猫オーナーを悩ませる愛猫の脱走。前編では、脱走は思いがけないトラブルで実は帰りたくても帰れない子が多いこと、そして脱走は飼い主さんにとっても、猫にとっても大きな喪失感を伴う大事件だということをご紹介しました。ここからの後編では、いよいよ実際に猫が迷子になったときにオーナーはどうすべきか徹底解説。前回と同様、成城こばやし動物病院代表の小林元郎先生とPET RESCUE代表の藤原博史さんに詳しく教えていただきます。
小林先生曰く、「もしうまく見つけられたとしても安心してはいけない。帰還後のケアが愛猫の健康になにより大切」だということで、今回は、猫が迷子になったときの効果的な捜し方はもちろん、戻ってきてからのケアや脱走予防策など、獣医師とペット探偵だからこそお話しできる情報満載でお届けします!
小林 元郎 先生
藤原 博史 さん
目次
オーナーの救世主、PET RESCUEとは
具体的にペット探偵はどのようにして猫を見つけ出しているのでしょうか?
出張捜索の依頼があった場合はできるだけ早く現地に向かい、飼い主さんに代わって捜索をします。まずは、その子の性格や状態、特徴などを伺い、捜索カルテと現地周辺の状況から捜索方針の組み立てを実施。その後、ポスターやチラシによる情報収集、聞き込み調査なども行い、居場所の確定と捕獲に臨みます。ただ現状は人手が足りず、たくさん出張依頼をいただいてもすべてにお応えできていないんです。出張できない場合には、ペットの犬猫オーナーのためのSNSアプリ「ドコノコ」で公開している「迷子捜しマニュアル」を参考にしながら、ご自身で捜していただいたりもしています。
捜索成功率8割という藤原さんの素晴らしい技術を、継承できる人材の育成が急務なんですよね。
そうですね。今まさにペット探偵の人材育成に力を注いでいます。また同時に飼い主さんが自分で捜せる仕組みづくりを模索し、満を持して「オンライン迷子猫捜しサポート」をこの秋からスタートしました。このシステム構築には、小林先生や仲間たちが協力してくれています。
このオンラインサポートは、「早く猫を見つけてあげたい!」と困っている猫オーナーさんにとって非常に頼りになるサービスだと思いますよ。
猫の捜索で大事なのは初動です。時間が経つと、どんどん遠くに行ってしまいます。だからこそとにかく早く動くことが大事です。オンラインサービスであれば、我々の到着を待たずとも飼い主さん自身に適切な捜し方をしてもらえるよう、しっかりサポートしていきたいと思っています。
猫が脱走してしまったら、どうすればいいの?
猫が脱走してしまったら、飼い主さんはまず何をするべきですか?
まずは、落ち着いてください。猫は耳が良いので、飼い主さんの不安な声を聞き分け、同じように不安になってしまいます。そうすると、猫は出てきません。「大丈夫だよ、安心していいよ」という気持ちで優しく名前を呼んであげてください。
迷子捜しの基本は、「できるだけ早く、できるだけ多くの目で」。加えて、効果的に進めることができればより発見の確率が上がります。
藤原さん直伝、猫捜しの手順&ノウハウを徹底紹介!
Step.1
猫の習性を頭に置きつつ、すぐにまわりを捜す
【POINT】室内猫は遠くに行かない!
【POINT】猫は壁沿いに移動する!
家猫が外に出てしまった場合、家の壁面に沿って移動する傾向がある。家から半径100m、遠くても500mを目安に、近所を一軒一軒回り、くまなく捜す。
【POINT】猫は快適な隠れ場所を見つけるのが上手!
猫は、暗くて狭くて静かな場所を好む。敵を想定し、逃走経路も考えている。警戒心の強い子は、夜間に移動。冬は暖かい日中、夏は涼しい夜間に活動することが多い。物置の下、軒下、自動車の下、植え込みの中などを重点的に捜す。
Step.2
翌日までに届け出をする
【POINT】行政機関などに迷子の届け出を!
