本企画「Vet’s Cats~獣医の猫の飼い方~」では、猫を飼っている獣医師に取材。実際に自宅でどのように飼われているのか、また、動物のプロとしてどのような注意をしているのかを伺います。
今回取材したのは、2匹の猫と暮らす動物行動学専門医の入交眞巳先生。動物の行動や心理に寄り添った「猫が幸せを感じられる飼い方」について紹介します!
入交 眞巳先生
目次
一時預かりから、“うちの子”になった2匹の猫たち
まずは、一緒に暮らしているネコたちとの出会いについて教えてください。
16歳(推定)の「海の進(かいのしん)」は、もともと実験動物として大学施設で飼われていました。引退後は供血猫として動物病院で暮らしていたのですが、ストレスで毛むしりをしたり、ケージの中でスプレー行為をしたり。いわゆる看護師泣かせの猫だったんです。今から9年ほど前、そんな海の進を年末年始休暇に私が預かることになったのが、一緒に暮らすきっかけです。休暇が明けて動物病院のゲージに入れようとしたら、ものすごく嫌な顔をして。「じゃあうちに帰ろうか」と、そのままうちの子になりました。
現在1歳半のFluffy (フラッフィー)は、生後間もない時に、友人宅の室外機の下で見つかった子猫です。3匹の子猫がそこで保護されて、お世話経験のある私が一時的に預かることになりました。3匹ともにミルクを飲んで成長していったのですが、フラッフィーだけは病気がちで里親に出さずにしばらく様子をみていたんです。そのうち主人が「この子はうちの子だ」と言い出して、結局そのままうちで暮らすことになりました。
それぞれ、先生を選んでこの家にやってきたような感じがしますね。
どうでしょう。(笑)ただ、海の進はうちでは毛むしりやスプレー行為をすることはなかったので、ストレスなく過ごせていたんでしょうね。フラッフィーは里親に出そうとしたときに、床に張り付くそぶりを見せていたんです。たまに下痢もありましたし、当時はそれを見て「体調が悪いのかな」と思ったんですが、今思うと知らない人が怖かっただけかもしれません。
年齢差のある2匹の猫たちは、今どんな関係なのですか?
くっついて眠ることもあり、基本的に仲良く過ごしています。ただ、フラッフィーはまだまだ活発に動きたい年頃なので、時おり海の進を追いかけてしまったりすることも。そんなときは別々の部屋に隔離して、ケンカにならないようにしています。
猫たちが幸せに暮らすための空間づくりや、お世話の方法とは?
2匹の猫たちの食事は、どのようにしていますか?
フラッフィーと海の進では、運動量も食事の量やペースも違います。ですので食事の場所は、海の進は台所で、フラッフィーはリビングでと、扉も閉めて別々にしています。フラッフィーの方が早く食事が終わるので、終われば寝室へおもちゃと一緒に移動。その後、海の進がリビングに出て来て、ゆっくり食事を済ますというように、お互いに食事のじゃまをしないように気をつけています。
並んで食事をすることはないんですね。
そうですね。最近、猫がかわいらしく並んで食事する風景がSNSなどにアップされていたりしますが、喧嘩せずうまくいくのは珍しいことだと思いますよ。猫は本来、1匹で食事をするもの。よっぽど気が合う分かり合っている猫たちなのかもしれませんね。
猫たちのために、どのようなグッズを用意していますか?
特別なモノを用意しているわけではありません。キャットタワー1つに、トイレ3つ、爪とぎ、ベッド4つ、キャリーケース、おもちゃいっぱい、など、猫を飼っている方なら持っているだろうグッズばかりですよ。
特別なものは、必要ないんですね。
そうですね。気をつけていることといえば、「隠れられる場所」や「高いところにすんなりと上ることのできる動線を作っておくこと」でしょうか。 猫は緊張したり不安な時に高いところに上りたがりますし、1匹の時間も欲しい動物。だからこそうちでは、いつでもさっと隠れられるように、クローゼットの扉を必ず開けておく、可能な場合は、家具を壁から少し離して配置しておくなどしています。怖がりなフラッフィーは、来客時は夫のクローゼットの奥にいつも隠れていますね。
また、キャリーケースはいつも寝室に出しておいています。隠れ場所にもなるし、慣れておけば病院などに行く際に嫌がらず入ってくれるようになるので、普段使いしておくのはオススメです。
動線づくりでは、キャットタワーの上からトイレまで、ソファやテーブルなどを使ってすんなりと降りてこられるよう家具の配置を工夫しておくなど、家にあるもの使って、猫が快適に暮らせるようにしていますね。
家具の配置などで気をつけることはありますか?
高いところに上がりっぱなしではなく、必ず下に降りてこなければならない動線を作ることでしょうか。ぐるっと高い場所を一周できるように家具を配置すると猫が下に降りなくなることも。こうなると災害や病気など捕まえなくてはならないときに苦労するので、必ず一度は下に降りくる動線を作っておくといいようですよ。キャットウォークを作成する建築の専門家に教えていただきました。
日当たりのいい場所や眺めのいい場所も好きなので、そういった場所に落ち着けるスペースを作っておくのもいいと思います。また猫は物を落とすものです。落とされて困るものはしまっておき、出しっぱなしにしないことも重要です。
猫の幸せ空間を作る3つのポイント
- 1. ゆっくり自分のペースで食事できる場所を作る
- 2. 1匹になることのできる空間や、さっと隠れられる場所を作る
- 3. すんなりとキャットタワーに上ることができる動線を確保する
病院に行く時や災害時に捕まえられないので、ネコが高いところに上ったまま生活できてしまう動線にしないようにしましょう。
グッズ選びで、気をつけていることなどはありますか?
