本企画「Vet’s Cats~獣医の猫の飼い方~」では、猫を飼っている獣医師に取材。実際に自宅でどのように飼われているのか、また、動物のプロとしてどのような注意をしているのかを伺います。
今回取材に伺ったのは、東京港区の猫専門病院「Tokyo Cat Specialists」の山本宗伸院長。3匹の愛猫との気ままな暮らし方について紹介します!
目次
10歳で初めて触れた、猫の魅力
まずは、先生が初めて飼った猫との出会いについて教えてください。
10歳の頃、1匹の子猫を保護したことが私の猫人生の始まりでした。その子猫はなぜか私の家の庭で独りぼっちで鳴いていたんです。保護した当時は100グラム程度。おそらく生後1日も経っていなかったのではと思います。当時、小学4年生だった私は、猫を育てた経験のある母と近隣の獣医師のアドバイスをうけて、ミルクをあげたり、お尻を拭いて排せつを促したりしました。
猫は一日一日大きくなって目が開き、その成長をそばで見ているのが、とても楽しかったですね。その後、無事に3キロほどまで成長したこの猫は、ラッキーと名づけられて生涯我が家で暮らすことに。ラッキーは、私が大学6年生になるまで元気に生きてくれました。
ラッキーとの出会いがきっかけで、獣医を目指されたんですか?
そうですね。猫を育てることも楽しかったですし、もともと生き物や動物が好きだったので、やりたいこと、好きなことを仕事にするなら獣医学かなと。建築学にも興味があって最後まで迷ったのですが、やはり獣医を目指すことにしました。
おかげで必死に勉強することになりましたが、晩年、悪性リンパ腫を患ったラッキーを自分でケアすることができましたし、この道に進んでよかったと思っています。
3匹の猫たちと一緒に穏やかな毎日を
今、一緒にくらしている猫たちについて教えてください。
今は3匹の猫と一緒に暮らしています。
最初にやってきたのが、小笠原諸島出身の保護猫「カツオ」です。オス猫を飼うのは初めてだったのですが、想像よりも活発で甘えん坊でしたね。
カツオの数カ月遅れでやってきたのが、ノルウェージャンの姉妹、「ホタテ」と「ハモ」です。彼女たちは友人のクリニックで保護され、とても仲良しだったので姉妹で迎えることにしました。これまで長毛種の猫は飼ったことがなかったのですが、毛もよく抜け落ちるし、なかなかケアが大変だということが、実感としてよくわかりました。
それぞれの猫たちは、どんな性格ですか?
ホタテとハモは姉妹でとても仲が良いんですが、この2匹とカツオは、あまり仲良くありません。特にホタテは気が強いので、よくカツオと喧嘩しています。ハモは気が弱くて、ご飯のときも最後に出てきてカツオに横取りされちゃうようなタイプです。
一方でカツオは、人間とはとても仲良しなんですよ。人懐っこくて、突進してきたり、頭突きしたり。よくじゃれついてくるので家族にもとても可愛がられていますね。
先生と猫たちは、いつもどんなふうに過ごしているのでしょうか?
帰宅したときには、3匹全員が迎えにきてくれます。部屋にいるときは、カツオは積極的にゴロゴロしてきて、ホタテは見える場所で、のびのび好きなように過ごしていることが多いです。ハモはとても控えめで大人しいので、物陰に隠れていますが、なぜかパソコン作業をしているとそっと寄り添って来ます。
それぞれがいたい場所にいて、好きなときに好きなように触れあって、というように過ごしています。
3匹の猫たちの食事は、どのようにしていますか?
フードは自動給餌器を並べて使っていますね。同年齢なので同じ量を同じ時間にセットしているのですが、カツオが食べるのが早いので他のコのフードを奪っているのか、ちょっと肥満ぎみです……。
おやつは、普段はあまりあげず、特別なときに少しだけあげるようにしています。
猫たちのために、どのようなグッズを用意していますか?
キャットタワーが2つと、爪とぎ、ベッド、ハンモックなど基本的なものしか持っていません。おもちゃはすぐに壊れるので、同じものを複数買って壊れたらチェンジするようにしています。基本は、ねこじゃらしタイプのおもちゃ。ホタテはレーザーポインターが好きなので、携帯のライトなどでも遊んでくれます。爪とぎはそれぞれ好きなところでやっていますね。
日々のケアはどうしていますか?