迷子になった日時や場所、猫の特徴のほか、連絡先などをまとめて、地域の交番などに届け出る。チラシを添えると情報が伝わりやすい。届け先は、地域の交番、警察署、保健所、動物愛護センター。最悪のケースも想定し、地域の清掃センターにも連絡を。動物病院などに運ばれている可能性も。
Step.3
迷子チラシを作り、ポスティングする
【POINT】特徴がわかりやすい写真と情報を盛り込む!
迷子になった猫の特徴を記憶に留めてもらえるよう、チラシに情報を盛り込む。毛色や柄、しっぽの形、大きさなどが伝わる写真がGOOD。首輪や迷子札の有無も載せる。文字数はできるだけ少なく。メールではなく電話番号の記載がベター。
【POINT】半径100mを目安にポスティング!
猫の性格や身体能力を考慮してポスティング範囲を絞る。難しい場合は、半径100mを目安(家猫の場合)に。住宅地図を手に一軒一軒、隠れていそうな場所をのぞき込みながら、チラシを配る。
【POINT】話しかけながら配ると効果的!(毎日、同じ場所を通る人にも)
話しかけながら手渡すと、関心を持ってもらいやすい。犬の散歩や新聞配達、交通整理やタクシーの方など、毎日同じ場所を通る人にも配布を。ペットサロンや動物病院にも置いてもらう。
Step.4
捕獲する
【POINT】見つけたら観察し、捕獲できるかどうか判断を!
目撃情報が入ったらなるべく早く駆けつけ、付近を集中的に捜索。姿を見つけたらしゃがんで優しく名前を呼び、観察。時間をかけるべきか、捕獲器を設置した方がよいか、判断が必要!
警戒しないようなら名前を呼びながらゆっくり近づき、指を差し出す。猫が自分のにおいをすり付けてきたら保護できる可能性アリ。焦りは禁物。いったんその場を離れることも選択肢に。
【POINT】捕獲器には、空腹時でないと入らない!
警戒が強そうなら捕獲器が有効。入るタイミングは空腹時。入り口にトイレ用猫砂を、中には猫のにおいのついたタオル、普段の餌、好きなおやつなどを入れる。一度、捕獲器で保護された経験がある子は簡単には入らないので毛布によるカモフラージュなどの工夫を。
捕獲器は動物愛護センターや保健所での貸し出しが可能か確認を。地域猫ボランティアさんの紹介がある自治体もある。(PET RESCUEでも捕獲器やトレイルカメラのレンタルが可能です。詳細はHPまで。
家猫は、ものすごく近いところに隠れている可能性が高いです。自分の家から道路を横断しない1ブロックにある住宅の敷地を、しらみつぶしに捜すのが最優先ですね。
家の中にいても姿を見せないのが猫なんですよね。僕がワンちゃんの往診に行くお宅でも、同居猫がいるはずなのに姿を見たことがないことってたくさんありますから。
そうなんです。飼い主さんが「ここはもう捜した!」と言っていても、実はどこかに潜んでいるということが多いんですよ。自宅であれば何度でも捜せますが、お隣さんの敷地などは何度も入らせてもらうのは難しいですから、一度でじっくり丁寧に捜すようにしましょう。懐中電灯を使って、軒下やブロックの隙間などを念入りに。公園や繁みの中などにいると思いがちですが、猫は天井が開けている場所は嫌いです。人工物に囲まれた狭くて暗くて奥行がある場所を好むので、猫の気持ちになって捜してみることが大事です。
そのあたりは藤原さんが放浪生活で得た猫視点と、ペット捜索で培ってきた感覚ですね。
ホームセンターの物置や犬小屋で眠ったり、公園で野宿したりしているうちに、犬や猫の視点で景色を見られるようになっていましたね(笑)。彼らは快適な場所を見つけるのが本当に上手なんです。
ただ、実際には100匹いれば100パターンの捜し方が必要です。依頼されたら、生活環境や猫の性格、地形などを考慮し、一つひとつのチョイスを重ねながら、「その子」に合った捜し方を提案しています。ご自身で捜すときもマニュアルを参考にしつつも、猫の性格や行動パターンをよく考えて捜してください。
猫が戻ってきたら動物病院での体調チェック&脱走への備えを
猫が戻ってきたら、オーナーは何をすべきでしょうか?
Step.1
動物病院でしっかり診てもらおう!
