介護が必要になる年まで生きられる猫もきっと幸せです。最後まできちんとお世話をしてあげられるのは、「あなたのことが好きだよ」と伝えられる時間とチャンスをたっぷりもらっているのだと私には感じられます。
- 1. 排尿・排便は、日ごろの量・色と比較、体重は自分の体重を測るついでに、普段からチェック
- 2. 高い所へのアクセスはステップを設けるなど、好きな場所へアクセスしやすくする
- 3. 1歳の誕生日に健康診断をプレゼント
痛みや苦痛から解放された幸せなシニアライフを送ってもらうために、健康状態のチェックはまめに行いましょう。
海浜動物医療センター
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