長毛種はブラッシングが必要ですね。ホタテは毛玉ができやすいので、毛玉はこまめにカットしています。ケアについては、嫌がるときは無理せずに。「今やらなきゃ」と、あまり固執しないことがポイントですね。基本的にシャンプーなどはしていません。
山本先生流。猫とゆったり暮らすコツ
- 1. それぞれのペース、距離感を尊重する。
- 2. あそびグッズは壊れる前提で気軽なものを買う。
- 3. おやつやケアの回数について厳しくルールを決めない。
食事、おやつの量は適切に管理しなくてはいけませんが、必要以上にルールに縛られることはありません。猫たちを観察して、適切なお世話を無理のない形でしていけばよいと思います。
猫にストレスなく暮らしてもらうには
猫に安心してのんびり過ごしてもらうために、必要な環境とは?
危ないものは置かないことが大事ですね。こまめに片付けて、部屋をすっきりさせておくといいと思います。
猫は高いところに上りたがるので、キャットタワーや棚など上り下りできるものをおいています。その他にも、ちょっと隠れることができる場所を作ると安心できるようです。
今、家の窓際で使っているのは、マグネット式のシェードなのですが、紐が首に絡まったりせず使い勝手がいいですね。隠れる場所として猫もよく活用しています。
猫がストレスを感じているかどうかチェックする方法はありますか?
1997年に作られたキャットストレススコアがあります。古典的な評価方法ではありますが、心配なときはこれを参考にするといいかもしれません。体やおなか、あし、しっぽなど部位の様子によってどのくらいのストレスが猫にかかっているか、ある程度判断することができます。
家の中で猫がおなかを出して寝っ転がっているようであれば、かなりのリラックス状態なので安心してください。私自身は猫たちを観察して、何気ないしぐさや姿勢で、自然とストレスチェックをしているように思います。
正直、猫が一番かわいいと思っています
先生が目指しているのは、猫とのどのような暮らしですか?
理想は、猫たちが静かにゆっくりと暮らせて、飼い主とのコミュニケーションもしっかりと取れている暮らしです。猫たちが気ままに、穏やかな毎日を送ることができればと考えています。
先生が思う、猫の魅力を教えてください。
何よりも見た目が可愛いですね。目が大きくふわふわとしていて体も柔らかい。そして、マイペースな性格もいい。私もマイペースなので、お互いに無理をせず、気が向いたときに遊んだり、くっついたり、自然と一緒にいられるところに大きな魅力を感じていますね。正直、猫が一番かわいいと思っています。
猫独特のつかず離れずの距離感を保っていながら、突然甘えてくる、そのギャップに魅了される人も多いのでないでしょうか。その他にもハンターとしての野性的な身のこなし、チーターやライオンを思わせる歩き方や高い運動能力は、かっこいいなと感じます。
ありがとうございました。最後に猫のオーナーの皆さんへメッセージをお願いします。
猫が家にいてくれると、それだけで毎日が楽しくなるものです。私自身、ずっと猫と一緒に生活をしてきたので、猫のいない暮らしは考えられません。家に帰ると玄関で出迎えてくれる3匹の猫たちがいることで、心が和み、癒されます。
ときには高いところから降りてきてくれず困ったり、ものが壊れたり、インテリアに制限がでたりしますが、それは猫と暮らすうえでは仕方のないこと。猫を見て癒されながら、猫にも人にも心地よい環境を作り、ぜひ一緒にくつろいでください。
山本先生流。猫の快適空間づくりのコツ
- 1. 引っかかる、倒れる、壊れるなど、危ないものを置かない。
- 2. 上り下りできる高い場所、隠れられる場所を作る。
- 3. ストレスチェックで緊張や怖がる素振りに気づき、フォローをしてあげる。
- 4. 無理やり環境に馴染ませようとせず、ゆっくり気長に馴染むのを待つ。
犬よりも野性的でマイペースであり、扱いづらいといわれる猫ですが、そこがまた可愛い。ぜひその魅力に触れて、より一層猫との仲を深めてください。