猫が戻ってきたら、動物病院でしっかり診てもらってください。大きな外傷はわかりやすいですが、猫同士のけんかで咬まれたような傷はすぐに傷口が閉じてしまうため、パッと見て気づかないことがあります。その場合、しばらく経って細菌感染による膿瘍が形成されることもあります。また、相手の猫の唾液から猫エイズや、猫白血病等のウィルス感染も心配ですね。口の中の歯の状態なども含め、かかりつけの病院で全身をくまなくチェックしてもらいましょう。
体重のチェックも大切です。猫で体重が300g減っていたら要注意。飢餓状態にあるかもしれません。猫は飢餓に弱いんです。こういった変化に気が付くことができるよう、普段から体重を量り、健康管理しておくことがとても大事です。迷子という非日常でストレスにさらされていたはずなので、メンタルの部分もケアしてあげてください。
また、普段から飲んでいる薬がある場合はしっかりと獣医師に申告しましょう。かかりつけ医であれば、既往歴、処方歴なども把握できるのですが、もし、かかりつけ医がいない場合には、普段どのような生活をしているか、おなかを壊しやすい、食欲など細かなことをすべてお話しするといいでしょう。獣医師が、その子の体調の変化に的確に対応するためには、こういった普段の様子の記録がとても役立ちます。
動物病院で診てもらうことリスト
- 外傷、歯の損傷などのチェック
- 血液検査で、感染症などの確認
- 体重の大幅な減少がないか
Step.2
猫の脱走を防ぐために万全の準備をしよう!
猫が無事に戻ってきたら、脱走を防ぐための対策を再確認してみてください。「自分のペットは逃げない」という思い込みが、一番危険です。「逃げる可能性がある」と思って行動することが大切です。
わかりやすい色やデザインの首輪は、目撃情報を集めやすいのでおすすめです。迷子札は捕まえるまで確認できないですから。それでも、捕獲された後の連絡には効果的。ドアの飛び出し防止柵もいいですね。何より、飼い主さんの意識を変えることが大切だと思います。
脱走&迷子への備え
- 完全室内飼育にする
- 連絡先を記載した首輪
- マイクロチップ
- 飛び出し防止柵
- 特徴がわかる写真を撮っておく
小林先生と藤原ペット探偵から、猫オーナーへメッセージ
最後に、お二人から猫オーナーさんへのメッセージをお願いします。
衝動的、突発的に猫が逃げてしまうことを完全には防ぐことはできません。しかし万一のとき、初動捜索の時点で今回紹介したマニュアルや手順を知っていれば、とてもスムーズに捜索が進むのではないでしょうか。
また、かかりつけの動物病院を持つことも重要です。普段の様子を知っている先生、スタッフがいれば、迷子の猫ちゃんが戻ってきたときにも、いつもと同じか、変わったところがないか、すぐに気づいてもらえるはず。飼い猫の命と健康はオーナーが守るものです。動物病院を上手に活用して、大切な猫ちゃんをしっかり守ってあげましょう。
「生き別れ」というのは本当に辛く、なかなか受け入れられるものではありません。普段から逃げないための対策、逃げてしまったときのフォローをぜひ、お願いします。
迷子の子を捜している飼い主さんは、どうしてもマイナス思考になってしまいますが、私は「落ち着いて」「きっと大丈夫」という安心もお届けしたいと思っています。自分一人では限界があるので、後継の育成とともに、皆さんに還元できるペット捜しの仕組みづくりにも力を入れたいですね。小林先生と一緒に。飼い主さんがペットと再会できる可能性を高めるために、これからも精一杯取り組んでいきます。
動物と人をつなぐ仕事に人生をかけてきたお二人。お互いにリスペクトされている様子が伝わってきました。大切な猫ちゃんを守るため、ぜひ、普段の健康状態、そして脱走防止策にも注意してみましょう。
人と動物がもっとハッピーに暮らせるよう「今のフェーズにとどまらず、色々な可能性に挑戦したい」と小林先生は言います。さらに、猫ちゃんが通いやすい動物病院や診療の仕組みなども整えていきたいと今後の展望も語ってくれました。動物医療とペット捜索、それぞれの分野にとどまらず、業界を超えた化学反応が今後も楽しみです。