気がつくと愛猫が耳をカリカリかいている、おなかをペロペロ舐めている。癖かな?かゆいのかな?と思っていると、いつの間にか出血が……。そんな経験はありませんか?
今回はオーナーを悩ます猫の「かゆみ行動」について、徹底解剖。お話を伺ったのは、皮膚科の専門医師である島崎洋太郎先生(東京農工大学動物医療センター・皮膚科シニアレジデント)。普段から多くのかゆみトラブルを抱える猫たちに向き合ってきた島崎先生から、かゆみの原因や治療方法、かゆみ改善のために普段の生活の中でオーナーが気をつけるべきことなどを詳しく教えていただきます。
島崎 洋太郎先生
目次
愛猫とオーナーを悩ます、かゆみ行動とは?
かゆみ症状の出方は決まっている?
愛猫が体をかいている姿は可愛らしくもありますが、強くかいたり舐めたりし続けていると、病気かな?と心配になるオーナーも多いのではないでしょうか。
実は、猫のかゆみ行動(症状)は、大きく分けて4つの場所に出てきます。そして、それぞれの症状に名前がついています。もし愛猫にかゆがっている様子が見られたら、かいている場所に注目して、その原因を探っていきましょう。
猫のかゆみ症状 4パターン
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1. 頭頸部の掻破痕(そうはこん)
頭や首にひっかき傷。
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2. 粟粒性(ぞくりゅうせい)皮膚炎
背中や耳などに、たくさんのブツブツ。
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3. 外傷性(自傷性)対称性脱毛
皮膚を舐め、毛がちぎれて脱毛状態に。おなかなど舐めやすい場所に左右対称に出る。
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4. 好酸球性肉芽腫群(こうさんきゅうせいにくがしゅぐん)
口腔や太もも、腹部などに潰瘍や肉芽腫ができる。
動物病院では、これら4つの症状に対して、想定されるかゆみ行動の原因を検査で判別していきます。判別のため主に行うのが、次の4種の検査です。
かゆみの原因を探る、4つの基本的な検査
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1. テープテスト
テープで毛と皮膚に付いている物質を採取。その内容物を調べ、菌や炎症細胞の有無を確認する。
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2. 抜毛検査
毛を抜いて毛の状態や構造などを確認。オーナーに隠れて毛を引きちぎっていることや、生まれつきの毛の構造異常が発見されることも。
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3. スクレーピング検査
毛根部分の皮膚を削り取り、毛穴につく虫「ニキビダニ」の有無を確認する。
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4. ウッド灯検査
カビの一種、「糸状菌」がいるかどうかを、ウッド灯で照らして検査する。
どの検査もそう高額になることなく実施可能な病院が多いのではないでしょうか。愛猫のかゆみ行動が気になる場合は、ぜひ、お近くの動物病院や皮膚科がある病院で検査してみることをおすすめします。
かゆみ行動を引き起こす原因って?
猫のかゆみ行動の原因は、主に次の4つが考えられます。
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1. アレルギー性皮膚炎
ノミやダニなどによって引き起こされる虫由来のアレルギーもあれば、食物や環境由来(ハウスダストや花粉など)によって引き起こされるアレルギー、アトピー性皮膚炎の場合もあります。
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2. 感染症
寄生虫のほかに細菌やウイルス、糸状菌(カビの一種)などへの感染がよく見られます。脱毛やフケで気がつくことが多く、ほかの猫や犬、人にもうつることがあるので注意しましょう。
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3. メンタル、心因性
猫は犬や人と比較してデリケートな動物。実際にかゆいわけではないのに、かゆみ行動をとることが多々あります。特に保護猫などによく見られるのですが、原因が見当たらない場合には、ストレス要因である可能性を考える必要があります。
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4. 痛みや不快感
膀胱結石による膀胱炎、乳腺腫瘍の違和感などが気になって、しきりにおなかを舐めているというケースが実は少なくありません。「痛み」や「不快感」が舐める行為につながっていることがある、とぜひ、知っておきましょう。
治療で最も大切なのは、オーナーと猫との関係を悪化させないことです
猫は病院嫌いの子が多く、通院そのものが難しいケースもあります。つかまえてケージに入れるだけでも大変なもの。通院回数や処置を増やすたびに、猫がストレスを感じ、オーナーとの仲が険悪になってしまうことがあるので、私はオーナーとの関係を大切にする治療を心掛けています。
治療法は、その子によってオーダーメイド。症状が異なるのはもちろん、原因がいくつか重なっていることもあり、それぞれに合わせた薬を処方します。オーナーとその子のライフスタイル、生活環境などを考慮しながら、最適な治療法を一緒に考えていきたいと思っています。
治療においては、猫は塗り薬だと舐めてしまうので、基本的に「投薬」で症状の改善を目指します。一朝一夕には良くならないのが皮膚科の治療。「改善には時間がかかる」と覚悟を決めて、獣医師と二人三脚で、一緒に治療をがんばっていきましょう。
かゆみ行動や皮膚トラブルを悪化させないために、オーナーにできることは?