トイレは大きなものを用意することですね。うちには2匹共用のトイレをリビングに2つ用意し、海の進用に台所にも1つ置いています。
様々なトイレがありますが、すんなりと猫が入れてのびのび用を足すことのできる大き目サイズがおススメです。
爪とぎは、それぞれの好みに合う素材のものを用意しています。今は麻素材がうちの子たちに人気。以前は海の進がカーペット素材を好きだったので畳の部屋にカーペットを敷き詰めて、「どこでもどうぞ!」という環境を作ったことも。今やブームが去ったのか、カーペットで爪をとがなくなってしまいましたが……。
好みはそれぞれの猫で違うので、革のソファでよく爪をとぐ子には革素材を、布が好きそうなら布素材をなど、質感や硬さを好みに合わせてあげることが大切です。
猫の安全のために気をつけていることはありますか?
ドアノブを開けられるようになれば、猫はどこにでも行けるようになります。ですので、危ない場所には行けないようにドアにチャイルドロックをかけておいたりしています。
その他気をつけていることといえば、ドラム式の洗濯機のドアをきちんと閉めておく、などですね。
入交先生の猫グッズ選びのポイント
- 1. 大き目トイレを用意する
- 2. それぞれに好みの素材、硬さの爪とぎを用意する
- 3. 危ない場所にはいけないようにチャイルドロックをつける
猫用の特別なものを用意しなくてもOK!
家具やクローゼットを利用して、幸せ空間を作ろう。
猫は2歳児と同じ。
「無理強い」や「叱ること」に意味はありません。
猫がケアを嫌がった際には、どのように対処していますか?
嫌がったら、無理にケアを続けません。嫌がる子に無理やり歯磨きをしたら、もう二度と歯磨きをさせてくれなくなりますから。
嫌がったらやめる。そして、おやつを使って少しずつ慣らしていくなど、時間をかけて根気強く、嫌がらずできるように訓練するのがポイントですね。
歯磨きだって、ブラッシングだって、今日全部やらなければならないことはありません。今日、右上半身がブラッシングできたなら、明日は左上半身をなど、ゆっくり焦らず猫に向き合ってあげることが大事だと思います。
何事も毎日できたらいいですが、そうもいかないもの。私も同じです。(笑)
焦らず、ゆっくりやっていきましょう。
思わず叱ってしまうという人も多いようですが、叱ってしつけることに意味はありますか?
意味はないですね。叱ってもいいことは何もないんです。猫は2歳児と同じ。言葉が通じないので、「なんだかこの人、怖い顔で大きな声を出しているぞ」と怯えたり、問題行動につながったりするだけです。
しつけは報酬を使ってするのがベスト。「いいことをすればおやつがもらえる」、「うれしいから、またいいことをする」この繰り返しでしつけていくのがいいですね。
たっぷり褒められて、美味しいものをもらって猫は幸せになります。このしつけ方法で、人間も一緒に幸せになってください。
毎日の健康チェックはどうしていますか?
食事やトイレの内容をチェックして、食欲はあるか、水は飲んでいるか、吐いていないか、などは毎日気にしています。またそれ以外では、これまでできていたことができなくなった、などの変化がないかもチェックしますね。
例えば、これまで飛べていた高さや距離が飛べなくなった、トイレを急に外すようになった、爪をとがなくなった、など。ちょっとした変化も、どこかが痛いのかもしれないし、病気のサインなのかもしれない。気づいたら、なるべく早く病院に連れていくようにしています。
また、体重もなるべく定期的に計るようしています。ベビースケールがあれば、正確に計れるので便利です。
入交先生の猫ケアのポイント
- 1. 嫌がるときはケアをやめて、無理強いしない
- 2. おやつを使って、ゆっくりとケアに慣らしていく
- 3. 毎日きっちりケアしなきゃダメ、という意識を捨てる
暴れたり、嫌がったりしても叱らないで。できたらおやつをあげるなど、褒めて伸ばそう!
ありがとうございました。最後に猫のオーナーの皆さんへメッセージをお願いします。
猫と一緒に幸せにくらしていくためには、「猫がやってはいけないことをできない環境」を作ってあげることが大事だと思っています。
例えば綺麗な置物を飾りたくても、壊れやすいのならば猫のいる部屋には飾らないなどの工夫が大事です。いくら叱っても、「ダメよ」と優しく言っても、彼らは触りたいものは触るし、行きたい場所には行くし、かじってみたければかじります。2歳児の好奇心の前に言葉は無力。ぜひそれを知ったうえで、猫と暮らしてください。
また、最近では猫を多頭飼いする方も多くなっています。新たな猫と先住猫の相性は、会ってみるまで分かりません。迎え入れる際には、トライアルの期間を設けるなど2匹の様子を見られるようにしましょう。そして飼い始めた後に、どうしても仲が悪い場合には別々の部屋で一生暮らすこともある、その覚悟をしておいてくださいね。
猫との暮らしは本当に楽しいものです。猫にもたっぷり幸せを感じてもらい、ぜひ一緒に幸せになりましょう。