猫はとにかくストレスを感じやすい動物。そんな猫のかゆみ行動や皮膚トラブルを防ぐために、オーナーが普段の生活の中で、気をつけられること、やってみてほしいことをリストアップしてみました。挑戦できるものがあれば、ぜひ実践してみてください。
愛猫の皮膚を守るために、オーナーができる3つのこと
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1. 愛猫と良好な関係を築く
ストレスを感じやすい猫にとって、飼い主との関係性を良好にしておくことは、とても大事なことです。毎日しっかりコミュニケーションを取り、いろいろな場所を触ることができるようになっていれば皮膚症状に早く気づいてあげることができます。投薬では、顔を固定させる必要があるので、飼い始めの早い段階から頭をなでられるようにしておくことをおすすめします。
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2. トイレの数は、頭数プラス1個
きれい好きな猫は、既に使われたトイレでおしっこやうんちをしたくありません。我慢して膀胱炎になり、膀胱炎やストレスが舐める行動を引き起こしてしまいます。多頭飼いされている方は、トイレの数は「頭数プラス1個」にしましょう。プラス2個でもOK。余裕が大切です。
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3. 猫にシャンプーはしない
皮膚を患ったとき、良かれと思ってシャンプーする方がいらっしゃいますが、猫にシャンプーはご法度です。水が大嫌いだという理由だけでなく、猫には無症状の心臓疾患や腎臓疾患持ちの子が多いので、どうしても体に負担がかかってしまいます。
ブラッシングが必要な長毛種でも水を使ったシャンプーはやめておきましょう。かかりつけの獣医さんと相談し、洗い流さない泡シャンプーなどを試してみるのも良いかもしれません。うちの子たちも使っていますが、皮膚状態が良くなるような商品もありますので、おすすめです。
病院へ行くか迷ったら、出血しているかどうかをチェックして
来院の基準は「出血」です。猫は舌や爪の力が強いので、皮膚から出血しやすいもの。出血が見られたら必ず病院にかかりましょう。病院嫌いで重症化してから来る子も少なくないのですが、できれば早めに連れてきてあげてください。
島崎 洋太郎 先生からのメッセージ
インターネット情報を過信して自分流ケアをするのではなく、ぜひ、動物病院、専門医にかゆみの相談をしにきてください
皮膚科の治療は、ペットの皮膚トラブルにじっくり向き合い、長期的な目で見た治療やケアを、オーナーと一緒に行っていくことになります。何度も繰り返す皮膚トラブルやかゆみ行動に悩んだら、ぜひ皮膚科専門医の診療を。投薬のタイミングや頻度を変えるだけで、改善につながることも少なくありません。専門医の知識や経験を頼っていただければうれしいです。
また、ネット上にあふれるペット情報には、注意してほしいと思っています。心配でついつい色々と検索してしまいがちですが、ネット情報の過信には要注意。皮膚の治療においては、病院で処方された治療薬や医療用商品を正しく使ってあげることが何より重要です。
私も猫と暮らしているので、愛猫の皮膚トラブルやかゆみを治してあげたい、というオーナーの気持ちは痛いほど分かります。大切な愛猫の皮膚を守るために、お近くの動物病院や私たち皮膚科専門医にぜひ相談に来てください。